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現代の死神 ‐ローズレッド‐  作者: 江渡由太郎  原案:J・みきんど
第二章 現実の世界
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1 魂の宿った人形 壱

 莉奈は夏休み前に託生が学校へ持ってきた不思議な写真をの一枚を見ていた。

 それには年代物の古い日本人形が写っていた。

 莉奈はその日本人形に見覚えがあった。


 先日、夏物を出すために祖母が以前使用していた和室の押し入れから衣装ケースを出し、衣替えをしていた。

 押し入れに衣装ケースをぶつけた時に、押し入れの天井の裏からひとつの桐の小箱が落ちてきたのだった。

 その桐の小箱の中には日本人形が納められており、託生の写真の日本人形と同じ種類のように見えた。


 祖母の私物だと思いせっかくなので、人形を箱から出し玄関に飾るために置いた。

その後に少しの間外出していたのだが、帰宅すると玄関の側の階段の上にその日本人形があるのである。


 莉奈が出かけている間に母親が帰宅して、人形を移動させたのかとも考えたが、出かけて十数分しか経過していない。

 近くのコンビニエンスストアへ行って帰ってきただけなのでそれは考え難かった。

 莉奈はとりあえず日本人形を玄関の棚の上に再び置いた。


 写真を眺めていると突然携帯電話の着信音が鳴り響いた。

 スマートフォンの液晶画面には母親からの着信を表示している。


「お母さん、どうしたの?」

「莉奈、お母さんね、今夜病院の夜勤が入ったから今夜は一人で留守番お願いね」

「はいはい」

 莉奈は電話を切ろうとした。


「それから……」

「ん!?」

「なんでもないわ……あとはお願いね」

 母親からの電話が切れた。


「それからって何なの? 気になるじゃない!」

 莉奈は母親からの電話が切れたスマートフォンを握ったまま独りごちた。


 一戸建ての家には莉菜が独りっきりである。父親は出張で帰ってこない。母親は看護師として夜勤で帰ってこない。


 冷蔵庫の中にあるもので簡単にサラダを用意して食卓テーブルのあるダイニングで食べた。

独りで食べるのには慣れている。

 今夜は慣れているはずの食事がとても違和感を感じた。


 最近、夜勤で月十日程は母親と会えない夜を過ごしているのだが、知らずしらずのうちに寂しさを育んでしまっていたのかもしれない。


 父親は金曜日の夜に帰ってきて土曜日と日曜日は家にいるがそれ以外は出張で帰ってこない。

 帰って来ても会話もないのが日常的だった。


 そんな家族の形を疑問にもったいないようにしてきた。

 祖母が家にいる頃はおばあちゃん子であり、寂しさを包んでくれた。

 しかし、二ヵ月前から母親が勤務している病院で入院しているのだ。


 莉奈は自分で用意した独りっきりの寂しい食事を終えた。

 食事中の違和感は消えない。


 誰かに見られているような視線を感じる。

 莉奈はそれは気のせいだと思うようにした。

 寂しい感情が生み出した錯覚のようなものだと。


 食器を台所の流し台へさげた。

 一度気にしだした視線は莉奈の中で不安として膨れ上がっていく。


 気分転換のために入浴することにした。

 温かい湯に浸かれば嫌な気持ちも忘れて癒されるものだと思った。


 莉奈はお気に入りの入浴剤を脱衣室にある戸棚から取り出した。

 薔薇の香りの入浴剤を選んだ。


「ローズはリラックス効果あるんだよね」

 独りであることも忘れて気持ちを弾ませていた。


 バスタブへ湯を溜めるために湯を注ぎ始めた。

 扉を閉めて一旦この場を離れようとした時、莉奈は先程感じた何者かの視線を感じた。

 辺りを見渡すが誰もいない。

 気のせいだと思い湯が浴槽に溜まるまでの間、十分ほどこの場を離れた。


 浴室から浴槽に湯が溜まった時を知らせるアナウンスが流れた。

 莉奈はバスタブに湯が溜まるまでの間、スマートフォンで託生や幹博と連絡をとっている最中でさえ、何かの視線を感じた。

 気にしてるから意識してしまうのだと思い、なるべく違うことを考えるようにしていたのだ。


 脱衣室へ着き浴室の扉を開けようとしたら、鍵がかかっていて開かなかった。

 何で!?莉奈は混乱した。


 浴室の扉の鍵は浴室の内側からかけることができるが外側から鍵はかけられないのだ。

 莉奈は扉を引いたり押したり叩いたり揺すったりと考えうる限りの動作を試しが扉は開かなかった。

 浴室の内側でバスタブから溢れだしているお湯の流れる音が莉奈を更に窮地へと追いやった。


 莉奈は幹博へ電話をした。

 浴室の扉の鍵がかかって外側から開けられないことを伝える。


 幹博にドアノブの種類を聞かれ、丸いドアノブだと伝えた。マイナスドライバーを入れるような鍵穴を回すように言われたが、ドライバーセットがどこにしまってあるのかも分からない。

 こうしている間にもバスタブからお湯が溢れ出し排水溝へ流れ続けているのだ。


 莉奈は自分の人差し指の爪をドアノブの鍵穴らしき部分へ引っ掻けて回してみることにした。

すると、解錠されて扉が開いた。急いで元栓を捻りお湯を止めた。

 スマートフォンで通話中の幹博に礼を言って電話を切った。


 莉奈はなぜ浴室の内側の鍵がかかったのか考えたが、当然答えは見つからなかった。

 たまたま何かの拍子に鍵がかかったのかもしれないということにして気にしないことにした。

 浴槽にはなみなみと湯が張られている。いったいどのくらいのお湯を無駄にしたのかと考えると冷や汗が出た。


 そこへ薔薇の入浴剤を投入した。

 ローズレッドの香りに包まれた。


 莉奈は浴室でリラックスしていた。

 先程のどたばた劇がまるでなかったかのようである。

 莉奈は長い髪にシャプーで洗髪した後、トリートメントを髪に馴染ませていると、浴室の扉の向こうに人の気配がした。


「誰かいるの?」

 莉奈は家の中には誰もいないはずなのを承知で声を出した。

 返答はなかった。


 不安が心を支配しようとしていた。

 この扉を開けて脱衣室に誰か居たらどうしようという妄想が、さらに不安を煽る。

 莉奈は長い沈黙の後に勇気を出して、ドアノブに手をかけた。

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