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三田一族の意地を見よ  作者: 三田弾正
第伍章 坂東怒濤編
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第百二十八話 遭遇

大変お待たせ致しました。

平成最後に何とか投稿できました。

『アレ』はあの魚の缶詰です。所謂バイオ兵器。

遠野阿曽沼氏は太平洋沿岸も領土でしたから、一応はあの魚も水揚げできるようです。

永禄元(1558)年十月三十日


相模国西郡小田原


「お土産ならばこちらが宜しいかと」

「おお、色々あって目移りしてしまうの」

「義ちゃん、この店は都にも無い品を揃えているらしいよ」


「なんと、それは楽しみなのじゃ」

「なななんと、江戸波見頓えど・はみるとんの新作が!」

「波見頓?」


「そう、恋愛物から冒険活劇、家庭物までなんでもござれの売れっ子作家なの」

「へー」

「我が心の師匠なのです」


『ムッフー』っと鼻息荒く新作を手にする貴子であった。


そんな貴子を見ながら義姫ら一行五人は小田原でも随一を誇るお土産物屋山海堂で品々を見ながら『キャッキャ』と楽しんでいた。



同じ頃、小田原城を出立した助五郎一行も町中へと繰り出しつつあった。

「助五郎様」

「助五郎と言うな、今の俺は北條家家臣の五男坊という触れ込みなのだから、五郎と呼んでくれれば良い」

「しかし、それでは我らが殿に叱責されてしまいます」


「大丈夫だ。俺が良いと言っているのだから、義兄上(康秀)には俺が話をしておくさ」

「はぁ」

「まあまあ、森殿(森太郎兵衛もりたろひょうえ)は心配性ですな、五郎様が良いと言っているのですから、全て大丈夫ですよ」


「満五郎(藤橋秀基)お前は楽観的でよいの」

「それが取り柄でございますれば」

「ハハハハ、その通りよ、今は久々の小田原を楽しもう」


「では、拙者が良きところへご案内を」

「お前の良い所って岡場所だろうが、まだ嫁取りもしていない若を連れて行けるか!」

満五郎の話に兵庫介(加治秀成)が渋い顔で指摘する。


「いやいや、流石の拙者も、女子を知らぬ若に、そこまで無粋な事は致しませんぞ。行くのは今人気の侍女喫茶ですぞ」

「侍女喫茶?」

「左様、侍女の姿をした若い娘達が色々と給仕してくれるのです。なんと言っても殿が広めている南蛮料理なども出してくれるのですから」


「ほうそれは、面白そうな」

助五郎が興味を示したと感じ、満五郎はすかさず話を続けた。

「で、ございますぞ。なんと言ってもヒラヒラの服を着た年若い娘っこが『お帰りなさいませ、ご主人様』と迎えてくれるのですぞ、拙者最近は真里子ちゃんがお気に入りでして、毎日通っております」


「満五郎お主、最近午後に居ないのはそういう訳だったのか」

「なるほど、視察がなんだとか、相馬家との繋がりを密にするために実家への文を書いているとか言っていたが、遊んでやがったのか!」


「あっしまった」

額に青筋を立てて満五郎を追いかける兵庫介、それを見て笑う助五郎。

「若君にはお見苦しき所をお見せ致して申し訳ございません」


「いやなんの、義兄上の事だ、かかる仕儀も知っていて放置しているのかも知れないぞ」

「いくら殿でもそこまでは・・・・・・」

「いやいや、義兄上には千代女殿を含めて多くの者が付いているでは無いか、聞けば箱根の湯での覗きも美鈴にばれて逆さ吊りにされたとか、あの者の行動などは把握済みであろうよ」


「確かに・・・・・・」

「であろう」


しばしの追いかけっこがおわり、助五郎達は再度行く場所を決めることにした。

「ここは、まず腹ごしらえをするのが宜しいかと」

「そうか、確かに義兄上の格言に『腹が減っては戦が出来ん』とあるか」


「左様です」

「ああ、確かに腹が減ってきた」

満五郎が緊張感のない声と腹の虫を鳴らし始めた。


「お前は、遠慮ってもんが無いのか?」

「いやー、今日は五郎殿を案内するんですから、美味しいところへ行かなきゃ損損と申しますし」

「誰が言うんだ、誰が!」


「俺が」

「お前か!」

兵庫介が満五郎の頭をはたく姿はまるで漫才の様であった。


「二人とも、そろそろ決めねばならんぞ」

助五郎が笑い終わると、年の功の太郎兵衛が締める。

「はっ」


「さて、何処が良いかだが」

「ならば、万国飯屋が良いかと」

「万国飯屋?」


「古今東西、ありとあらゆる料理を食せると言う店です」

「古今東西とは大きく出ていますね」

助五郎の質問に満五郎が答える。


「まあ、ぶっちゃけますと、殿の仕掛けです」

その一言で助五郎は納得できた。

「ああ、義兄上の店か、それならば判る判る」


「はい、唐、天竺、大秦などなど、品揃えが豊富で目移りしてしまうのです」

「あと店ですが、巷では沈黙飯屋と呼ばれているとも」

「なんだそれは?」


「なんでも、店主の出す料理のあまりの旨さに皆が沈黙するそうです」

「特に唐の蜀料理である辛み豆腐(麻婆豆腐)はあまりの辛さに一口食べただけで皆が沈黙するとか」

「それで沈黙飯屋か」


「はい」

「それならば面白いな、そこへ行こう」

「では、善は急げですぞ、混む前に席を予約してきましょう」


そう言い残して走り去る満五郎。

「相変わらずだな」

「兵庫介、なにがだ?」


「いえね、沈黙飯屋の料理も素晴らしいですが、給仕をしている女将も此が又素晴らしい美人でして」

「ああ、なるほど、侍女喫茶と同じように、その女将にも粉を掛けている訳か」


「左様で」

「懲りない男だな」

「けれど女将は既婚なのですが」


「見境なしか」

呆れる助五郎らであった。



永禄元(1558)年十月三十日


相模国西郡小田原三田屋敷 三田康秀


「あー疲れた」

仕事が一段落して居間へ行くと妙がお茶を入れてくれていた。


「お疲れ様です。お茶です」

「妙、ありがとう」

「いえ、旦那様の為ですから」


「妙の淹れるお茶は美味しいからね」

「恥ずかしいのです」

照れる姿は凄く可愛いくて、散々面倒な仕事を押しつけてくる爺さん達に対する不満が和らぐわ。


「おっ、旦那、一休みかい?」

「ああ、祐子はどうしたんだい?」

「沙代がやっと寝てくれたわ」


「祐子姉さん、お疲れ様です」

「祐子、お疲れ様」

「まあ、自分の子だから、当たり前だけどね」


直虎さんは時々乳母や侍女に任せないで自分で沙代の面倒見ているからな、たいしたもんだよ。

「うーん、早く妾もややこが欲しいのじゃ」

「あらあら、千代女さん、頑張りましょうね」


妙! 煽るんじゃない、夜のお仕事が増えるだろうが!

「そうそう旦那、綿入れ布団は暖かいな、沙代がグッスリ眠ったよ」

直虎さんナイス、話題を変えられたぜ。


「ああ、あれは屑綿を入れているので暖かさは段違いだからね」

「屑とはいえ、綿は未だ未だ高いですよね」

妙の疑問は尤もだ、ここは確り説明しておこう。


「確かに相模木綿は朝廷への贈り物に使われるほどの綿だけど、元々は遙か大昔に天竺から来た人物により三河に伝えられて、その後、大永元(1521)年の春に武蔵の熊ヶ谷(熊谷)の市で西国から来た商人が売っていた木綿の種子を三浦の人間が買い取って栽培したのがはじまり。それが成功して以来三浦で栽培されていた綿だから歴史的には三十年一寸なんだよ。そして栽培されている中から長めの綿糸を出せる種類だけを集めて順次育て品種改良をし続けているんだ。その選別時に出た屑綿を布団に採用したのさ。」


「それでも、暖かいからありがたい事この上ないね」

「確かにそうですね」

「それにしても、綿を育てるのにあんなに肥料が必要とは驚いた」


「まあ、稲とかの四倍もかかるからな」

「四倍か」

「大変なのですね」


「四倍と言っても普通の肥料じゃないから」

「それは?」

「長いこと研究してきた硫安(硫酸アンモニウム)とカリ肥料を使ったのさ」


「硫安?」

「カリ?」

「伊豆の黄金崎で取れる鉱物から作ったのが硫安、下田の寝姿山から掘ったのがカリ」


「山から採れる肥料なのですね」

「そうそう、肥料って言っても、多種多様で人糞や馬糞、鶏糞とか腐葉土、魚肥、海藻とかの肥料と、硫安、カリ、それに煙硝の原料の硝石なんかの鉱物肥料があるんだよ」

「良く分からないですが、色々有るんですね」


「そうそう、まあ、硝石は草とか人糞とかも使うから鉱物と言って良いか微妙だけど」

「けど、硝石で氷が出来るんですから、凄いとしか言えませんよ」

「まあ、怪我の功名と言うかだけど」


まあ。つい最近東北と繋がりが出来たら遠野阿曽沼家から購入した『アレ』で缶詰を作ろうとして、熟成温度の十三度ぐらいが御殿場の駒門風穴こまかどかざあなの温度だと思い出して、風魔でも温度感覚が凄い人物を送って温度を体感させて、溶岩石を使って水冷式氷室を作った。


そして作って困った。この氷室と言うか氷温庫?冷蔵庫か?は『アレ』専用な訳で『アレ』自体は現在樽に詰めて熟成中だが、風魔でも甲賀でも逃げる臭いに成りつつあり。とてもじゃないが訓練をした人間以外は近づけない。一般人が近づけば、速攻でゲロゲロ状態。下手すればマジで死人が出る可能性もあるのだ。


ましてや奥さん達を近づける訳にはいかない。そこでダミーとして通常の氷室も作った。そして通常仕様の氷室が出来たとき『そういえば硝石を水に溶かせば温度下がって氷が作れるんだった』と思い出して、実験しアイスとかシャーベットとか作って絶賛に・・・・・・現在通常型氷室は氷が山ほどの完全な冷凍冷蔵庫状態でバッチグー。店にも出荷して更にウハウハな金銭状態。


「旦那様、仕事が一段落したなら、どっか外へでも出かける?」

一人考えていたら千代女が出かけようかと言ってきたけどなんか変な言い回し?

「千代女、何故に疑問形?」


「先ほど霞からの連絡があって、助五郎様が沈黙飯屋に向かうらしいから、見に行きたいかなと」

ああ、助五郎があそこへ行くのか。

「沈黙飯屋ね」


「沈黙飯屋てなんですか?」

「妙は知らないか」

「はい」


まあ、出来たのが俺らが都から小田原へ帰ってきてからだから、そんなに時間が経ってないし、妙はそんなに外へは出ないから知らないか、ここは説明だね。


「沈黙飯屋って渾名で本当は万国飯屋と言うんだけど、あまりの旨さに皆が沈黙するから」

「なるほど、それで沈黙飯屋ですか、勉強になりました」

妙! 素直すぎるぞ。それじゃ二十一世紀では振り込め詐欺に遭うぞ!


「旦那、それだけじゃないんだよね」

「旦那様、何が有るのでしょうか?」

「妙の好奇心は深いね」


「えーと、駄目ですか?」

うん、妙は可愛い! 此は誰も異論は言わせん!

無論、直虎さんも凜々しく可愛い、千代女も小悪魔ぽくって可愛い、美鈴はダイナマイトボディーで可愛い、結論、嫁は皆可愛い、そして、舜ちゃんも皆も可愛いのだ!


「旦那」

おっと、また考え事を。

「旦那様、お疲れなら又でも」


直虎さんが呆れ気味、妙が心配そうに、千代女と美鈴は笑いをこらえている。

ここは確りしないとだ!


「だーいじょうぶ! まーかせて!」

シーンと言う音が聞こえそうなしらけ具合に・・・・・・鳥坂先輩のマネはこの時代には早すぎでした。


「まあ、旦那、お茶でも飲めや」

「お医者様を呼びましょうか?」

「美鈴よ、甲賀秘伝の気付け薬を」

「はい、直ぐに」

「叔父上、何を?」


「済みませんでした」

そして皆に謝りました。


「改めまして、沈黙飯店の店主は風魔出身。彼は風魔下忍で都行きにも参加していた。それが色々聞いて手伝わせたら、料理の才能があったので都で俺の補助をさせる事にした。最初は手伝い程度と思ったが想像以上に腕がいいから色々教え込んでいったら驚くなかれ、人を唸らせるほどの料理を作り上げて下忍から料理人に仕事替えをしたのさ」


「それが何故店を?」

「まあ、確かに店を出すより御本城様(北條氏康)の料理人になるほうが普通だよね」

「はい」


「それは語るも涙聞くも涙の物語」

「あれは、千代女のお付きである斬女と料理好きの小武が出会ってしまった。元々何の繋がりもない二人だったが、一目惚れしたんだよ」


「素敵」

「一目会った瞬間に恋の花咲く事も有るんだけど」

「普通の男女ならそれも素敵だが事は忍び同士でしかも風魔と甲賀、まず結ばれることはない」


「千代女さん、そうなのですか?」

「妙様、いくら味方同士でも風魔と甲賀、違う流派では、いつ敵対するか判らないため無理なのですよ」

「可哀そうに」


「そこで、旦那が動いたわけだ」

「まあね」

「斬女に関しては千代女から出雲殿に連絡して許可を受けて、小武は俺の技量を教えるということで料理人として引き抜いたわけ」


「更に、小田原市内に諸国の噂話や何やらを収集すると言う名目で店まで出させて、そこの店主と女将として頑張って貰っていると言うこと」

「旦那様、素敵です」


「照れるな」

「それだけじゃなく、旦那様は二人に名字と名前を与えたんですよ」

「成り行きだけどね」


「お名前は何と言うのですか?」

「小武には瀬川慶四郎、此は瀬川はなんとなく、慶四郎は俺の長四郎から、斬女は霧恋としたんだ」

「結構いい加減に見えるけど、旦那様は相当頭を悩ませていましたよ」


「美鈴、バラすなよ」

和気藹々だから良いけど。霧恋は良いんだ、天○無用のヒロインに似ていたから、けど小武の方は戦う最強コックに似てるからって付けた名前だけれど飯屋の渾名が一致するとは、俺ってエスパー?


「じゃあ、行くか」

「行きましょう」

「行こう」

「おー!」

「オー!」



永禄元(1558)年十月三十日


相模国西郡小田原


「お土産も買えたので、そろそろお腹が空いたのじゃ」

「それでは、お勧めの万国飯屋へ行きましょう」

「そうなの、お勧めはカリーなの」


「カリー?」

「カリー、天竺料理だそうです」

「天竺とは楽しみなのじゃ」



永禄元(1558)年十月三十日


相模国西郡小田原


「チッ、しけた町だぜ」

「違いねー、彼方こちらに捕り方が居やがるぜ」

「俺らは、管領様(里見義堯)の命令で来ているのに、仕事が出来やしねー」


「へっ、押し込みに辻斬り、拐かしが命令とはな」

「そう言うな兄弟よ、天に唾吐く伊勢に迎合する下郎どもなんぞ、どうしようと構うこたぁないって」

「ヘッヘッヘ、全くだぜ、あくせく働いたってどうせ年貢で盗られちまうんだ。一度きりの命だ。面白おかしく過ごさなきゃ損だぜ」


「おっ、女らだけか、良い獲物だぜ」

「ひいふうみい、五人か」

「何処かの武家の娘と侍女か」


「一人はトウが経っているから売り飛ばすには安いだろうが遊ぶにゃ良いか」

「あの幼いの二人は俺に任せろ、確り仕込んでやるぜ」

「相変わらず好きだな」


「ヘッヘッヘ」

「行くぜ」



永禄元(1558)年十月三十日


相模国西郡小田原 最上義姫


貴子や喜多たちと万国飯屋へ向かっている最中、変な男どもに行く先を塞がれたのじゃ。

「何やつ!」

喜多が誰何すると、その男どもはゲスな笑いをしてきたのじゃ。


「へっへっへ、お前ら大人しくしな」

「俺たちと一緒に来て貰うぜ」

「可愛がってやるぜ」


「無礼者」

「へっ、無礼者だってよ」

「俺らは公方様と管領様の家臣だ」


「そんな話が信じられますか!」

公方と管領とは足利と細川か?


「戯けが、その様な嘘を信じるか!」

「チッ、構わねえから、痛い目に遭わせてやれ」

「いひひひ」


妾の手を貴子がギュッと握って震えているのじゃ、妾が毅然とせねば成らん。しかし氏家の爺の言うようにお付きの者を連れてくるのであった。済まぬ貴子、喜多よ。


「グワー!」

喜多が短刀で我らを守ろうとしたとき、いきなり野盗どもが悲鳴を上げたのじゃ。見ると額に物が当たったのか血を流している者や手に棒手裏剣が刺さって得物を落としている者もいたのじゃ。


「何をしている!」

「何だと!」

「この小田原城下での乱暴狼藉、お天道様が許してもこの僕が許さない!」


絶体絶命の危機に現れたのは年の頃十代半ばぐらいの若武者と数人の武者達だったのじゃ。

思わず格好いいと思って胸がキュンとしてしまったのじゃ。

親父の癌は6月に手術と決まりました。

本人にも告知済みで日々頑張っております。

皆様、色々お見舞いありがとうございます。


江戸波見頓は彼の有名なエドモンド・ハミルトンから取っております。無論康秀のペンネーム。

そして最強の戦うコックはミズーリのコックです。


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