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現代の死神 ‐ローズレッド‐  作者: 江渡由太郎  原案:J・みきんど
第一章 現代の死神
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7 深夜の訪問者

 その日の夜、託生はスマートフォンの電源も切り、部屋のあらゆる電化製品の電源を切るためにプラグを壁のコンセントから抜いた。

 真っ暗な部屋で孤独だった。託生は冷たくなったベッドの上に疲労しきった重い体を横たえると、直ぐに眠りに落ちた。


 どのくらいの時間が経過したのかわからない。突然、何かの気配を感じ目覚めた。

 以前と同じ感覚であった。研ぎ澄まされた神経で注意深く意識の触手を自分の周りに張り巡らせた。


 金属が軋むような金属音が耳鳴りとなり濁流のように押し寄せてきた。

 それに抗う術もないが、抵抗するかの如く、精神の集中力に全力を注いだ。


 猛々しい耳鳴りが突然止み、沈黙が波紋のように広がっていく。

 だが、恐怖は感じなかった。

 そして、託生の耳元でざわめく複数の話し声が聞こえ始めてきた。


「人は死を悼む……」

「人の死には二つあり、この世にもたらされたのが肉体の死である。肉体の死を迎えた時、魂は少しずつ、肉体から分離してゆく……」

「精神の死とは、死んだ人の事を思い出してくれる人が一人もいなくなった時のこと……存在の死……すなわち魂の死のこと……」

 そんな会話が託生の耳元で聞こえた。


 複数の話し声の主たちの会話に託生が気づいていると知られたら、死後の世界へと連れて行かれるのではないかという不安が脳裏を過ぎった。


 瞼を開けて会話している声の主の姿を確認することすらできなかった。

 託生にできたことは、心の中で早く去ってくださいと必死に祈ることだけだった。


 暫くすると複数の声は聞こえなくなり、暗い部屋の中には再び静寂が訪れた。

 恐るおそる瞼を開けると、そこには誰もいなかった。

 自分だけの存在が確かにこの部屋にあるだけだった。


 突然、CDミニコンポの電源が入った。

 アンプ、プレーヤー、スピーカーを組み合わせて構築したオーディオシステムの機器の電源は今夜に限っては絶対に入らないはずなのである。


 なぜなら、就寝前に託生は部屋中の電子機器のプラグを壁のコンセントを抜いたからである。

 唯一電源のスイッチを入れて起動するのは天井に設置されている照明のみなのだ。


 オーディオシステムの機器のスピーカーが部屋の静寂を崩したのだった。


 ラジオの受信状態が悪い時の雑音が入り、そして深夜放送のラジオ番組の音声がスピーカーから流れてきた。音量も不安定であり音が波のように形を変えて、再びラジオの受信状態が悪い時の雑音へと変化してから音は消えた。


 先程の一瞬の出来事はまるでなかったかのような静けさだった。

託生は何が起こったのか理解できないまま、硬直し身動きできなかった。

 暫く心を落ち着かせるために深呼吸を何度か行う。


 そして、問題のCDコンポのプラグと壁のコンセントを確認した。

 プラグは壁のコンセントから抜いてあり、暗闇の中で床の上に軀になっている蛇のように転がっていた。


 この状態では絶対になど電源など入るはずはなし、ましてや託生は普段からこのオーディオシステムの機器でCDからの音源しか聴かないのである。


 ラジオの設定はまったくしていないため、深夜放送のラジオ番組の音声がスピーカーから流れてくることもないのだ。


 原因不明の怪現象に納得する答えも見つかるはずもなく、とにかく疲れているんだと自分に言い聞かせて、託生は再びベッドに横になった。


 しかし、気持ちが高ぶっているせいでなかなか寝付けなかった。


「精神の死とは、死んだ人の事を思い出してくれる人が一人もいなくなった時のこと……存在の死……すなわち魂の死のこと……」

 託生は先程、複数の声の主たちの会話を思い出して口に出していた。


 肉体的な終焉と精神的な死の違いについては、十六歳の託生にとっては遠い先の話のはずなのだが、今は何故か身近に感じずにはいられなかった。


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