第百三十三話 三好、浅井同盟
誤字脱字あったらすみません。
歴史がかなり変わりまくりです。
永禄二(1559)年一月十二日
■摂津国芥川郡芥川村 芥川山城 松永久秀
「全く、美作守(安見宗房)も碌な事をせん」
「全くですな。美作守も碌でもない事をしますし、それに呼応したのか大樹も気炎をあげておりますし」
殿が愚痴をはかれるが全くなことだ。河内守護代、安見美作守が河内守護、畠山尾張守(高政)を紀伊に追放した為に内紛が起こり畠山家から援軍が送られて来なかったのだから。
本来であれば大樹(足利義輝)の主戦力たる六角家を浅井が攻撃し六角が浅井に対処している間に大樹を朽木へ追い払うつもりであったが、六角が浅井のお陰で崩壊したことで、大樹を捕らえる事に予定を変えたが、あろう事か大樹は這々の体で叡山へ逃げ落ち立て籠もった。
それでも次善の策として叡山の僧兵を旗下にして気勢を上げる大樹の心をへし折ろうと、管領家でもあるものの当家と同盟を組んでいた河内の畠山家から、家臣を派遣するのでは無く尾張守殿自ら参陣した姿を麓で見せ『最早、管領家でさえ大樹の味方では無い』と教えてやろうと目論んでいたにもかかわらずだ。これで全て駄目になったわ。
その為に、殿は東寺の本陣は御嫡男孫次郎(三好慶興)様、御舎弟実休殿に預けて、芥川山へ帰って畠山の動向確認や政務を行って居る状態だ。
「大樹もいい加減に諦めれば良いものを」
「山暮らしに野宿が楽しいのでしょう」
「ははは、違いないの」
儂の戯れ事に殿が苦笑いしながら膝をたたく。
「しかし、畠山があてにならないとして、どうするかだが」
「やはり、後一撃が必要ですな」
儂の言葉に殿も頷きながら思案し始める。
「浅井のお陰で六角左京大夫(義賢)右衛門督(義治)が討ち取られたので多少は楽になったが、叡山が鬱陶しいの」
「ですな、叡山の僧兵なんぞは戦場であればどうとでも出来ますが」
「国家鎮護の叡山に籠もられては手が出せぬか」
「どうにかして、大樹を追い出せないかと」
殿が渋面をし始める。
「後白河院の御言葉が思い出されるの」
「『加茂河の水、双六の賽、山法師、是ぞわが心にかなわぬもの』でございますか」
儂がそう言うと殿は頷く。
「その通りよ。公方だけでも頭が痛いと言うのにの」
「そう言えば、大樹の事を、右馬権頭殿(康秀)が言っておりましたな」
「ほう、なんと言っておった?」
渋面だった殿が興味津々としてる。これで少しは気が晴れれば良いが。
「右馬権頭殿は『文句を言うだけならいざ知らず、天下の静謐を守るどころか乱しまくる公方なんぞ、木像にでも替えてしまえばいい、ちょうど等持院に等持院様(足利尊氏)の木像があるのだから、其れを公方にすれば良い、等持院様は将軍職を追われた後に将軍職に復帰している。朽木の公方(足利義輝)も、初代様が再任するとあれば納得せざるを得ないでしょう』と」
儂の言葉に殿があっけにとられておるが暫くして腹を抱えて笑い出してくだされた。
「ははははははは、何とも愉快なことを」
「でありましょう?」
「はははは、全くよ」
「そういえば、叡山の事も言っておりましたな」
「ほう、なんと言っておった?」
「はい『叡山と山法師が邪魔ならば、山ごと焼いてしまえば良い。だいたい六代様(足利義教)も半将軍殿(細川政元)も焼いておりますぞ』と」
「なんとも、右馬権頭殿は神仏を恐れぬか」
殿もこれにはぎょっとした顔をなされる。確かにこの儂でも話を聞いたときは驚いたのだからな。
「右馬権頭殿は『叡山なんぞ、仏の教えをまもらず利用だけしている破落戸に過ぎない故、退治しても何ら良心の呵責にならない』といっておりました。」
「うむー、一理あるが、しかしの」
「殿、考えてみれば、叡山に留まっているのは、焼いた者の末裔ではありませんか」
「そういえば、そうだの」
「焼いた末裔が叡山に助けを求めるとは傑作ですな」
「確かに、叡山にしても恨み骨髄に徹すであろうに、金で解決とは」
「堕落している証拠といえましょうな」
しばしの雑談のあと殿が徐に真剣な表情となった。
「ところで、公方に揺さぶりをかける為に、浅井との正式な盟約を結ぼうと思うが、お主はどう思う?」
なるほど、確かに六角を倒した浅井は盟を結ぶ相手としては良いだろう。
「其れは良いお考えです」
「であろう、浅井も当家も陪臣の出、家格も合うであろう」
「確かに、あれまで見事に勝ちを収めたのにも関わらず、朝倉や斎藤から嫡男への縁組みの話は聞きませんな」
「うむ、朝倉は未だに浅井を家臣扱い、斎藤(高政)は浅井下野(久政)の妹婿ながら浅井とは疎遠になっておる」
「なるほど、浅井にしてみれば、面白くない状態と言うわけですな」
「そうだ。そこで、浅井新九郎にお主の娘を儂の養女として嫁がせようと思うが、どうじゃ?」
「其れがしの娘をですか?」
「うむ、儂の娘はみな嫁いでおるし、孫達にも年頃の娘はいない、それに弟たちにも娘がおらん。しかし弾正の娘は儂の孫娘で年も十三だ。新九郎が十五、十分に釣り合いがとれよう」
確かに、殿の孫に御舎弟方にも姫がいない。そうなると我が娘か・・・・・・
「其れは良きお考えかと」
「そこで悪いが弾正には浅井との婚約と盟約の差配を任せたい」
「お任せくだされ、丁度今は手が空いております故、小谷へ向かいましょう」
「うむ、頼むぞ」
大任を受けて嬉しさ半分不安半分だが、見事にまとめて見せようぞ。
「婚約が決まったのなら、儂と浅井の度量を見せる為に、浅井により朽木で保護されている(囚われている)大樹の御母堂様や御台様をはじめとする幕臣などの家族を含めて都へ向かってもらおうぞ」
なるほど、母親や妻からの懇願もさせるか、御母堂様も御台様も近衞家の出、朝堂への宣伝にもなるか。
「はっ」
「うむ、御母堂様がたの事は、飛鳥井権大納言(雅綱)様や広橋権大納言(国光)様たちも動いておられる故、御二方に挨拶しておくように」
「わかり申した。身命を賭してまとめて参ります」
「まとめ上げれば、弾正がまた増長しておると弟(十河一存)や息子(三好慶興)が言うであろうが、儂が確りと説明する故、頼むぞ」
「殿、頭をお上げください。拙者ごときに下げて良い頭ではございません」
殿のご心中察しますぞ、儂は成り上がり者として十河殿や御曹司からはよく思われていないが、殿の為ならば幾らでも泥をかぶりますぞ。
永禄二(1559)年二月十日
■摂津国芥川郡芥川村 芥川山城 松永久秀
「殿、浅井下野守殿は当家との縁組みと御母堂様がたの事についての事に同意いたしました」
「ご苦労であったな弾正」
「はっ、これで公方様もお考えを変えていただければ良いのですが」
「無理であろうな、そこまで考えられれば性懲りも無く何度も挙兵などせぬだろう」
「確かに何度も都と朽木を行き来していますからな」
「しかし、御母堂様や御台様が室町第にてご緩りとお過ごしと聞けばどうなるか」
「さぞや慌てるか、御母堂様がたの事を人質とする三好家の悪意を宣伝するかでしょうな」
「そこでよ、室町第には三好の兵は置かん、既に太閤(九条稙通)様と今出川大理卿(検非違使別当)(菊亭晴季)様にお願いして室町第を検非違使にて警護して貰うようにしてある」
「それは、良きお考えかと、朝廷が護っているのであれば、大樹も文句が言えませんな」
「そうよ、振り上げた拳の下げ先が無くなった様を見てみたいものよ」
「そうですな」
殿が悪い笑みを成される。これでこその三好長慶様といえよう。今の畿内の支配者は殿なのですぞ、だからこそ悩む必要などないのですから。
永禄二(1559)年二月十五日
■摂津国芥川郡芥川村 芥川山城 松永久秀
「弾正、浅井に囚われていた平井加賀守が自害したらしいの」
「はっ、加賀守殿は観音寺の戦いの際に捕らえられた後、観音寺城の平井丸に夫婦そろって軟禁されておりました、人質時代に世話になった新九郎殿は何度も浅井に着くように勧めたらしいのですが頑として聞かずにいたそうです。」
「はや、六月もとは、加賀守は頑固といえるか」
「同じ時に囚われた池田孫次郎(景雄)は早々に浅井に仕えたのですが」
「加賀守は聞かずか」
「はっ、聞くところによりますと当家との縁組みの話で新九郎殿が小谷へ向かった隙を突いて何者かによって渡された刀で奥方を刺しその後、切腹して果てたとか」
「左京大夫殿に殉じたと言うことか」
「はっ、武士の矜持と言うことでしょう」
「そうであろうな」
しかし加賀守にしてみれば、人質時代の新九郎の面倒を見てきた上に娘との婚約も反故にされたのだから。意趣返しのようなものだな。加賀守とご母堂の自害を聞いて息子の弥太郎(平井高明)は憤慨し徹底抗戦を宣言したらしい。新九郎殿の婚約者であった娘は悲観して落飾すると言っているらしい。
加賀守が六月時を稼いだお陰か、平井の家はもとより進藤や後藤などは観音寺の戦いの損害をある程度補填できたらしい。武士の矜恃と六角家の傷を癒やす為の時間稼ぎをしたとも言えるか、天晴れとしか言えんな。
これで、浅井も蒲生にいる中務大輔(六角義定)とともに復讐に燃える六角六人衆や斉藤に対しての構えもある以上は当家との連携が益々大事になるであろう。
しかし、平井加賀守、武士の矜持を見せたと言えるか。儂ならどうしたであろうか・・・・・・
永禄二(1559)年二月十日
■近江国蒲生郡 観音寺城 平井定武
「囚われて早六月か」
「そろそろ、でしょうか?」
「うむ、そろそろだろう」
妻が和やかに微笑む、この六ヶ月で妻孝行が出来た気がする。
それに、弥太郎も敗戦の痛手から立ち直ったらしいし、次郎左衛門尉(六角義定)様もご健在、まだまだ六角は負けん、新九郎は儂を誘い小夜を正室にするなどと世迷い言を言うが、巫山戯るなと言ってのけたいわ。
「誰か有る」
妻が杯を持ってくるように侍女に命じた。そろそろ、我が身の終わりを迎えるとするか。妻も共に逝くと五月蠅いが二人で行けば黄泉路も楽しかろうよ。
「殿、今なら手薄でございます」
侍女が儂と妻へ逃げることを勧めるが、先の戦で傷ついた足では難しかろう。
「無理じゃな、儂と妻は始末をつける。弥太郎と小夜に伝えよ」
儂と妻が遺言と辞世を渡し侍女からは刀を受け取った。
「奈津、ご苦労でした」
「お方様」
「さて、共に黄泉路へ旅立つぞ」
「はい。お前様」
弥太郎、小夜、無理をせずに生きよ。
小夜ちゃんパパとママが退場です。
イスラーフィール様、キャラをお借りしました。
奈津さん、ゲスト出演です。