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金色の獅子 後編



「この砦はオリンポスの魔術師の強化魔法がかかっています。余程の攻撃でもない限りは…」


「いや、どうだろう。あいつも人語を話していた。B級クラスで、あそこまでの高度な動きは見たことがない」


防壁があれば「ここに壁があるから進めない」という考え方は出来るが、1回2回叩いて破壊出来なければ諦める程度の知能のはず。


「ただ、さっきの変異種みたいな気持ち悪さは感じなかった」


「……操られている?」


「そんな事、って言いたいが…あの変異種だとやれそうではあるな」


「すみません、たまたま居合わせただけなのに巻き込んでしまって…」


砦の裏手へ、と討伐隊が促す。


「……いや。勝手に首を突っ込んだだけだ」


軽く笑う。


「最後まで手伝わせてくれよ」


「どうしてそこまで……」


「……理由はない」


嘘だ。


討伐隊はエリシオンでは捨て駒だった。


身分の低い新人。

復帰の望みが薄い怪我人や老人。

先のない病人。

そして、同じく行き場のない戦闘亜人。


「援軍が来るなら、それまで俺達が食い止めるさ」


そんな部隊に援軍?助けが来る?正直、信じていない。


「来るなら、な」


ドン!ドン!と砦が揺れる。

剣を握り直す。


「俺達は来ない前提で動くだけだ」


再びバリンと近くで音が響く。やはり突っ込んで来た。


「動きを止めます」


「わかった」


「大気よ震えろ」


トゥルムの周りが真っ青に光輝く。

この数を範囲にする魔法なので、これで足止め出来ないとかなり厳しいだろう。


「ブリザード」


視界が真っ白に染まる。辺り一面が銀世界になるほどの吹雪魔法。

おお、と歓声が上がる声が聞こえたが、一抹の不安はよく当たる。


「やっぱりか」


「鎧に、氷耐性の加護ですね」


「トゥルム、討伐隊と後ろに下がってろ」


トゥルムの対策がされているのは明らかだ。

ふっと息を大きく吐き出してアイテムボックスから剣を引き抜く。


「王宮剣術は人前で使いたくないんだけどな」


年に数回、数時間の面会で父親から教わった剣術。

狼亜人が王族直伝の剣術を使いこなす姿はさぞや奇っ怪だろう。

それでもこの剣術は、父との思い出であり誇りだ。


「……爪や牙で戦うより、こっちの方がやっぱ好きだな」


構え、突き、剣で流し、そして太刀切る。

父の得意な剣術は大太刀と呼ばれる大剣剣術だったが、大太刀の扱いは子供ながらに難しかった。

狼亜人になってからは人間の時よりしっくり来ている。


「クソ」


トゥルムが背中から支援魔法を使うが、一人で戦うにはこの数だ、限界が近い。そもそもここまで駆け付けるのに力を結構使ってしまっていたのがここに来てだいぶと響く。

ゴブリンが着こんでいる鎧はかたく、いまだに背後にいるハイオークはこちらを静観していて、数が減っているのかさえわからない。


「ヤバいな、そろそろ無理か…」


その時だった。

キラッと視界の端に金色が光る。



「下がれ。あとは私が引き受ける」



低く、しかしよく通る声。


もくもくと舞い上がる砂煙。

その向こうに立つ後ろ姿は精悍で、太陽を一身に受けていた。


背中まで流れる鬣は、光を編み込んだかのように黄金に輝く。


目の前に金色の獅子が立っていた。

大地が一歩ごとに沈む。



「オリンポスでこれ以上の狼藉は許さん」



その言葉が落ちた瞬間。


ハイオークが咆哮し、斧を振り上げる。


――振り下ろされる前に。金色の軌跡が走った。


次の瞬間、ハイオークの上半身が滑るようにずれ落ちる。

血が噴き出すよりも早く、金色の獅子は次の個体の懐へ踏み込んでいた。


「来て下さった…」


魔法耐性など関係ない。

装甲など意味をなさない。

ただ圧倒的な純粋戦闘力。


「ネメア将軍!!」

「ヘラクレス様は我々を見捨てなかった!!」


砦から歓声が爆ぜる。ネメア将軍と呼ばれた獅子亜人は振り返らない。


ただ視線だけを流す。


「……妙だな」


トゥルムの違和感と同じものを感じ取ったのだろう。


あっという間にハイオークという統率者を失い、狼狽するゴブリン軍。


「ヘラクレス第三隊、放て」


静かな号令。


直後、空が黒く染まる。いつの間にか背後にはオリンポス軍が。


雨のように降り注ぐ矢。悲鳴は長く続かなかった。



少しの静寂が辺りを包み、そして勝鬨の歓声があがった。



砂煙がゆっくりと落ちる。


ネメアは振り返ると、立ち尽くす二人へと歩み寄る。


蒼い瞳が二人を射抜く。


「大丈夫か? “不思議”な旅人よ」


甲冑を纏った金色の獅子亜人。


その立ち姿は、一個の軍であり、オリンポスという国家の姿だった。


「私はネメアだ」


一拍。


「まず、オリンポスの民を助けてくれたこと、感謝する」


甲冑を着た金色の獅子亜人。

大型猫化亜人に分類され、獅子亜人と虎亜人は猫化亜人の双璧(トップ)だ。

それも軍将を付ける、身分の確約された亜人である。


「だから、俺の言葉も入ったのか……」


小さく呟く。


ネメアの目がわずかに細まる。


それは敵意ではない。


評価でもない。


――観察だ。






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