Who am I
僕が聞いたものはなんだったのか。
僕が知っているのは何か。
僕はなんで生きてるんだ。
僕は何のために在るのか。
僕は
僕は
僕は
僕は
僕は
僕は
僕は
僕は
僕は
僕は
僕は
僕は
僕は
僕は
僕は
僕は
僕は
僕は
僕は
僕は
僕は一体誰だ。
悪い夢を見た。
目を開けたら記憶が戻っていればいい。
そう思って目を開けた。知っている顔が見えた。
「愛……」
「あ、起きた」
「なんで……」
「なんでってお前が俺を見た瞬間に倒れるからだろ?」
「そ、そんなこと……」
「そんなことないって?でも、事実だぜ。お前、ドアを開けた記憶あるか?」
「あ、ある」
「じゃあ、そのあと何があったか覚えてるか?」
「そ、それは……」
おそらく愛の言う通りなのだろう。僕はドアを開けておそらく倒れたのだ。
そして愛によって部屋に運ばれ今僕は彼女に膝枕をされている。
「よく運べたな」
「お前軽いからなーちゃんと飯食ってるか?」
「ここ数日食欲なくて……」
「数日?夏は一日に良くて二食、最悪食べないやつがよく言えるよな」
「う……」
「図星だろ?あ、まだ起き上がらなくていいからな」
「いや、でも足、痺れるだろ?」
「気にすんな」
「気にする」
「なんで?」
「女の子だから」
「はいはい、その言い分は聞き飽きた。ほら、寝ろ」
「いやだ」
「まだ不服か?」
「ああ」
「なんで」
「彼氏がいる女の子にそんなにベタベタ出来ないだろ。愛の彼氏に悪い」
「関係ない」
「なんで」
「今の優先は侑唯だ」
「……」
「あ、今日侑唯まだ飯食べてないよな?」
「う、うん」
「んじゃあ俺作るわ」
「いや、悪い」
「あれ見てもまだ言えるのか?」
愛が指したほうを見る。
そこにはおそらく僕の家の近くで買ったと思われる食材が詰まったビニール袋があった。
「め、愛?」
「安心しろ、俺は今日からここに住む」
「は、は!?」
「ん?」
「い、いや、お前彼氏さんは!?」
「別れた」
「な、なんで!?」
「それはな、お前のことが心配だからだよ」
「……」
「んじゃー台所借りるからなー」
そういって愛は袋を持って台所に入って行った。
「はあ……」
僕はため息をつく。そして愛に聞こえないくらい小さな声でつぶやく。
「愛は格好良すぎるよなあ……」
あくまで女の子に言わない言葉を言うから声を小さくしただけで別に愛に対して悪い言葉を言うためなんかではない。
「ん?なんか言った?」
しかし、愛には聞こえていたようだ。聞き取れていなかっただけまだいい方だろう。
なんであいつはあんなにも地獄耳なんだと思いながら僕は全く関係ないこと言う。
「愛、あのぬいぐるみ、なんであるんだろう?」
「知るか、お前が買ったんだろ」
「愛はああいうの好き?」
「どのぬいぐるみだよ」
「段ボールに入ってたやつ」
「あーあれか、俺も好きだよ。でも侑唯もあれ好きじゃん」
あくまで僕に記憶があった前提で愛は話を進めている。それが嬉しくもあり、戸惑いでもある。
「そういえば、寝室にいっぱいおいてあったな」
「捨てた?」
「いや、捨ててない」
可能性は1%にも満たないがもしかしたら僕には彼女がいてそのこの趣味だった。みたいな奇跡を信じて捨ててはいなかったがまさか僕の趣味だったとは思いもよらなかった。
そしてその可能性に掛けて愛に聞いてみる。
「そういえば僕に彼女いたっけ?」
「いるわけないだろ目覚ませ」
愛は鬼なのかもしれない。
あくまでも事実を正確に僕の心に突き刺してくるのは変わらない。
それが彼女の優しさなのだろう。
そして僕はその優しさが大好きだ。
「侑唯、皿どこにあんの?」
「えーっと、戸棚の一番右にない?」
「あ、あった、ありがと」
「どういたしまして」
しかし、人とかなり久しぶりに話した気がする。
僕が連絡を絶っていたからである。
友人の記憶はある。でも、本当は忘れていたら。
本当は別人だったら。本当は僕の思い違いだったら
記憶がないだけで不安になる。
外に出ようとしただけで過呼吸になった。
マズイ。
そう思って僕は寝室に入る。
愛にばれないように。
眩暈を感じてベッドに倒れこんだとき僕の呼吸はまともなものではなくなっていた。
息が乱れる。正常な呼吸というものが分からなくなる。
心拍数が跳ね上がる。手が痺れだす。
分からない。思考回路が真っ暗になる。
ひたすらに腕を噛む。痕がつくことはいとわない
ただその不安から逃れるために僕は涙を流す。
不安だから、怖いからわかっている。
こんなことをしても意味がないことは知ってる。
ただ僕の頭にあるのはいかに愛にばれずに呼吸を戻すかだ。
体が動かない。わからない。もう何もかもが分からないのだ
何分たったのかさえもう覚えていない。
分かることは倒れこんだことだけ。そしてまだ気付かれていないはず。という希望観測だけだ。
いつの間にかさらに呼吸が乱れていく。もう自分ではどうしようもないくらいに。
遠いところで声がするような感覚に落ちていく。
僕は腕を引っ掻いた。
愛はその引っ掻いた腕を握って何かを言っている。
僕は愛されるべきじゃない
僕は優しくされるべきじゃない
僕が助けを求めたら迷惑がかかる
僕はいない方がいいのかもしれない
僕は死ぬべきなのかもしれない
なんでって?
それは僕がいると迷惑がかかる
僕がここにいると愛に迷惑がかかる
僕がいると、だから、ぼくは、も、う、し、んだほ……うが、いい
「侑唯!!」
声がした。曇った声がした。きっと愛の声。
愛は何をするんだろう。うっすらとそんなことを考えた。
愛は僕をきつく抱きしめて言った。
「侑唯!ツラいなら言わなきゃわかんないだろ!心配するから一人で我慢するな!」
僕は何も言わない。いや、言えない。
結局僕は愛に助けられた。
愛のいったとおり僕は呼吸を整えて、僕は手のしびれが取れるのを待った。
その間愛はずっと僕の手を握っていた。
愛は僕に言った。
「別に甘えろとは言わないけどツラいときくらい頼れ。じゃないと俺がお前の家にいる意味がない。あと、腕を噛むな。無理をするな。あと、」
そこから愛が何を言ったか僕は覚えていない。
僕は泣きながら愛の手を握る力を少し強めた。
愛は笑って僕の頭を撫でてから頬にキスをした。
「もう大丈夫……」
「ほんとか?」
「うん」
「ならいいけど、無理すんなよ。飯、まだ完成はしてないからちょっと横になっとけ」
「ありがと」
「どういたしまして」
僕はぐちゃぐちゃになったベッドの上に横になって自分の腕を見る。
そこには僕の歯形がと引っ掻いた痕が混ざって見るも無残なものになっている。なかには出血している部分もある。
シャワー浴びる時染みるだろうなあ。なんて思いながら僕は目を閉じた。