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現代の死神 ‐ローズレッド‐  作者: 江渡由太郎  原案:J・みきんど
第一章 現代の死神
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8 覗き込む目

 連日の雨のためか託生は気が滅入っていた。

 降りしきる雨の雨粒が窓ガラスの楽譜に音符を記譜している。


 窓側に座りながらそれを演奏する雨音に耳を傾けていた。

 夕方に帰宅したこの一戸建ての自宅の中に居るのは、託生独りである。

 帰宅してからのことを回想していた。


 外扉のドアノブであるレバーハンドルを握り扉を開けようとしたが、施錠されているため開かなかった。

 風が吹き、砂埃が舞い上がる。託生はめんどくさいと思いながら、鞄から自宅の鍵を取り出すと外扉の鍵を解錠し玄関に入った。


 いつもどおり玄関で靴を脱ぎ内扉のドアノブであるレバーハンドルに手をかけたが、扉を開けることを躊躇った。


 扉の向こう側の居間から複数の人の話し声が聞こえてきた。

 母親が帰ってきいて居間でお客と話しているのかと思ったが、玄関に託生が今脱いだ靴しかなかった。


 だとしたら母親がテレビ番組でも見ているのだろうと思い、内扉のドアノブを握り扉を押し開けた。

 その瞬間、先程までのにぎやかな会話の声が一瞬にして掻き消えた。


 居間には沈黙と静寂が託生の帰宅を迎え入れた。

 そんなはずはない!託生は家の中の部屋という部屋を、母親の姿を探し回った。

 その時に、一階のトイレの照明の灯りがついていたのに気がづいた。


「やっぱり居たんじゃないか!」

 託生は安堵した。


 先程の複数の人の話し声はテレビ番組か何かで、託生が扉を開けたのと同時に、母親が偶然テレビの電源を切ってトイレに行ったために、家の中を隈無く探し回っても見つけられなかったのだと結論付けた。


 託生は母親が室内に居るトイレの扉をノックした。

 木製の扉が三度軽く叩いた音が静まり返っている家の中で響いた。

 扉の向こうからの何も返答はなかった。

 

 再びノックしてみた。

 やはり返答がない。

「お母さん」

 扉の向こう側へ声をかけたが、返答はない。


 急に起こる眩暈や失神などで倒れているのではないかという不安が、脳裏を過ぎった。焦る気持ちを抑えながら、扉をゆっくりと開けてみた。

 しかし、そこには母親の姿はなかった。


 今いるこの現実世界から分岐し、それに並行して存在する別の現実世界へと迷い込んでしまった感覚に襲われた。

 託生は混乱したまま、トイレの照明のスイッチを切って扉を閉めた。


 そして、確認のためにもう一度、自宅の二階の部屋や一階の部屋など探した。やはり母親の姿はなかった。

 一階の廊下を通りトイレの前に来ると、先程トイレの照明はスイッチを切って確実に消したはずなのに照明がついていた。


 扉をゆっくり開けてみたが、誰の姿もない。

 再びトイレの照明のスイッチを切って扉を閉めた。


 幹博が霊的なものは電子機器に影響を与えたりすることや携帯電話のカメラ機能や動画機能で撮影することもできると話していたのを思い出した。

 託生はスマートフォンのカメラ機能を起動させた。何か写ったら写真を撮って証拠にしようと考えたからだ。


 スマートフォンを片手に持ちながら、玄関から歩き始めた。液晶画面には家の中が映しだされている。

 注意深く液晶画面に映し出されるものを見ていた。

 すると、丸いシャボン玉のようなものが一階の居間の中を流れるように移動して一階の天井の壁の中へ消えてしまった。


 託生は次の機会があればシャッターを押せるように、目を凝らして目標に神経を集中して待ち構えた。

 それは直ぐに訪れた。


 スマートフォンのシャッター音が居間で響いた。

 やった!託生は手応えを感じた。

 携帯電話の液晶画面を操作し撮影された画像を確認する。


 シャボン玉の泡のようなものが数珠繋ぎのように一階のフローリングの床から天井の方へ向かって昇っていた。

 その球体のことを託生は幹博から聞いたことがあった。


 オーブ現象と呼ばれているもので、白い半透明の球体がビデオカメラや写真に写り込む不可解な物体で霊的なものだと言われている。


 またはカメラの光学現象というもので埃や塵、レンズの汚れがカメラのフラッシュの光が反射した原因で写真に写り込むものだあるため霊的なものではないとも言っていた。


 託生はその正体が何なのか確かめるために、今度は二階へと上がり、さらに何かないかとスマートフォンの液晶画面を食い入るように見つめていた。


 弟の部屋の扉を開けてみた。真夏に部屋を閉め切っていたために、蒸し暑い空気が託生を襲った。先程と同じような球体が不規則な動きをして壁の中へと消えた。

 階段の踊り場の壁から先程の球体は姿を表し、そのまま母親の寝室への壁の中へと消えた。


 母親の寝室の扉を開けると先程とは打って変わって肌寒いほど冷えていた。

 エアコンが作動しているわけではないのに、真冬のように吐く息まで白かった。


 スマートフォンの液晶画面を見ていると異変が起こった。

 カメラの液晶画面に人間の顔の片方の目の部分が大きく映し出された。


 得体の知れないその目は、託生のスマードフォンのカメラのレンズを覗き込んでいるのだった。

 託生は液晶画面から恐るおそる視線を離し、目の前の部屋の中を見た。

 誰もいなかった。


 再び、液晶画面へ戻した。

 もうそこには、先程の覗き込んでいる目は映し出されてはいなかった。


 これ以上は危険だと思い、その場を離れることにしたのだった。

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