第3話 蛇とカモメ
(2)エセル
「ランディング」
無線で管制に告げ、エセルの乗った戦闘機が着艦する。誘導員の指示通り、空母ケンドルの甲板にすっと無駄なく収まった。
「相変わらず素晴らしい着地だ。新型機はどうだったかな」
エセルがコックピットから降りようとすると、大佐に声をかけられた。
ソル連邦・新型戦闘機“コーパー”の空軍基地から空母までのテスト飛行。それが今回の任務だった。エセルの乗るコーパーには整備士が気をきかせて、トレードマークである蛇のノーズアートを描き加えてくれていた。
――蛇は今でも嫌いだ。でも、あの人と出会わせてくれた。
だから、エセルは幸運のお守りとして愛機にはいつも蛇のノーズアートを付けていた。
「え、えーと。ヒロイズ君。どうだったかな、機体は……」
物思いにふけっていて、大佐を無視してしまっていた。
「前回同様、すこしまだフットバーの“あそび”が多い気がしますね。どうせ乗るのは熟練のパイロットなので、もっと少なくていいでしょう」
課題点を端的に答え、甲板をとんとんと歩いていく。
「なるほど、助かるよ」
エセルの後ろをご機嫌をとりながら大佐がついていく。普通なら一介のパイロット相手にありえない光景だ。
だが、ソル連邦のエース・パイロットであり“戦争の女王”と呼ばれるエセルには関係のない話だった。彼女の意向であれば、腰の重い軍上層部もすぐに動く。彼女がいなければ、西海戦争におけるソル連邦の前線が今の半分にまで下がるとさえ言われている。
――凡百のパイロットを寄せ集めた航空師団より、空を統べるエース・パイロットの乗った戦闘機1機の方が戦力となる。
それこそが、何者も覆すことのできない空戦場の鉄の掟だった。地上戦では、兵士の数がものをいう。だが、空では違う。
量より質。
空戦において敵機を仕留められるタイミングは限られる。大勢が一機に同時に攻撃をしかけるのは不可能であり、それゆえに空戦は切り取られた個人戦の継ぎ接ぎとなる。どんなに数を集めようとも、実質は1対1の勝負の連続であり、だからこそエース・パイロットは負けることがない。
エセルが、負けることはない。
それでもソル連邦が貴志国と一対一の攻防を繰り広げているのは、貴志国にもエース・パイロットがいるからだ。
――カモメのノーズアート。
エセルは、それを墜とさなければならない。そうしないと、きっとグラデス島は敵の手に落ちるから。
――あの人と、会えなくなるから。
絶対に、この手で、カモメを墜とす。
エセルは改めて固く決意する。
蛇とカモメの戦い。
西海戦争は、その結果いかんで勝負がつくと噂されていた。