2 隠され続けた闇 弐
幹博の父親はいつも矛盾する発言やその時々でいつも言うことがコロコロと変わって、周囲の人からも”あなたは嘘しか言わない”とか”佐野さんの言っていることは信じないけど、奥さんの言っていることなら信じる”など言われており、職場などでは特に信用がなかった。
子供の嘘のように直ぐにばれるような、その場しのぎの発言が多く状況に応じて主張がコロコロ変わるため、話を何度も聞くたびに綻びが生じてきていた。
家族がその矛盾を指摘しても、幹博の父親は”記憶にない”とか”言った覚えがない”などと言い、都合の悪い発言は忘れてしまうので、言った言わないの水掛け論で終わってしまうのだった。
幹博の父親は幹博に対しては、否定することが目的なので、父親の収入が足りないために幹博が幾つもバイトを掛け持ちして家にお金を入れて、病気の母親の世話や家事など行っても否定する二重拘束を繰り返すことで、幹博はうつ病に追い込まれてしまったのだ。
幹博の父親は自分の面子やプライドを守るため、周囲の賛美の言葉や注目を集めるため、人を陥れるために情報操作をしたり平気で嘘をついていた。
いかに自分が悲劇なのかを誇張するために、”俺は家族に虐げられている”とか”女房と息子がグルになっている”など大袈裟にしたり、自分に都合のいい部分だけをつなぎ合わせたり、虚実入れ混ぜた話を創作して幹博や母親を悪い人に仕立てあげた。
嘘をついているうちに幹博の父親は自分のプライドを守るために自分自身を欺くために、自分にとって都合の良い作り話を真実だと思い込み、現実とは違う都合の良い作り話のことを本気で主張していた。
幹博の父親は自分にとって都合の悪い出来事を記憶から消去したり、記憶を改ざんすることがよくあった。
家族は父親が常日頃から大酒飲みで会社でも”アルコール依存症”だと言われていることから、過剰な飲酒のために記憶が曖昧または記憶力が悪くなっているのですぐに忘れているのではないかと思っていた。
家族や職場の人からのアドバイスを小馬鹿にしたような顔で聞き流しておきながら、翌日にはまるで自分があたかも考えたかのような顔でその意見を主張しては、自分は賢くお前たちは馬鹿だと言っているのだ。
幹博が毎年父親の誕生日やクリスマスにプレゼントを贈ったり、正月にはアルバイト代からお酒を買ったりお年玉をあげたりしても、父親は何一つしてもらったことを覚えていなかった。
してもらったことを忘れてしまうのは、多量の飲酒のせいであると思っていた。
幹博の父親は自分がしてやったことばかりを主張したり、”おまえが誰の子か分からないけど、俺は認めてやったんだ。偉いだろう!”とか”俺は子供が産めない女が好きなんだ!”など家族の心を深くえぐるような言葉を浴びせておきながら、翌日には何も覚えておらず何事もなかったように話しかけていた。
自分の失言や態度で、相手に避けられると自分のやったことは記憶にないため、反省するどころか不義理だとなじったり”俺を虐げている”などと風潮して歩くのだった。
「僕はもう限界なんです。父親と一緒の空気を吸うのも嫌なんです」
幹博はひたすら黙って話を聴いている臨床心理士に言った。
幹博の父親は自分より優れたものの存在を認めると不安定になるため、相手の劣った部分ばかりに目を向け、見下し軽蔑することで才能や優秀さを無視していた。
父親はよく”俺は家を建てたけど、兄貴は家を建てていない”とか”俺は会社員だけど兄貴は違う”など、自分の兄弟をよく軽視した発言をしていかに自分が優れた優秀な人物かということを主張していた。
お兄さんに嫉妬していると認めることは自分の負けを認めることになるので、嫉妬の自覚を持たないまま、相手が不幸になるよう足を引っ張る行為を繰り返して、兄弟仲は劣悪状態であった。
「佐野さん、うつは心の病気ではなく、脳内伝達物質の機能不全が原因なんです。強い不快感によって扁桃体が興奮するとストレスホルモンであるコルチゾールが増加し、セロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質が十分に機能しなくなり、不安感や焦りが抑えられなくなったり、意欲がなくなり無気力になることで鬱が引き起こされます」
イライラしているのを堪えていたり、自分の感情をコントロールできなくなり勝手に涙を流してしまっている幹博に臨床心理士は言った。
幹博の父親は初対面では自分の味方に引き入れようと面倒見が良い優しい人を演じていた。
幹博が友人に父親のことを相談しても、実際に父親と会った友人たちは皆口を揃えて”良いお父さんじゃないか”と言うのだった。
幹博の友人たちとも話上手で言葉匠に相手の懐に入り込み、気に入られたい相手にはつらかった自分の過去話を打ち明けて相手の同情をかったりしていた。
付き合いの浅い内は饒舌で明るく楽しい人に思えるが、親しくなると配慮がなくなり、相手を道具のように利用したり振り回す暴挙にでるため、親しくなった友人や会社の同僚などが皆、幹博の父親の元から去ってかかわらないようになっていた。
そうなると、”俺は一匹狼”だと虚栄を張り、自分の愚かな行いを反省したり後悔することはなく、相手が自分を捨てたなど都合のいい記憶を作り出して風潮したのだった。
幹博の父親は自分の非を決して認めることができず謝れまれない性格であった。
家族の間でも”俺に謝れって言うのか!”と激高することも度々であった。
幹博の父親は自分に不利なことを言われたり自分が望まない流れになると、無視をしたり、小学生のような直ぐに見破られる目先の嘘をついた。
不利な状況に苛立ちを感じ声を荒げながら”その言い方は何だ!”とか”お前にも駄目なところはあるだろう!”などと逆に攻撃し本質的な話し合いをごまかそうとしたのだった。
ある時には、幹博の父親は落ち着き払った態度で、幹博や母親が自分に対して常軌を逸したおかしな言いがかりをつけてきた悪者に仕立てあげ、自分の方が被害者であるかのように”悲劇の主人公”を演じてそれらしく振る舞い、話をすりかえたり論点をずらすのだった。
また、幹博の父親は自分の都合の悪いことを言われた後は”あー! 面白くない”と言っては酒を煽って飲み続けたり、ため息をついたり物に当たったり、飼っている小型犬のパピヨンやチワワに八つ当たりや嫌がらせをしたり、母親には”仕事から帰ってきて疲れているのに!”とか”お前がギャーギャー喚くからイライラして車の運転でスピード違反をした”と嘘をつくなど、母親に対して罪悪感を与えていた。
「だから、俺も母も父に対しては”言うだけ無駄”とか”言わなければよかった”と思うようになってしまったんです」
幹博は自分の感情を制御しきれず、悲しくないのに目から涙が溢れ出てしまっていた。




