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桜舞う季節の午後

学園ものでBLです!学園ものは初挑戦なので、試行錯誤しながら書いてますが、少年たちの恋心、少しでも楽しんでいただけると幸いです。

《学園での午後》


〉 1.



《学園アリス》。


付属幼稚園から大学まである超巨大学園。

敷地内は東京ドーム5、6個分はありそうな程広く、校舎以外にショッピングモールまである始末。


大学以外の学年は全て22クラス。

一クラスの生徒数は30人前後。

学園行事ともなれば、回り中、人、人、人、人、の人の海と化す。


そんな学園アリスの現理事長で、設立者の孫にあたる有栖川竜雅ありすがわりゅうが、54歳。

彼には少々困ったところがある。


それは…。



「じいちゃんまた誰か引き取るんだって?!

いい加減にしろよ!

ご飯作ってくれる雅美さんの身にもなれよ!!」


お昼休みの理事長室。

玉露と、桜を形取った高級和菓子に舌鼓していた竜雅のもと。

彼の孫の有栖川煌輝ありすがわこうきが勢い良く扉を開けた。


15歳の高校1年生。

一応主人公である。

赤身みがかった褐色の髪をつんつんに立たせ、首にはシルバーのネックレス〈違反〉。

小さな長方形のプレートに太陽の形をした石をはめ込んだ、シンプルなデザインである。


本来はネクタイ着用であるが、入学式のとき以来していない。

わざと上ボタンを二つほど外し、肌着代わりに着ているTシャツが見えるようにしている。


身長は167センチと、年頃の少年にしては小柄だが、まだまだ成長期。

靴のサイズはすでに27センチということからも、今後充分期待できる。

もう一つ云うならば、彼は《攻》である。

ゆえに、この話が進むにつれ、身長も伸びればかっこよく成長していくことも、まず間違いないのだ。



だだっ広い学園内。


高等部の校舎である《フライ》から、理事長室のある建物サンまで、走ってもゆうに10分はかかる。


それを煌輝は7分で辿り着いた。

さすがにきついらしく、大きく肩を上下に動かし、喘ぐように息をした。

そんな孫に、竜雅は他人事のように


「若いっていいねぇ」


などと呟き、玉露と桜を形取った和菓子を勧めるのだった。



「…みんな《また?!》と言うが、しかし、私のおかげでみんな出会えたのだろう?

おまえだって。

おまえが愛して病まない六華と出会えたのは誰のおかげかな?

私が引き取らなかったら、今頃彼は、他の男にあの柳のように細い腰を振っていたかもしれないなあ」


和菓子を頬張りながら、実に恐ろしいことを言って除ける祖父。

その言葉に、煌輝は危うく和菓子を喉につまらせるとこであった。


一気に玉露を流し込み、軽く息を吐く。

全く気にした様子もなく、知らんぷりで玉露をすする祖父を一睨み。

最も、その睨みにすら、目の前の祖父は動じなかったのだけれど。


理事長室の横に作られた応接室。

そのソファにどっしりと腰掛け、綺麗に整えた口髭を撫でる竜雅。

プラチナゴールドの髪は隙のないオールバック。

その姿はさがら、初老の英国紳士を思わせた。


しかし。


その姿とは対照的に、おおよそ紳士からは果てしなく遠い竜雅の言動。

中身はまさしく、中年親父そのものである。


「そりゃあ、六華のことはじいちゃんには心底感謝してるけどさ。

でも我が家の人数も、少しは考えたほうがいいんじゃないか?!

じいちゃんさ、今あの家に何人住んでるか分かってるのか?!

そりゃあ、かなりデカい家だから、人数増えても狭いとは感じないけどさ…」


「16人だろう?たいした数じゃないと思うが…。」


眉間に小さな皺を寄せ、もう一つ和菓子を口に放り込む煌輝。


そんな煌輝の問いに、竜雅は即座に応えて。

その口調からは、もう2、3人増えても問題ないといった様子さえ伺えた。


超巨大学園アリス


その半端ではない数の生徒数、並びに職員たちを束ねる有栖川竜雅。

彼にとっては、16人という人数は、本当にたいして気にする数ではないのであろう。


そんな超巨大学園を、ゆくゆくは煌輝が継いでゆくわけであるが。

しかし。

今はまだ、幼さの残る高校生。

祖父のスケールのデカさには、まだまだついていけそうになかった。



現理事長、有栖川竜雅の困ったところ。


それは気に入った人間をすぐに引き取ってしまうところ。


もしかしたらそれは、今は亡き竜雅の父。

前理事長の有栖川雅人ありすがわまさとの影響もあるのかもしれない。


竜雅には二人の弟がいる。

大学部で機械工学エンジニアの現役教師をしている有栖川竜艶ありすがわりゅうえん、49歳。

そして、竜雅が6歳の時に雅人が息子として有栖川家に迎えた入れた、桜花おうか

現在43歳。

桜花は高等部の現役数学教師をしている。


そんな父、雅人を見てきたせいか、竜雅も一人、養子縁組をした。

ただ雅人と違うのは、竜雅は養子縁組だけにとどまらなかったところである。


竜雅には、二人の息子がいる。

煌輝の父で、学園アリス現校長の佳雅かいがと、先に名前の出た雅美みやびである。

そして父、雅人と同じく、息子として養子縁組した、もう一人の子供、遊楽ゆら


さらに、桜花の息子として引き取った子供、六華りっか

桜花にはすでに、二人の息子、緋苑ひえん紫苑しおんがいたにもかかわらず、だ。


そして


「気に入ったから」


と、別の高校から引き抜いてきた体育教師。


竜雅は彼とその娘も自宅に住まわせている。

理由は、どうやら色々あるようであるが。


名前は逢瀬鐘詠おうせしょうえい

娘は響綺ひびきという名前である。


そんなわけで、有栖川家の人口密度は、他の一般家庭と比べて異様に高い。


しかもどういうわけだかこの有栖川家、女性運が非常に薄い。

竜雅は二度結婚し、二度とも離婚に終わった。

佳雅と雅美の母親は、違う女性なのである。


佳雅は結婚する気がないといって、当時付き合っていた女性を振った。

ただ、すでに子供はできていたため、《男の責任》ということでその子供は引き取った。

それが煌輝である。


雅美の妻は双子の子、瑠璃るり玻璃はりを産んですぐ亡くなった。


竜雅の弟の竜艶も、結婚する様子は全くない。

二人の子供は母親が違うだけでなく、相手すら定かでないという始末である。


もう一人の弟、桜花の妻もまた、子供を産んですぐに亡くなったのである。


そろいもそろってそんな状態な訳だから、有栖川家の女っ気は非常に薄い。

野郎共13人にたいして、女はたったの3人。


最も、女にしとくのが惜しいくらい漢気おとこぎ溢るる娘たちではあるのだけれど。


ちなみに。

食事を作るのは煌輝がいうようにもっぱら雅美で、女性3人はあまり作ろうとはしない。

もちろん手伝ったりはするが。


女性と縁遠い有栖川家。

母親に代わって息子や家族の食事を作るようになって約十年。

炊事は雅美の生活の一部になっていた。


十年というキャリアもあるわけだから、今やその辺の主婦には劣らない腕前。

煌輝や雅美の子供たちにとっては、まさに《おふくろの味》なのである。


そんなわけで、既に大家族になっている有栖川家。

いまさら一人増えたところで確かにあまり変わらないとは思うところだが。


しかしやはり。


どんな人間がくるのかは、気になるところ。

その人が美人であればなおいい!

とか、思わず期待してしまうところ。


「で、どんな人なの?」


目を輝かせ、小さな子供のように期待の眼差しを向ける孫に、内心


「まだまだ子供だな」


と思いつつ。


玉露をひとすすりし、口髭を撫でながら小さく


「ふむ」


と竜雅は頷いた。


「正確にいうと、引き取るんじゃなくてうちで一緒に暮らしてもらうことにしたんだ。

そのほうが喜ぶ人物がいてね。

おまえはとっくに聞いてると思ったんだがな。

何も聞いてないのか?

自分の父親なのに…」


「?

いったい何の話だよ…」


竜雅の話に疑問符を飛ばして、質問を返そうとした、その時。


「父さん、今度一緒に暮らす菖蒲のことで話が…」


ノックがして、父、佳雅が入ってきた。

予想しなかった人物の姿に驚き、思わず佳雅は目を丸くした。


「随分と珍しい人物の姿があるじゃないか。

いったいどうした?

いつも昼休みは、六華にべったりくっついてるはずだろう?」


どういう気紛れだ?


とほんの少し眉間に皺を止せ、佳雅は煌輝を見た。

どこか気まずい様子だ。


「もちろんずっとひっついとくつもりだったよ。

さっきまでは一緒だったしさ。

でもじいちゃんがまた誰か引き取るって六華がいうからさ。

いい加減、気に入ったからって誰かれ構わず引き取るの、やめたほうがいいと思ってさ」


抗議にきたわけ☆


と、少々軽い口調で質問に応えた。


鈍感というか、身内に対してはほとんど気を遣うことがないこの少年。

父の


《おまえがいるとまずい、早く退室してくれ》


という表情には、全く気付く様子もなかった。


そんな息子に、佳雅は諦めたように溜息を一つ、小さく吐いて。


「いずれは話さなければならないことだ。

よかろう。

私から説明しよう。」


面倒臭そうに煌輝を見、彼の隣に腰を下ろしながら、もう一つ溜息を吐いた。



「早ければ今月末には有栖川家に来てもらうつもりなんだが…。

私の恋人だ。

おまえもよく知ってる人物だよ。

桜沢菖蒲さくらざわあやめ

学部は違うが、緋苑の同級生だ。

うちにもよく遊びに来てただろう?

同じサークルとかなんとかで…」


「あの子なら私も大歓迎だよ。

美人だし気立てもいいし、料理も上手だしね」


説明の途中、竜雅が実に嬉しそうに口を挟んだ。


竜雅自身、その《菖蒲》とかいう子を相当気に入っているのだろう。


「美人」

「気立てがいい」


という単語のあとに、ハートマークが付いているのが誰の目にも分かった。

一方煌輝は、佳雅の発言にしばらく動けなかった。


本当に急に、何の前触れもなく突然、


「恋人がいる」


と父親に打ち明けられたのだから、当然といえば当然だが。

茫然と佳雅を見ていたが、やがて大きく溜息を一つして腕組みをした。

これは悩んだり考え事があるときの彼の癖だ。


「なんていうかさ、突っ込みどころは満載だと思うけど、まずは一つ。

教師がなに生徒に手ぇだしてんだよ!!!」


隣に座る佳雅に、今にも喰ってかかりそうな勢いで煌輝はいった。


第三者が聞いたら、おそらく先に抗議すべきところがあると思うだろうが。

しかし、そこは《鈍感》な彼。

物事を深く考えない性格の持ち主。


「結婚する気がない」


という理由で振った女の子供である自分がいるにもかかわらず。

しかもその自分には一言の相談も報告もなく。


「恋人がいて今度から一緒に暮らす」


など。

かなりありえない話。

だというのに。


「だいたいさ、緋苑の同級生ってことは今19だろ?

14歳も年下の恋人なんて、自分の年齢考えろよ。

それに、確かに菖蒲さんは緋苑といい勝負の、相当な美人だけどさ。

…男じゃん?」


自分に報告がないことよりも、そういったところが気になるようであった。


「突っ込みどころ満載」


というその言葉通り、確かに《満載》である。


「来月二十歳だぞ?」


「同じだって」


くだらない会話である。


竜雅は一人、窓の外を眺めながら玉露をすすった。


「早いほうがいいなら、今夜からでもうちに来てもらえばいいんじゃないか?

必要な着替えだけ持ってきてもらって。

何なら少しずつ荷物を運んできたらいい。

部屋は空いてるところから好きなとこを選んでもらって構わないのだから」


目の前でうるさくボケとツッコミを繰り返す息子と孫に、竜雅は静かに言い渡すのであった。

まだ1話目なので、BL要素全然なくて、楽しみにしていた方には申し訳ありませんが、これから徐々にえっちぃシーンも入れていきますので、お付き合いしていただけると幸いです。

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