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三田一族の意地を見よ  作者: 三田弾正
第貳章 小田原編
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第漆話 初の謀略

大変お待たせしました。

天文二十一年二月二十日(1552)


■相模國足柄下郡 北條幻庵久野屋敷 三田余四郎


年も明け、幻庵爺さんが製塩までしているのを知り、覚えていた上げ浜式塩田、流下式塩田、竹を使って行う濃度濃縮方法の話をしたら、そのまま海まで連れられて塩田改修に参加させられました。


その際、水を効率よく揚水するアルキメディアン・スクリューとふいごによって行う自然乾燥方法の原理を説明して実際に番匠の手を借りて製作した所、海水を高所にある塩田へ効率よく揚水出来る上に、濃度の濃い塩水が製造できるようになり塩の生産が何倍にもなり品質も良くなった為、爺さんに賞められた上、分け前を大量にくれたので資金的にホクホクになりました。


それから暫くして、北條軍は関東管領上杉憲政様の居城上野平井城を攻め落城させ、氏康殿幻庵爺さんも上野へ進軍中の為、幻庵爺さんとの修行も休み中なので、色々と考えを纏めているのです。


例えば硝石から硝酸を作成するのは、二つの方法があるんだよな。明礬と硝石を混合し蒸留する方法と、硝石と硫黄を燃やしてそれに水蒸気を混入し、硫酸を作成し、その硫酸と硝石を混合して蒸留して、その蒸気を冷やすと硝酸ができる方法。培養法である程度人工硝石が作成できたらやるしかないな。


硫黄自体は箱根から取れるし、幸いなことに明礬は伊豆半島西海岸の黄金崎の北の宇久須に明礬とガラスの原料である珪石の鉱山が露天掘り可能な状態であるから、其処から採掘すれば良いわけだ。意外と北條家領には鉱物資源が眠っている。


土肥金山もこの時代は未だ発見されていないし、石膏の取れる渋沢鉱山も手つかず。秩父鉱山も未だに未発見と来ている。この宝の山を有効的に使ったのが徳川家康だが、知ってる以上狸親父には使わせたくないのが心情なんだよな。


徳川家康批判になるんだが、天下取りのやり方が汚すぎるし、庶民に対する扱いも酷すぎるから、好きじゃないんだよ。百姓は茶を飲んではいけないとか、山葵栽培は秘匿とか、しかも吝嗇でもあるから、蒲生氏郷があれほどのケチでは人が付いてこないと言ったのも判る気がする。三河武士の従順さが無ければ、天下は取れなかっただろうと思うね。


まあ、批判はさておき。硝酸が出来れば、火薬生産に非常に冗長性が出てくるんだが、問題は製造道具から作成しないと駄目と言う事で。蒸留や乾留するランビキも必要だし、まずはガラス細工を出来る様に陶器職人を廻して貰わないとだし、結構遠回りしていかないと駄目だ。


ガラス器だけでなく陶器自体も磁器や釉薬を掛けた、水が漏れないものを制作しなければ成らないし。それさえ出来れば磁器や釉薬陶器やガラス器で商売が出来るから、幻庵爺さんも反対しないはず。実験道具が出来たら早速火薬の作成なんだが、問題が多数有るんだよな。


綿火薬自体の製造法は知っているんだが、ハッキリ言って現在の状態では実験程度の量なら生産可能だが、大量生産は無理であると考えた。何故なら綿セルロースを硝化する事で綿火薬、所謂無煙火薬が出来るのだが、製造には清潔な水で数十時間、酸を洗わなければならないからで、綿火薬自体に金属粉が混入した場合、異常爆発を起こしかねない。現在の流水は川の水である為、不純物が多数混ざるのは避けられないからだ。


後装式小銃の量産は現在の生産力ではほぼ無理、試作程度なら後装式小銃自体は作ろうと思えば出来るんだが、最大の問題は、金属薬莢がプレス機械の関係で無理。水車動力で単純なプレスなら出来るかも知れないが、リムを作る様な絞り型プレスなんぞ出来る訳が無い。


フライス盤、ターレット旋盤とかは、水車動力で動かせるんだが、構造は流石に知らないし、試行錯誤で制作するにしても1人じゃ無理だし、どうしても既存の技術を最大限に使うしかない。鉄砲鍛冶の大量養成をするのが一番なんだが、此は北條家を強めるだけだし、非常に迷う状態だ。


前にも考えたが、ライフル自体は既にヨーロッパで15世紀半ばに作成はされているから、その技術を入れられれば旋条を入れることも可能だろうが、日本までその技術が流入してないから、自力で作成するしかない。


水車動力で銃身の刳り貫きしようにも、鍛造の鉄塊がないから無理。鉄もこの時代では溶解するのが非常に難しいので、やはり青銅で型鋳造するしか無いんだよ。頭の中には設計図が出来ているから、機関部や銃身やボルト部分ごとに砂型、石膏型、金属型を使い分けて製造すれば、この時代としては画期的な歩兵銃が出来るはずなんだ。


ただ真鍮薬莢のみが製造不能というジレンマ。そうなるとプロイセンのドライセかフランスのシャスポーのような紙薬莢に雷管張り付けたものにすれば良いんだけど、ボルトに激発装置を付けるのがこれまた難しい。一応原理は知っているが、知っているのと作れるのは別だから。それに手先の器用な職人にどう伝えれば納得して貰えるかも問題だよ。


雷管も雷汞である雷化水銀は愛読書だった武器って言う本の知識から、硝酸+水銀+アルコールと判っているし、それに近い爆薬で硝酸メチルなら、木炭作るときに出る木酢酸を蒸留して出来るメタノールを硝酸と混ぜ、乾留すれば出来るから、意外に雷管は早くできそうな感じに成って居るんだが、所詮は畳の上の水練だから、どうなるか判らない。


まあ無煙火薬は無理でも黒色火薬より燃焼速度が遅くてライフリング銃に合っている褐色火薬なら直ぐ作れるけどね。木が完全に炭化して黒くならないうちに焼き止めて作った褐色木炭18%、硝石を79%、硫黄を3%混ぜれば良いだけだ。


しかし、学生時代に図書委員だったからか、散々雑学仕込んだ事がこんな事で役に立つとは思わなかった。木酢酸だって某鉄腕番組からの知識だし、農薬として使えるから幾らでも製造して貰えるから怪しまれずに流用が可能だし。


そうなんだよな。武器ばかり目にいくけど、この時代は千歯扱きすら未だ無いんだよ。この辺は農民の苦労を少しでも減らすために制作して貰おう。ついでに綿繰り機も作れば、農村に余裕を持たせられるはず。まあ余り機械化してもいけないが、ある程度なら許されるだろう。


ただアイデアを教えるのであれば、偶然思いついただの、神仏の加護だの、夢枕に立っただのと言えば、この時代は信心深いし、迷信や祟りを恐れるから、誤魔化せられるんだけど、鉱山も同じ様に神仏のお告げとしておけば大丈夫なんか不安。いっその事ダウジングで見つけましたと誤魔化すか。んーあの爺さんじゃ直ぐに見破られそうな気がするが、今は居ないから新九郎殿や源三殿を煙に巻いて鉱山発見させようか、どうしようか。



天文二十一年三月二十日


■相模國足柄下郡 北條幻庵久野屋敷  三田余四郎

 

あの後上杉憲政様は上野北部で抵抗していますが、蟷螂の斧状態でジリ貧です。歴史の結果知っているので、この後、上杉家から養子が入った佐竹家へ行き佐竹義昭殿に上杉の名跡と関東管領職を譲ると言う話があるけど、佐竹側だけの記録なんだよな。史実になるか此で見物だけど判るかな。


その後、越後に向かって長尾景虎殿に上杉の名跡と関東管領職を譲るんだよな。此のために我が三田家は進路を誤ったと、北條へ来てから最近北條家の方が民には良い暮らしを与えているじゃないかとヒシヒシと感じてきたから、関東乱入の被害を考えると何か腑に落ちない気がしてきている自分が居るんだよ。


鉱山に関しては戦争中で忙しく、未だ全然言えてません。その他も未だ机上の空論です。


おっ屋敷が騒がしくなってきた。幻庵爺さん達が帰還だな、挨拶に行かなきゃ駄目だ。


「今帰った」

「旦那様お帰りなさいませ」

「お父上、兄上、御無事で何よりで御座います」


「おう、結も元気であったか」

「はい」

因みに結ちゃんは、幻庵爺さんの七才の娘です。


「幻庵様、時長様、綱重様、長順様、御無事で何よりで御座います」

挨拶は大切だからね。

「ハハハ、余四郎、修行が又始まるとガッカリ顔がよく判るぞ」


流石、爺さん心を読まれたぜ。

「父上も、大概に為され。余四郎殿が困って居るぞ」

ナイスです時長様。


「まあ良い。儂等は暫く上野の平定を進めねば成らんから、余四郎は暫し他の者達に勉学と武術を教わらせよう」

あっそうか、幻庵爺さん確か上野の平定をして、一時期は沼田城まで落とすんだよな。その後に長尾景虎の猛攻で撤退せざるを得なくなるんだけど。


「平定で御座いますか」

「そうよ。上杉憲政殿の居城平井城を落とし、上野北部で抵抗中じゃからな」

「それに、憲政の息子龍若丸も捕らえた故」


あっそう言えば思い出した。上杉憲政様の御嫡男龍若丸様の身柄は寝返った重臣妻鹿田新助(龍若丸の乳母の夫)により売られたんだ。それで氏康殿が処刑したと言うのを読んだ気がする。確か十一才ぐらいだったはず。それにより上杉憲政様は長尾景虎殿を養子にしたと言うけど、どうなんだろう?


けどこのまま行けば、龍若丸様は処刑される。可哀想と言えば可哀想だが、殺さずに利用できるんじゃ無いか?このまま何もしないで、上杉憲政様の元へ送り届ければ、他の関東諸侯に対して北條家の懐の大きさを示せるし、更に実子が健在なのに果たして憲政様が景虎殿に上杉の名跡と関東管領職を譲るだろうか?


仮に譲ったとしても、正当な上杉の後継者は非常に扱い辛いはず。特にこの後、長尾顕景の養子問題の時に龍若丸を輝虎殿の養子として家を継がせろと言う派閥争いが起こるかも知れない。越後衆の上田衆に対する鬱積はかなりなものだからこそ、北條家出身の三郎景虎殿を担ぐ連中が多数出たのだから、此処で第三極が入れば益々混乱するのでは無いか?此処で龍若丸を殺させることはさせない方が良い。


「幻庵様」

「どうしたのじゃ?改まって」

「龍若丸殿ですが、如何為されるのですが?」


「元主家の嫡男であるから気になるか?」

「そう言う事ではありませんが、僅か十ほどと聞きました故」

「うむ、恐らくじゃが、磔にされる」


やはりか、此処は歴史に対抗だ!

「それはお止めください」

「余四郎、其れを言うのは止めておけ。お前だけではなく実家にも迷惑が掛かるぞ」


「いえ、慈悲の心からではないのです」

「何じゃと言うのじゃ?」

「はい、子を殺された親が怒り狂うは必定成れど、如何せん憲政殿では大したことは無いことは今までの戦振りから判りますが、自分の跡取りがおらず、手近に上杉家から養子の行った家があり、その家が強家であれば如何しますか?」


幻庵爺さんが考え始めた。

「うむ、確かに其処を頼るやも知れんが、佐竹では未だ未だだと思うが」

流石、佐竹のことを知ってるな。けど長尾の事は知らないみたいだ。


「いえ、佐竹ではなく、越後の長尾です」

「しかし、長尾は平氏、上杉は藤原氏、しかも血のつながりは無いはずじゃ」

「はい、確かに越後の長尾には血のつながりは無いはずですが、同族である下総の長尾が以前上杉家から養子を迎えたらしいのです。それを拡大解釈すれば長尾にも上杉の血が流れていると言えなくもないのです」


「なるほど、そう来たか。しかも長尾の当主は若くから戦に関しては才気を見せていると、それを上杉当主にするより、凡人を当主にした方が良いという訳じゃな」

「そう言う事です」


「しかし、それだけでは説得力にかけるやもしれんぞ」

「それならば、長尾は先祖代々悪行を行ってきております」

「管領と、主殺しの事じゃな」


流石幻庵爺さん知っているか、けど此処まで知っているかな?


「はい、長尾景虎の父為景は先々々々代の管領かんれい上杉顕定うえすぎ あきさだ公と先代越後國主の上杉房能うえすぎ ふさよし殿を殺しております。


しかし長尾家はそれだけでは無く、結城合戦では捕虜にした関東公方かんとうくぼう足利持氏あしかが もちうじ様の遺児であられる春王丸はるおうまる様、安王丸やすおうまる様は京への護送途中に長尾実景ながお さねかげに依り惨殺されております。更に実景は主君である上杉房定うえすぎ ふささだに背いております。


此を考えるに、長尾は代々公方様(関東公方)、管領様(関東管領)主家(越後上杉氏)に弓を引いた不忠者にございます。それに比べて北條家は、伊豆で足利茶々丸を追放はしましたが、殺したのは武田にございますし、茶々丸追討自体、将軍義澄様のご命令でございましょう。


小弓公方討伐とて兄に逆らった足利義明あしかが よしあきを公方様(足利晴氏あしかが はるうじ)より命じられただけで全て上意討ちにございます」


幻庵は余四郎の弁に目を見張る。

「確かに、長尾と比べれば、当家は非難されることも少なかろう。しかし管領と戦ったことは覆せぬぞ」


「はい、それに関しても、当家は扇谷上杉家の血を流しましたが、管領様の一族の御血は流しておりません。その辺を鑑み、龍若丸殿をお返しすれば、管領も考える事もあるやも知れません」


余四郎の話を素早く計算し、北條に益有りと感じた幻庵は氏康を説得しようと考えた。

「判った。氏康殿に早速伝えてこよう」



あの後、龍若丸様は、史実と違い古河公方足利晴氏様の仲介で無事上野白井城で抵抗中の上杉憲政様の元へ戻されました。さて此で歴史がどうなるか?上杉謙信は誕生するのか判らなく成ってきたけど、何かやりたく成っちゃたんだよ。


千歯扱きと綿繰り機は幻庵爺さんに見せたら、早速量産が始まり、今年の収穫から使うって事です。ついでに義倉も指摘したら、粟稗蕎麦などの雑穀なら可能だと言う事でやってみることが決まったようです。此で農民が飢饉で飢えることが無くなると良いよな。

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