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変異種




歩けば3日の距離だったが、完全体である真っ黒い狼の姿になって、強化魔法も併用し1日足らずで駆け付ける。


「あの鎧に付いてる国章」


「オリンポス軍か」


街道沿いに大量のゴブリンの姿が見え、それと対峙するようにオリンポス軍が防衛前線を築いて闘っている姿だった。


「前線盾部隊に防御魔法を!!」


「押し返せ!!オリンポスに近付けるな!!」


そんな人の怒号とゴブリンの叫び声が入り交じっている。


「やっぱり変だぞ。ゴブリンはF級の冒険初心者でも倒せるレベル」


オリンポス軍の正面には100は超える盾を持ったゴブリンの上位種、ゴブリンナイト。つまり前衛部隊だ。

その後ろには弓を構えて中距離から狙撃し妨害を行うゴブリンアーチャーの中衛部隊。

さらにその後ろには杖を持った後衛のゴブリンマジックと、完全に軍隊の様相。


「あの巣穴のゴブリンに間違いない!」


匂いは完全にあの洞窟の匂いと一致。

数が少なかったのではない。3つに派生していたのだ。


「まだ、援軍は…。あのお方は…」


防衛砦の中は死屍累々と化しており、動いている人間も最早風前の灯。

それもそのはず。討伐とはいえ所詮ゴブリン。50~100人程度で来たはずだ。

蓋をあければ統率された400近い上位の軍隊ゴブリン。総崩れになるのも仕方ない。


「私は中衛を片付けます」


「俺は後衛を」


軽快にトゥルムが背中から飛び降りて詠唱破棄のアイスランスを弓部隊目掛けて唱えれば、こちらは後衛の魔術師ゴブリンを一気に片付けていく。


「ァァァァ!光っ!光!」


「…?」


「キタ!キタ!」


まず人語を口走った事にびっくりしたが、何より手応えが軽すぎる。

しかもトゥルムが魔法を放って十数体が倒された瞬間、あれだけ砦の前線を崩そうとしていたゴブリン軍団が一斉に茂みの中へと戻って行く。


「まずい、逃げられる」


「追いかけましょう」


森へ踏み込んだ瞬間、音が消えた。

さっきまでの怒号も、矢の風切り音もない。

枝を踏む音だけがやけに大きい。


「(しまった、討伐隊は残るように言うべきだったか…)」


彼らの仕事とはいえ、奴ら普通ではない。


「……妙ですね」


血の匂いはある。だが死体がない。

引きずった跡だけが続いている。


やがて、開けた空間に出た。


そこに――いた。


ゴブリンが、整列している。


「くそ、マジかよ」


盾持ちが前列。

弓持ちが中列。

杖持ちが後列。


既に整列が終わっている、その中央。


一体だけ、武器を持たずに立つ個体。


小柄。

体格は普通のゴブリンと大差ない。


だが、姿勢が違う。背筋が、伸びている。


「……」


目が合った。あのゴブリンキングと同じ真っ赤な瞳。

その瞬間、全身の毛が逆立つ。


獣の本能が告げる。


――危険。


ゴブリンが、口を開いた。


「確認」


低い。濁りがない。

そして、人語だった。


討伐隊の誰かが、息を呑む音がする。


「拒絶……反応」


その視線は、俺だけを見ている。

トゥルムでも、兵士でもない。


俺だ。


「変異種…か?」


「……何だ、あいつ」


次の瞬間、盾持ちが一斉に動いた。


横へ展開。退路を塞ぐ。

弓が引き絞られる。だが矢は放たれない。


様子を見ている。


――測られている。


「トゥルム」


「分かっています」


一掃出来るであろう大技の詠唱に入る。その瞬間。


弓持ちが一斉にこちらに向き直り詠唱妨害の射撃。


「ちっ」


踏み込んでトゥルムに向かう矢を全て払う。


すぐさま踵を返して一気に弓部隊の更に奥へと切り込む。


ゴブリンを統率する異質なボスへ。


爪が届く距離。振り抜く。確かに斬った。だが、恐らく浅い。


「……?」


肉を裂いた感触が、軽すぎる。変異種の目が、初めて揺れた。


「……異物」


低く、呟く。その瞬間、背後で爆音。


トゥルムの魔法が後衛を吹き飛ばす。流石の威力だ。

だが混沌種は視線を逸らさない。


「解析、終了」


その言葉と同時にゴブリンが一斉に退いた。


迷いがない。統率された軍隊だ。

そして変異種は、最後まで俺を見ていた。


「なんだったんだ…」


風が抜ける。気配が消える。

残されたのは、荒れた地面と、呆然とする兵士。


俺の爪に残った血は……妙に、冷たかった。






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