第百二十四話 海賊来る
大変お待たせしました。
八月以来実に五ヶ月強の更新です。
親の癌などで更新できる済みませんでした。
今年もありがとうございました。
来年もよい年でありますように。
永禄元(1558)年九月十八日
■和泉国堺 池朝氏
「北條殿、いや池殿、一別以来です」
「毛烈殿もお変わりないようで」
ふむ、以前の威勢の良い毛烈殿と違い顔には焦りと焦燥が見える。
うむ、黙ってしまったか、ここは私が話を投げかけるしかあるまい。
「王直殿の事は聞きましたが、毛烈殿はよくぞご無事で」
「いえ、折角の池殿の忠告を無視した挙げ句、親父殿(王直)を捕らわれただけで無く、騙し討ちを受け、多くの仲間を失ったどうしようも無い阿呆です」
「そう悲観なさらずに」
「儂が池殿のご忠告を真面目に考えて注意しておればこのような仕儀には成らなかったのです。その為に王一枝(王直の義児)も殺され、仲間は散り散りで今は僅かな者だけが付いてきてくれているだけで、とてもとても親父殿を助け出す力など無いのです」
「聞いたところでは、西国ではけんもほろろだったとか?」
「左様です。大友も松浦も親父殿が捕らわれたと聞いた途端に、我らに会ってもくれなくなり、無論協力を頼んだが門前払い、あろう事か松浦は親父殿が屋敷と残しておいた家財を全て没収までしたのです。我らがそれに対して意見すれば、海賊衆をけしかける始末」
「それは、苦労なさった」
「全く腹立たしい事この上ない」
「ご安心なされ、我ら北條はそのような無体なことは致しませんぞ。御本城様は義を以て政をしております。それに窮鳥懐に入れば猟師も殺さずとも申します故に、我が北條は毛烈殿達を歓迎いたしますぞ」
「全く以てありがたい」
「そこでなのですが毛烈殿、資材資金等は我が家で持ちます故、一旦船などの修繕をしてから、水先案内を付けるので、小田原へ向かっていただきたい」
「小田原へとは?」
「坂東にある我が実家で、彼の地で御本城様と会い今後のことを相談していただきたい」
「しかし、明と更に離れるは親父殿の奪還が遠くなる」
「心配無用とは言いませんが、王直殿に明の策謀を示唆した手紙を渡すように指摘した知者が御本城様である北条左中将様の元に仕えております」
「なんと、あれほど的確な予言をした軍師がいると」
「左様、正に古の太公望か諸葛孔明かでしょうな」
長四郎、すまんな、お前さんの知恵を最大限利用し、毛烈殿を説得させて貰うからな。
「確かに、にっくき胡汝貞(胡宗憲)の策謀を全て当てていました・・・・・・その後の舟山の襲撃すら指摘されていたにも関わらず、本気にしなかったのが・・・・・・」
うむ、毛烈殿が暗くなってしまった。
「毛烈殿仕方なき事と言えましょう。私とてあのような予言の類いを読まされれば信じることは出来ませんぞ」
「それでも・・・・・・」
「後悔先に立たずと言いますから、これからの事を考えましょう」
毛烈殿は黙っているが、時が過ぎるのがこれ程遅く感じるとは。
「わかり申した。軍師殿の知恵にすがる事に致します。よろしくお願い致します」
「任せてくだされ。直ぐさま小田原へ連絡を入れ受け入れ体制を整えましょう」
「忝い、北條殿は大友や松浦と大違いだ」
「我らも王直殿とは良き関係を築きたいと常日頃思っておったのですから」
「いえいえ、お恥ずかしながら、今の我らには往年の力など無いのですから、北條殿に縋るしか無いのです」
うむ、以前会った時と違い、腰が低くなったと言うか、荒波に揉まれたというか、大分角が取れた気がする。
「取りあえずは、暫し休み準備を続けてくだされ」
「忝い」
永禄元(1558)年九月十八日
■和泉国堺 池朝氏
ふむ、取りあえず、毛烈殿の部下達を含めてしばらく滞在する準備は整ったが、ここからが大変だ。先ず今回は雑賀衆を仲介に熊野衆に水先案内を頼んで、今回に限って言えば大王崎の九鬼と知多の佐治へ根回しを頼むしかないか、本来であれば九鬼を傘下に出来れば良かったのだが詮無きことか。
早速、御本城様と親父(幻庵)に長四郎に暗号文で細評を伝えねばならんか、これはまた徹夜だな。ここの所の連絡の多さでそろそろ暗号を使える人材が足りなくなってきているが、そう簡単に増やすわけにも行かぬのが悩みどころだ。
「あなた様、今宵は如何致しましょうか?」
「月、済まんな。明日ならば大丈夫だと思う」
「そうでございますか、お仕事ならば致し方ないですね」
「すまないな」
「いえいえ」
「その分、明日と明後日は十分に相手するからね」
「はい」
照れている月はまたぐっと来るが、今宵は我慢我慢だ。
永禄元(1558)年九月二十日
■相模国西郡小田原城 三田康秀
都の朝氏殿から毛烈殿との会談の結果と今後の対応について暗号文が届いたので、氏康殿に呼び出しを受けて、城へゴー!
で、着くと、氏康殿、幻庵爺さん、氏堯殿などが待っていた訳だ、俺は最後から三番目で、二番目は長順殿、尻は新九郎だった。
「さて、皆揃ったので、はじめるとしよう」
氏康殿の話から会議は始まった。
「さて、新三郎(朝氏)からによれば王直殿の片腕毛烈殿と部下が小田原へ向かうと言う確約を得た。これにより長四郎が画策していた倭寇の技術などを手に入れる事が出来る訳だ」
「しかし、毛烈殿だけでは十分でない。そうだな長四郎」
ここで来たか。
「はい、確かに倭寇の技術などなら毛烈殿だけでも十分ですが、やはり王直殿がいるといないとでは今後の南方への飛躍に対する影響力は段違いです。ここは当初の計画通りに、王直殿奪還作戦を毛烈殿と共同で計画しなければいけないとおもいます」
俺の話に氏康殿以下の面々が頷いた。
「確かになんと言っても、古の太公望か諸葛孔明かと言われる長四郎だけの事はあるの」
「左様だな」
ちょー!なんてことを言ってくれるんじゃ!
笑いながら、幻庵爺さんに見せて貰った新三郎殿からの文に王直殿の危険度を教えたのを俺のせいにして、太公望だの諸葛孔明だのと褒めたとか・・・・・確かに作戦を立てたのは俺だが、太公望だの諸葛孔明だのは大げさだい、俺は単なるカンニングのチート野郎だぞ!
それに、諸葛孔明の様に無能な主君に仕えて過労死するまで働きたくないやい! 俺は老後は悠々自適に自堕落に過ごしたいんだい!
「まあ、長四郎をからかうのはこれ位にして、毛烈殿を迎え入れる準備をすることだ」
「長四郎、首尾はどうか?」
まあ、真田さんじゃないが、こう来ると思って、順次準備はしているがね。
「はい、港湾と造船所の構築は進んでいます。更に新型の大鋸によって船材としての松、楠、杉、檜などの板材と竜骨用の太材も乾燥が続いています」
「うむ、重畳だ」
「更に、針金の製造に成功しましたから、線材からの丸釘の製造も始めています」
「和釘に比べて製造が容易だそうだの」
「はい、それに船底用の銅板に銅釘も順次進んでいます」
「フナクイムシ対策か」
「アレはやっかいだからの」
「その通りです。銅板と銅釘で船底を覆えば、フナクイムシも怖くはありません」
「それにより、船を強固な物として」
「外洋に打って出る訳じゃ」
「はい、それらを中心に、船団を組んで毛烈殿の倭寇衆と訓練中の海兵隊及び風魔、伊賀、甲賀、雑賀などの連合により杭州にて王直殿の奪還をはかる所存」
「旨くいくかどうかは、毛烈殿の協力次第と言うことか」
「はい、しかし、新三郎殿から文では毛烈殿は王直の奪還に命をかける所存らしく、大丈夫といえるかと」
「確かに、人物評価に定評のある新三郎の見立てだからさほど心配は無いとは思うが、念には念を入れるようにすることだ」
「無論です」
こうして、俺が画策してきた王直以下の倭寇勢力を傘下に収めるか、同盟者として台湾あたりに割拠して貰いポルトガルやスペインの横暴からアジアを護る作戦は初動が始まった訳だが、果たしてどうなるやら、心配だが、やるっきゃ無い!
今回も、三十一日17時に伯父が倒れて先ほどまで病院に行ってました。