はい、こちらでお待ちです。
「いや、あ、あれ、何でいるの?いやまぁ、ここにいるってことは、まぁそうか・・・」
「お久しぶりです」
「あ、うん。10年振りぐらい?」
「そうですね、大体。そういえば、サシ飲みのこと、皆さんにちゃんと言っておきましたよ。驚いていました」
「え、本当に言ってくれたんだ。ありがとう」
「いえいえ。前田さんが特に驚いていました。呆然としていました」
「アハハハ、前田さんは八木さんが好きだったから。気づいてなかったでしょう?」
「いやまぁ、今だから言えますけど、気づいてはいました」
「本当に?他人にまったく興味なかったじゃん」
「まあ、皆さんほど興味はなかったかもしれませんが。ある程度、フリはしていました」
「フリって興味のない?何で?」
「噂話が嫌いというか。田舎という地域柄もあってあの職場、結構、他人の話が大好きな人達が多かったじゃないですか。それに嫌気がさして。元々人付き合いも好きではないというものもありましたが、その流れでです」
「そうだったんだ。・・・ねぇ、話は全然変わるけど、言いたくなければ全然いいんだけど。八木さんは何で死んだの?」
「・・・すみません、自殺なんです」
「・・・・・・そっか、うん、まぁ人には色々あるよね」
「すみません。川島さんからすれば、腹が立つと思いますが」
「そんなことないよ。驚いたけど腹なんか立たないよ。さっきも言ったみたいに色々あると思うし。私の病気も誰のせいでもないし」
「ありがとうございます。実はあの会社に転職した時には、55歳で死ぬことは決めていたんです」
「え?じゃあ、初めて会った時にはもう自殺する気だったの?」
「はい、そうなんです」
「何でまた?いや、本当に言いたくなけれーーー」
「離婚して子供と逢えなくなったからです。死ぬのは、養育費を払い終えたらと決めていました」
「・・・いや、そんなの分かんないじゃん。逢えるかもしれないし悲しむよ・・・・・・、いやゴメン、色んな事情があるよね」
「いえ、とんでもないです。あのサシ飲みの提案された時、あと10年ほどで死ぬんだけど良いのかなって思いました」
「八木さんの気持ちは知らなかったけどもちろんだよ。何であれ、飲み会に一切来ない人気者の八木さんとサシ飲みしたってことにしたらきっと皆、羨ましがってくれるから。もしくは既婚者で子供もいたのにって怒ったかな。でもいいの、あの同情の視線には腹も立っていたから。噂話も凄かったでしょう?」
「はい、僕もあれには本当に苛立っていました。だからきっと今頃、僕の話でもちきりですよ。『遺書もなかったんだって』『いや私は、一言さようならって書いてあったって聞いたよ』『何か悩んでいたのかな?』『天涯孤独なの?』『子供がいるって聞いたことがあるような』なんやかんやと」
「アハハハ。ありそうだね。確認出来ないのが残念ーーー、あっ、ゴメン、不謹慎だよね」
「いえ。川島さんはここでずっとお子さんの様子を見られるんですよね」
「うん。何か子供のことだけ見られるんだ。神様に感謝を伝えたいけど、誰にも会えないんだよね。ここどこなんだろう?何か知っている?」
「僕も誰にも会えていないので分かりません。ただ、何となく感覚で分かるのは、僕は罪を償うことになりそうです。ここではない場所で」
「へっ?罪?何の?」
「子供を悲しませた罪です。自分の都合で勝手に離婚して、自分の都合で勝手に自殺する。文字通り万死に値します」
「そんなこと・・・・・・。養育費を払うだけでも立派だよ。世の中には払わない奴らもたくさんいるみたいだしね」
「いや、そんなことは当たり前ですから・・・・・・・・・、そろそろみたいです。神様?が、罰を受けるのは川島さんにサシ飲みの件を伝えてからと、会わせてくれたみたいです。最後にお会い出来て良かったです」
「え、いや、でも、そんな・・・・・・。ね、ねぇ。本当にありがとう。サシ飲みしたことにしてくれたうえ、それをわざわざ皆に言ってくれて。私が病気になっても色眼鏡で見ずに変わらず接してくれて。八木さんだけだった。嬉しかった、本当にありがとう」
今にも消えそうな八木さんに私がそう言うと、彼は何かを言いながら笑顔と共に消えてしまった。
呆然としながら、いつもの様に娘を想うとその様子が頭に映像として入ってくる。
夫と共に楽しそうに朝食のトーストを食べていた。
その後、顔も名前も知らない八木さんの子供を思うが、何の映像も入ってこなかった。
「お久しぶりです。何年、いや何十年振りかな?」
「君が亡くなってからだから、約40年振りかな」
「ありがとう。あなたのお陰で咲の結婚式や孫の顔まで見られた」
「そんなことないよ。咲がしっかりしていたのは、きみのお陰だ」
「咲は私に言った。『お父さんのことは任せて』って。まだ10歳のあの子が」
「・・・・・・、本当にきみのお陰だ。ありがとう」
「やだ、あなたが泣くのを見るのはこれで3回目ね。咲の成人式と咲の結婚式に続いて」
「君のお葬式ではただただ呆然としながらも、咲に絶対寂しい思いをさせないと決めていたから、泣く余裕もなかったよ」
「・・・あなたは咲を悲しませなかった。だからここでまた逢えた」
「え?というか、ここどこなの?天国というやつ?」
「さぁ?私も未だに分からないの。でも何となく分かる。今から私達がいくところが。何か感じない?」
「言われてみれば何となく感じる。うん、良さそうなところだ」
私達は向かう。
いつの間にかいた多くの人達と共に。
八木さんはいけるのだろうか。
もしくはもういけたのだろうか。
私達は暖かい光に包まれる。




