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三田一族の意地を見よ  作者: 三田弾正
第貳章 小田原編
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第拾貳話 新九郎死す!

余四郎と氏政のすれ違い、何れ解消されるのか?

天文二十三年十一月十五日(1554)


■相模國足柄下郡 北條幻庵久野屋敷 三田余四郎


今小田原城下は、沈痛な趣になっている。何故なら先日、北條氏康殿の御嫡男新九郎氏時殿が急死したのである。事の突端は綾姫と竹千代丸が駿河へ旅立って僅かしか経たない、七月二十日。一昨年北條家により無理矢理隠居させられた前古河公方足利晴氏が、同じく無理矢理廃嫡された嫡男藤氏と共に、新たな関東公方足利梅千代王丸殿が御座所としていた鎌倉葛西谷を脱出し、旧来の御座所である下総国古河城に立てこもり反北條の檄を発した事にある。


それに呼応したのは、上野桐生城主佐野氏、下野小山城主小山高朝、下総森屋城主相馬整胤などで、本来であれば味方するはずの古河公方の宿老であり公方奏者でもある下総関宿城主簗田晴助、栗橋城主野田政保、公方御一門幸手城主一色直朝は晴氏を諫めたが、晴氏親子に聞き入れられず結局は北條氏康、足利義氏側に立って古河城を攻撃することとなった。


その戦いには、北條家嫡男北條新九郎氏時殿も参陣するので、小田原城で出陣を見送ったが、まさかそれが今生の別れになるとは、その時は誰も思っていなかった。


古河城を包囲しつつあった十月二十日、前線指揮をしていた氏時殿に、古河城から射られた矢が太股に刺さったのである。その時は矢を抜き手当をして何ともなくいたそうだが、数日後から四肢が痺れ始め舌が回らなくなり、遂には喉が詰まり、体が弓なりに反っていったのである。しかも意識は確りしているため、看病している者達も恐れるほどの苦しさに見えたそうだ。結局あらゆる手当を従軍医師がしたのだが全く手に負えず、河越城まで帰ってきたところで亡くなられた。


何とも史実通りに新九郎殿がお亡くなりになるんだろう。しかもこの症状から見ても破傷風の可能性が非常に高いじゃないか。この当時の医療技術では、此ばっかりはどうにもならなかった。何と言っても腹の貫通傷とかに馬の小便を飲ませて治すとかしていたのだから。せめて前線ではなく小田原であれば傷口の消毒等でリスクを下げられたかも知れないのに。此ではあの氏政が当主になってしまうじゃないか!


汁かけ飯とかの逸話で愚将というレッテルを貼られてはいるが、実際は手腕は有る。けど、嫌みたらしい所が自分とは合わないんで此は非常に困った。このまま行けば粛正或いは捨て駒ルートになりかねない。かといって、上杉謙信の越山で向こうに味方しても捨て殺しになるだけだし、やっぱり藤菊丸の家臣ルートにしておくのが無難か。


しかし武田の姫との婚姻はどうするんだろう?史実通り氏政と結婚させるのかな。まあ兄嫁と結婚とか普通の時代だからあり得ると言う事か。何はともあれ、暫くは悲痛な気持ちで一杯だ。


攻城軍側は毒矢にやられたと怒りにまかせて、城を落城させ足利晴氏、藤氏親子を捕らえたのだが、氏康殿は嫡男氏時殿を亡くしたのに、捕らえた2人を政治的な事を考えてか相模国秦野に幽閉するだけにしたけど、本当なら期待の跡継を亡くしたのだから、その心中は自分なんかには判らないが、内心は八つ裂きにしても飽き足らない状態だろう。



天文二十三年十一月二十五日


■相模國足柄下郡 早雲寺 北條松千代丸


兄新九郎の葬儀がしめやかに行われてはいるが、私としては心中穏やかではない。あの活発で朗らかな兄が何故あの様な死を迎えなければ為らなかったのか!北條家四代目を期待されていた兄が、何故あんな場所で死ななければ為らなかったのか。何故あの前公方は蟷螂の斧のような真似をしたのか。政治的な事とは言え、何故父上は奴等を始末しないのかと言う思いがあるが、為政者としての顔がある以上は動けないのは判る。が、せめて藤氏だけでも始末した方が後々良いのでは思うが、父も考えに考えた末の事であろうと思うしかない。


しかし、困った。いきなり私にお鉢が回ってくるとは。しかも兄上の代わりに武田家の姫と婚姻せよとも言われるとは。確かに嫡男氏時亡き後跡を継ぐのは私になるはずだが、藤菊丸のほうが品行方正で好かれるように見えるのだが。それに敢えて兄上を引き立てるために、愚物を演じてきた私を何故父上達は跡継ぎに擬すのかが判らん。ここは聞いて見るしかないな。


葬儀が終わり早雲寺の幻庵殿の部屋に案内されると、其処には父上、氏堯叔父上、幻庵老、左衛門大夫(北條綱成)が待っていた。


「父上、お呼びと聞きましたが」

そう言う私を挨拶を聞きながら、父上達は座るようにと無言で示すので、目の前に着座した。


「呼んだのは他でもない。お前の元服と家督、それに武田との縁組みのことだ」

氏堯叔父が座ると直ぐに話し始めた。私としては兄上の葬儀直後の事で嫌な気がするが、此も戦国のならいと思うしかないのであろうか?


「氏時殿が亡くなられた今、松千代丸殿が家督を継ぐのが家中の乱れを防ぐ手段じゃ」

幻庵老がそう言うが、家中での私の評判は芳しくない。兄上の為に敢えてうつけを演じてきたのだから。この私が家督を継げば、家中の乱れの元になるのではないか?


「お言葉で御座いますが、私は亡き新九郎兄上に比べ遙かに劣ります。また日頃の言動態度で家中には嘲りや軽く見る者も多々おりましょう。私より藤菊丸の方がよほど、跡継ぎに相応しいかと存じます」

そう言うと今まで黙っていた父上が目を見開いて私の目を見ながら話し出した。


「松千代丸、お前が新九郎のためを思い、態とうつけを演じてきたことは此処に居る者は知っている。本来であれば、儂等もそれを敢えて見て見ぬ振りをしてきた。もう良いであろう。事が事だ、お前を世継ぎとする事にした」


父上達に気がつかれていたとは、流石父上達だ。しかし父上達が納得しても評定衆は納得するのであろうか?


「評定衆の事なれば、心配することもない。万事この老人に任せる事じゃ」

「幻庵老、頼みますぞ」

「なんの、少しずつ松千代丸の良き点を見せていくことで充分動けるわい」


「どうだ、松千代丸、此でも家督を継ぐのは嫌か?」

父上達には敵わないな。降参しかない。

「松千代丸、世継ぎとして誠心誠意努力することをここに誓います」


父上達の顔が安堵した感じになるのが判る。

「松千代丸、亡き新九郎の名を継ぎ、新九郎氏政と名乗るがよい」

「はっ」


「氏時殿の不幸があったとはいえ、此で北條も又安泰じゃ」

「氏時兄上の分まで北條をもり立てる所存」

「儂等も新九郎殿をもり立てようぞ」


兄上、必ずや北條の悲願を叶えて見せます。何れ其方へ参ります時に緩りと酒など酌みかわしましょうぞ。それまで其方でお待ち下さい。


「所で、武田との縁組みのことじゃが」

幻庵老、折角現実逃避していた事を思い出したか。

「そうよ。此は当家、今川、武田との同盟に係わる事、氏政殿には因果を含めて貰うしか有りませんぞ」


叔父上!私の意見は無しか!!

「氏政殿、誰ぞ好きなおなごでもいるのかな?」

左衛門大夫!気になる子とかはいるけど其処までじゃ無いやい!未だ童貞だよ!!


「いや、それは未だ」

「ならば、諦めよ。武田晴信の娘と言えども、お前を取って食らう様な姫では有るまい」

「そうよ、話によると母親似の美人と申すぞ」


仕方ない、仕方ない。北條家の為、亡き兄上の為に我慢して婚姻しますよ。決して美人だからとかじゃないからな、絶対だぞ!!


「判りました。北條家の為、お受け致します」

「それは重畳」

「ようございましたな」

「うむ、氏政、精進せよ」

「はっ」


やっと終わったと思ったが、更に幻庵老の話が始まった。年寄りは長話だからだ。

「氏政殿。つかぬ事を聞くが、余四郎になんぞや遺恨でも有るのか?」

余四郎のことか。ここは保護者に確りと言っておいた方が良いな。


「余四郎に遺恨など有りません。余四郎の活発さ利発さには、私も非常に期待しております。普段であれば藤菊丸の友として充分ですが、余四郎の場合少々他人とは違い大人すぎる考えが御座います。あの人物評価をするが如きの目は、人質の癖にと譜代の家臣に反感を買う恐れが御座いますれば、ここで私が釘を刺す事で、他の者が余四郎に嫌がらせをするようなことが無いようにと考えた次第。しかし松田の嫡男には嫌われたようですが、大道寺の親父殿や近藤出羽などには好かれているのですからな」


「なるほどな、確かに余四郎には他人に無い物を持っている。実際千歯扱きや各種農具など目を見張る事を考える能力がある。それを潰させぬようにと言う訳か」

「はっ、余四郎の伸びしろ未だ未だと存じます」


「氏政、今いきなりは無理であろうが、何れは余四郎ともよく話し合い、お互いに良く知ることをせよ」

「はっ」

「所で、そうなると、余四郎と妙の婚姻には反対ではないのじゃな?」


「余四郎であれば、妙を嫁がせるに不足有りません。願わくば余四郎に少々でも宜しいので所領を与えて頂けませんでしょうか?」

「氏政、それはどの様な為だ?」


「はっ、話に因りますと余四郎は新しき農のあり方や、色々な事を試しているようですが、今の幻庵老の所領での実験状態では些か出来辛いことも有るようです。それならば自らの所領でそれをやらせた方が良いかと存じます」


「なるほど、それほど余四郎を買っているとは。此は左衛門大夫の様に北條へ婿入りが相応しいか。どうせ三田弾正少弼は四男であるとして捨てた状態。余四郎の折角の提案も皆宿老達と二男三男の反対で実行出来ずにだ。一人野口刑部少輔のみが細々と自領で続けていると有るからな」


「左京殿、いっそ余四郎元服のおりに刑部少輔を召しだし余四郎の宿老に据えてはどうじゃ?」

「幻庵老、それは良い考えだ。兄者どうじゃ?」

「うむ、確かに余四郎としても、気心の知れた者の方が良いな。そういたそう」


とんとん拍子で決まったか。余四郎、お前の人生決まったみたいだな。実際の所、心を隠していた俺は、お前が羨ましかったと言う事もあるんだけど、お前を兄弟と認める以上は、俺がお前の後ろ盾になってやる。北條家なら家族兄弟は皆仲良しだからな。けどこき使うから覚悟してくれよな。家族に成る以上はそれ相応の苦労はして貰うぞ。



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