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White Memory  作者: 北嶋悠
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White note

朝起きたら記憶が無くなっていた。

それは幸せなことなのか不幸せなことなのか。

僕には記憶がない。なぜかと聞かれたら起きたらなくなっていた。

というしかないのである。

僕には記憶がない。もう一度言う。僕には記憶がない。

意外にも両親の記憶は消えておらず、お気に入りの本のタイトルや好きなアーティストの名前すらちゃんと記憶に残っているのだ。

だけど、僕は今まで接していた人間すべての情報を忘れていたのである。

つまりだ。僕が今開いているTWETARRのフォロワーの名前もフォローしている人も僕の頭からはきれいさっぱりなくなっているのである。

分かるのは好きなアーティストの公式アカウントとbotだけ。自分の使っている名前さえわからない。「未侑」と書かれた僕のアカウントと思われるアイコンをクリックし、自分のつぶやいた言葉を見る。

「明日は莉央さんとオフ会ー! 楽しんできますっ!」

と書かれていた。

莉央さんって誰だよ。そんなことを考えながら日付を見た。そのつぶやきが投稿されたのは昨日。つまり、今日がその莉央さんとオフ会をする日。

どうすればいいんだ。僕は莉央さんのことを知らない。全く知らないのだ。

記憶があるにせよないにせよ初対面には変わりがないのだが今まで話してきた趣味趣向すべてが僕の頭から消え去っている。マズイ。いやマズイなんて問題ではない。

そんなことを思って焦っていると突然家のチャイムが鳴った。

僕は訳も分からず返事をしドアを開けた。

「宅配便です。ここにサインしていただけますか?」

宅配便が来た。有名なインターネットショッピングサイトのロゴが見える

僕は宅配便のお兄さんから受け取ったボールペンでサインをしその箱を受け取った。

「ありがとうございました」

お兄さんがドアを開けて外に出ていくのを待って僕は部屋に戻り段ボールを開ける。

段ボールから出てきたのは全く知らないぬいぐるみ。

なぜこんなものを注文したのか僕には理解ができない。

自分の趣味だったのか、もしくは誰かに贈るためのものだったのか。

頭の中にはてなを浮かべて僕は床に寝そべる。

僕は目をつぶって記憶が戻らないか何かを必死で考える。何分か経って僕は考えるのを止めた。

目を開けて時計を見る。さっきから10分程度しか経っていない。

僕はオフ会に行くべきかどうかを考えようとして、根本的なことを思い出した。

「記憶喪失になったってつぶやけばいいんだ」

僕はばかだ。まったく思いつかなかった。

急いで文面を入力しつぶやくを押す。

つぶやいて何秒か経って携帯がすごい勢いで震えだした。

僕は携帯を見る。

するとおそらくフォロワーさんと思われる人から返信が大量に届いている。

それを見ていると画面が着信中の表示に切り替わる。

僕は恐る恐る通話開始のボタンを押し、その声に耳を傾けた。

「もしもし……?」

「もしもし、侑唯(ゆい)?記憶無くなったって…ちゃんと生活出来てるの!?」

「え、えっと……」

「あ、そっか、記憶、ないんだもんね……ごめん、取り乱しちゃって……」

「お、おれは」

「愛だよね?」

自然とその名前が出た。僕は彼女を知っている、なぜか知らないが、唯一知らない名前の中に知っている名前を見つけたのだ。それが通話相手の根元愛(ねもとめぐみ)だった。

「お、覚えてるの!?」

「うん。愛のことだけ。なんか知らないけど」

「な、なんで……!?」

「わかんない、一番お世話になってるからかな?」

「今日、オフ会行くの……?」

「わかんない、だけど断るのもなんか悪いし……」

「そういう優しいところは記憶が無くなっても健在なのな」

「優しい……?そんなことないって」

「そう?普通自分のことを中心に考えない?今お前、緊急事態なの分かってる?」

「さあ、わかってないのかもしれない」

「ま、とりあえず今からそっち行くわ」

「え、まって、愛おれの家知らないじゃん!」

「ん?残念ながら知ってんだよねこれが」

「な、なんで……」

「まあ細かいことは気にすんな。あ、あと、今日のオフ会雨だから中止にするってよ」

「え、え!?」

「んじゃまた後で」

そこで通話は切れた。

しかしあれだけ慌てていたのに途中からはいつもの愛の喋り方で少し安心した。

フォロワーの中で僕の名前 | (漢字も含めて)を知っているのは愛だけだ。

細谷侑唯(ほそやゆい)これが僕の本名だ。おそらく未侑という名前は本名から一文字取ったのだろう。

そんなことを考えているとチャイムが鳴った。

いや、早すぎるだろ。

そんなことを思いながら僕はドアを開けた。



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