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虚飾の舞踏会  作者: 猫柳
第一章  魔王の言い分
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追う者、追われる者 1

深い森の、ともすれば見失ってしまいそうなほどに分かりにくい獣道を進みながら、ディルは感心したような声で言った。


「よくもまぁ、こんな細い道を見失わずに歩けるな。昔から住んでいればそうなるものなのか?」

「いいえ?勘のようなものですよ。なんとなく見分けられるんです。それに、私がこの森に来たのはつい最近のことですよ」


茂みを掻き分けながら、エセルは事も無げに言った。


「最近?」

「えぇ。貴方と同じように、森に倒れていたらしいんです。全く覚えてないんですけどね。いつの間にかシミオンに引き取られていて、それより前の記憶はないんです。不思議でしょう?」


クスクス、とエセルは笑う。ディルは反応に詰まったのか、困ったように首をかしげた。


「不便じゃないのか?それは」

「特には。自分がどこの誰だったのか、気になる時はありますけどね」


ふと、エセルが足元から顔を上げ、正面を指差す。


「ほら、見えてきました。あそこがここから最も近い街、ルーネです」



  ◇◆◇◆◇



ルーネは王都から少し離れた場所にある、割と大きな街の一つだ。

エルザイ王国の貿易の要は、陸路と水路、それぞれある。そのうち陸路は山脈の尾根と尾根の間をすり抜け、街道を伝って王都へとたどり着く。その街道に建設された街の一つがルーネなのだ。


「やはり大きな街は活気があるな……」


大通りに溢れる人の波を物珍しげに眺めながら、ディルは目を細めた。目立つ紅色の瞳は、今は魔術か何かを使ったのか、深い焦げ茶に変わっている。エセルは「そうですね」と軽く相槌を打ちながら、のんびりと人の波を掻き分け……あれぇ?と首を傾げる。


「どうした?」


突然足を止めたエセルに、ディルが不思議そうに問いかける。するとエセルは三拍ほど間を開けて、えへ、と笑った。


「迷っちゃいました」

「……、……。……は?」


どうして目印も何もない森の中では迷わないのに、街に出ると迷うんだ。こみ上げてきた疑問を飲み込んで、「ど、どうするんだ」と問う。


「とりあえず、見覚えのある建物はないか?それか知り合いは……」

「うーん、どうしましょうか。まっすぐ歩いてれば着きますかね」

「着かないだろう、それは」


そうですよねぇ、とエセルははにかんだ笑みを浮かべる。きょろきょろと辺りを見回した少女は、「まぁよくあることですから」と励ますように言った。


「とりあえず、こういう時は道を教えてくれそうな方を探して聞けばいいと思います。あ、あの人に聞いて……」


エセルが近くの男性に話しかけようとした時、不意にその男性がこちらを向いた。そして、エセルの頭上をすり抜け、ただ一点に視線を向け、固まる。

状況の掴めないエセルが振り返ると、ディルが人波に飛び込んでいくのが見えた。まるで何かから逃れるように、その姿は一瞬で飲み込まれ、見えなくなる。


「デ、ディル……?」


きょとんと首を傾げ、それからエセルは慌てて彼を追おうとした。しかし、後ろから腕を取られ、思い切りつんのめる。


「……っ」

「あぁ、すみません。貴方は、さっきの男性と知り合いなのですか?」


彼女の手を掴んだのは、さっきこちらを向いて固まっていた男性だった。さらりとこぼれ落ちた金の髪を耳にかけ、エセルを覗き込むように問いかける。その空色の瞳の奥にはどこか必死な色が見え隠れしており、エセルはこくり、と頷いた。


「そうですが……あなたは?」


問い返された男は、少々口篭った。


「友人のようなものです。……でも、逃げられてしまいましたね」


男は自嘲するような笑みを浮かべると、改めてエセルに問う。


「お嬢さん、お名前はなんと言うんですか?もし良ければ、少しお茶でもいかがでしょう。あなたのお連れが戻ってくるまで」

「……追わなくて、いいんですか?探していたんでしょう?」


エセルが不思議そうに首を傾げれば、男は片目を瞑って笑った。


「彼は連れを置いたままどこかへ行くような男ではありませんよ。下手に追いかけてまた逃げられるよりも、自分から帰ってくるのを待ったほうがよさそうですから」


頭の中で話を組み立ててた時にはそうじゃなかったのに、改めて書いてみるとものすごくナンパしてた。おかしいね。

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