表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三田一族の意地を見よ  作者: 三田弾正
第貳章 小田原編
20/140

第貳拾話 そうだ京都へ行こう

出来たんで、投下です。次回から京都編に入ります。



弘治三年一月五日(1557)


■相模國足柄下郡小田原城  三田康秀


「さて、今日集まって貰ったのは他でもない、長四郎の案に従い準備をしてきたが、思ったより早く進んでしまったために、今後どうするかを評定したい」

「それで、兄者どうするんだ?銀山の事も有るし」


何故か、新年早々小田原城へ集められました、参加者は氏康殿、氏堯殿、幻庵爺さん、氏政、平三郎(氏照)、綱重殿(幻庵次男)、更に小太郎という面々。言ってみれば房総方面で睨みをきかせている綱成殿以外の北條家首脳と諜報部門と謀略担当者が集まっている訳で、此だけ見たら、此奴等何するんだっていうレベル。


それで氏堯殿の言っている銀山というのは昨年思い出してダウジングで見つけたことにした、上田銀山と白峯銀山の事で、現地へ飛んだ風魔が露頭を見つけてきたんですけど、場所が問題な訳でして。


「いくら何でも尾瀬の先、しかも深山幽谷じゃ、掘るにもかなり労力がいるぞ」

「しかし、風魔の持ち帰った銀の品位は凄まじく良い物ですから、せめて露頭状態の物だけでも掘らないと些か勿体ないかと」

「場所が問題よ。越後と会津の国境とは」


「兄者、滅多に人が来ないところだから、尾瀬側から山越えで入ってもばれまい」

そうなんですよね。銀山の有るところが、越後と会津の境の只見川の川岸と言う事で、ただ場所が場所だけに人が来ないんですけどね、此方からももの凄く行きづらい場所で、山越えの連続でやっと辿り着くと。


けど行くだけの価値は有るんだよな。江戸期の一時期でも最低でも銀が年間二百貫(750kg)以上、最盛期には千貫(3.750kg)も出た訳で、更に副産物の鉛が一万九千貫(70000kg)という化け物じみた鉱山。掘りにくいことを考えても、鉛は年間最低でも十四トンほどは普通に出るはず。


そうすれば、標準的な鉄砲玉用の鉛は六匁(22.5g)だから、六十万発以上製造可能だから掘らない事は無いか。ここはプッシュだ。


「人が入ってこないように、越後側と会津側の峠や山道を事故に見せかけて崩してしまいましょう」

「それしか無いか」

「幸い、当家には長四郎の作った猫車や円匙、そして鶴嘴がある。それによって尾瀬側から峠道を開削し、一気に採掘を行えば良いだろう」


「小太郎、風魔を配置し近づく者がないようにするのじゃ」

「はっ」


銀山談義は此にて終了で、此から本題に入るらしい。

「さて、都への工作だが、幻庵老どうなっている?」

氏康殿の言葉に幻庵爺さんが飄々と話し始める。


「うむ、都の伊勢貞孝からじゃが、公方は未だに朽木谷に居るそうじゃ」

「なるほど、折角氏政を幕府相伴衆にしたが、何の役にも立たんな」

「今の公方は、逃げることしか出来ない状態じゃ。公方本人は塚原卜伝から奥義“一の太刀”を伝授されておるが、公方一人が剣豪でも幕府は立たんよ」


「塚原卜伝といえば、爺様が武者修行中の卜伝と会ったことがあるそうだな?」

「おお、親父殿からその話を聞いたものよ。『将来有望な若者であった』と、しみじみと話しておったな」

「それは凄いことですな。彦五郎殿(今川氏真)も師事したのですから、私も師事させて頂きたいものです」


「新九郎、それは無理よ。何処に居るのか判らん御仁じゃからな」

「はぁ」


「さて、本題に戻る」

雑談ばかりで中々進まないな。しかし今川氏真が塚原卜伝の弟子なんだが、何で精神的に育たなかったのやら?それとも負けたから悪く書かれたのかな?


「兄者、公方のことはどうするんだ?」

「長四郎はどうしたら良いと思う?」

氏康殿、笑いながら俺に振るなよ。仕方ないから言うけどさ。自分で言ってくれよ。


「はい、言っては悪いですが、公方様も所詮は代えの効く御神輿でございますれば、取りあえず挨拶程度はしておけば良いかと。態々都で三好や六角の間に入って公方様の都への帰還を行っても、当家が行おうとしている事には邪魔なだけでしょう」


ほら、みんな変な顔してるし。そりゃこの作戦を知っている氏康殿、氏堯殿、幻庵爺さん以外は驚くよ。

「そう言う事だ。当家の行おうとしている事に下手に公方に嘴を挟まれる訳にはいかんのでな。今が好機と言えるからこそ、上洛する事にしたい」


「御本城様、御自ら上洛を行うのは危険すぎます」

「新三郎(綱重)、左京殿は行かんよ。行くのは左衛門佐(氏堯)殿じゃ」

「そう言う事に成るな」


「上洛するのは、正使に左衛門佐、副使に新九郎、公家衆や幕府衆との繋ぎに新三郎、それに今回の騒動を考えた長四郎もだ」

俺もですか!!未だ半年の新婚なんですけど、確かに俺が行った方が色々良いんだろうけど、良いのか婿とは言え完全な身内じゃないし、しかも氏政と一緒ってどんな虐めだ!ここは全力で拒否だ!


「御本城様、ご指名頂き恐悦至極に存じますが、自分は若輩者成れば、皆様にご迷惑をかけかねません」

どうだ、完璧な理由だろう。

「なるほど、長四郎の言う事も尤もじゃが、今回の騒動を考えた以上は北條家の今後を賭けたのだ。お前が行かないでどうするんじゃ?」


幻庵爺さん、真面目に凄んできてマジびびるんですけど。

「そう言う事だ、長四郎なら大丈夫だろう。この俺が太鼓判を押すぜ。本当なら俺も行きたいぐらいだ」


平三郎!!崖で背中を押すような真似するんじゃねー!!

「と言う訳だ。長四郎、頼んだぞ」

「はっ」


負けた、HP0になった。


「さて、天王寺屋の津田宗達など堺商人に依頼した木材、石材などと、大和の橘、播磨の橘。国次や和泉などでは瓦を焼かせていたが、あと三月もすれば量も充分溜まる。その後三好も黙認で都へ運ばれる」

「貞孝が大部苦労して、三好や公家衆などに話を通してくれたからの」


「貞孝にはそれ相応の礼をしなければ成りませんな」

さすが幻庵爺さん、京都との繋ぎは完璧だ。俺だけじゃこの策はどうしようも無かったからな。

「父上、資金の方は大丈夫なのですか?」


「うむ、長四郎のお陰で見つかった伊豆金山と秩父銅山と銭の鋳造により余剰金が貯まった。それにこの所の不作も義倉や兵糧丸により民が飢えることが無かったので、必要以上に金を使わないで済んだ。しかも新しい産物を堺や博多から唐などへも送って、その上がりも大きい。しかも煙硝の生産に成功したため、煙硝を買わずに済むようになったから、その分も十分に溜まっている」


「具体的にはどの程度を考えて居るのですか?」

「二十万貫を使うつもりだ」

「二十万貫!!!」


すごいぞ、信長が堺を強請ったのでも二万貫だから十倍だ!!円に直せば一貫十万円程だから、二百億円。俺の所領が三百八貫から加増されて千貫になったけど、二百年分ですよ。一気に行く気だ。提案したとはいえ空恐ろしくなってきた。失敗したら切腹ものじゃないか。


「左京殿、これは剛毅なものじゃな」

ニヤリと笑う氏康殿がスゲー怖く感じるよー。

「フフ、越後で騒ぐ前管領に好き勝手させる訳にはいかんからな。関東管領と言いながら、歴代の当主共は、扇谷上杉、山内上杉同士で延々と戦をし続け、関東を荒らしまくったのだから、その様な輩に関東を任せる訳にはいかん。その為にはこの策に二十万貫賭けることなど惜しくはない」


うわー氏康殿凄く漢だ。かっこいいぜ。流石我が義父上だぜ!みんながみんな感動している感じだ。自然と頭が垂れるよ。


「兄者、その意気、素晴らしいぜ。俺も誠心誠意頑張るぜ」

「私も、微力ながらお手伝いします」

「儂もじゃ」


「俺も」

「私も」

「拙者も」

「無論私も」


わーい。みんなの心が一つになった感じだ。


「さて、其処で長四郎の立てた策だが、朝廷には大判千枚、白銀一万枚、永楽銭二万貫を献上する。摂家には大判百枚、白銀千枚、永楽銭二千貫、比叡山、高野山、興福寺、東大寺、五山などにはそれぞれ白銀五百枚ずつ、各公家にも家格に合った白銀或いは永楽銭を。公方には大判二百枚白銀二千枚で良いだろう」


氏政とか、平三郎とかが、お前そんな事考えていたのかって感じで見てるな。此は暫く質問されまくりか?うむー、しかし自分で言ったのも何だが、公方の扱いが摂家より少し上とは、義輝が怒らないか?まあ、公方はどっちつかずだし、どうせ長尾景虎と意気投合するから、このぐらいの扱いで良いか。最初はガン無視という話も有ったんだから、未だマシだよね。


「無論三好や六角にも付け届けは忘れてはおらんがな」

まあそうだよな。三好の勢力圏内で動くには付け届けは必須ですよね。

「更に今、二条晴良殿、九条稙通殿に動いて貰っている」


なるほど、時期が早まったから、あれを行う訳か。確かに百年近く行っていないから、出来たら後奈良天皇は感動するだろうな。

「父上、それは?」


「今は言えんな。二条殿達からの返答待ちだ」

「判りました」

「しかし父上、義祖母様のご実家の近衛稙家殿は氏綱様の義兄、現当主前嗣(近衛前久)殿は父上の義従兄弟ではありませんか。其方に動いて貰う訳にはいかないのですか?」


氏政、俺もそう思ったんだが、色々有るんだよ。

「うむ、近衛の場合、自らの娘の血を引くものが女子しか居なく、当主になれなかった事にわだかまりが有るようでな、しかも義母上は先だってお亡くなりに成られたからな」

「なるほど、そうでございますか」


まあ、あの人物じゃ義輝と同じで景虎と意気投合するから、かなり危ういんだ。



「さて、更に永享六年(1434年)以来行われていなかった伊勢神宮の外宮式年遷宮の資金も献金する」

「何故其処まで?」

「以前尾張の織田備後守(信秀)が伊勢神宮に、材木や銭七百貫文を献上したことにより、その礼として朝廷より、三河守に任じられた事があってな」


「父上は、十重二十重に朝廷に伝手を作るおつもりですか?」

「そう言う事に成るか。しかしな、未だ未だ此では終わりでは無いぞ」

「それは?」


いや、勿体ぶってるけど、俺や幻庵爺さん、氏堯殿は知ってるんだよな。氏政、平三郎は知らない訳だから、一々感心している訳だ。


「我が北條家の関東支配を幕府ではなく朝廷に保証して頂くことだ」

「何故でございますか。足利梅千代丸様がいらっしゃれば、ある程度は大丈夫では無いのでしょうか」

氏政を見る氏康殿が、未だ未だだという顔をしてる。


「梅千代丸が居ても、兄の藤氏も居る。以前小弓公方や堀越公方が居たことを忘れる事はできんぞ」

「なるほど、確かに、公方権力が砂上の楼閣状態であれば、関東公方も危ういと」

「その通りだ。儂の関東管領職とて、幕府に許可を受けておらんから、自称と言う事に成る」


「そう言う事じゃ。幕府は滅んでも朝廷は滅ばんものじゃ。それに形式上公方とて帝の一家臣に過ぎん。それならば、帝に地位を保証して頂いた方が何倍もマシじゃ」


実際それだけじゃ無いんだけど、それは都へ上がってあの人物を口説き落とせた場合だから、未だ言えないんだよ。


「そう言う事だ。それでは、二月一日を持って小田原を出立だ。それまで絶対に他言無用だ。準備をそれぞれするようにせよ」


こうして、北條氏最大級の作戦が始まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ま、どうでもいいことなんですが、よく皆さん「大分」とか「大部」を使われてますが、代わりに「随分」なんてどうでしょうか。「大分」て同じ漢字を使う都道府県をいちいち思い浮かべてしまって個人的に面…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ