街道沿いの戦い・後編
野宿で使用した魔道具をアイテムボックスにしまっている最中、背後から物音と断末魔。
「……何体目だ、これ」
街道を進み始めて3日。
トゥルムの足元にはまたゴブリンの死体。
「夜間の襲撃がないだけマシとしましょう」
すでに二桁。そろそろ三桁に突入する勢いだ。
しかも、襲撃してくる数は増えている。
「しかし、異常ですね」
トゥルムが杖を握り直す。
「どこかでスタンピードが起きている可能性は?」
スタンピード現象が近頃頻繁に起こっていると、ギルドにも報告は上がっているのを思いだす。
「…ありうるな。国軍が討伐隊を編成したにも関わらずこの数だからな」
ときおりモンスター界隈では、スタンピード現象と呼ばれるものが発生する。
新たなボス個体、もしくは変異種が登場した場合によく起こる現象だ。
「新ボスに負けた旧個体、、までならまだ良い」
スタンピードは新たなボス個体に旧ボス個体の配下が巣穴を追い出されて溢れる。
「変異なら今のうちに叩かないとヤバいぞ」
自然と発する声が低くなる。
「じゃないと、手がつけられなくなる」
森の奥で、何かが鳴いた。
今までより、重い咆哮だった。
「…巣が近いのか?このままには出来ない」
「ギルドに報告しなくて良いですか?」
モンスターやその他の異常現象を発見した場合は、国ないしギルドへの報告義務がある。
「ギルドに報告するより、退治した方が速い」
街道から横道に少し入れば獣道が少しあるか程度の鬱蒼とした森の中。
それでも先ほどのゴブリンが通ったであろう道は残っていた。
「この先ですね」
少し行った場所に、山の斜面に洞窟のような入り口。
ゴブリンが数体入り口付近でうろうろしており、恐らくは見張りだろう。
「やはりスタンピードか」
洞窟の入り口から少し降りた先に、大量のゴブリンが。
更にゴブリンキングと呼ばれるリーダー格も見受けられる。
「よほど強い個体が現れたんだな」
見ただけでそのゴブリンキングがもうこの世には存在していない事がわかる程の状態。
「蹴散らします」
残りのゴブリンの数は50体程は居たが、トゥルムの前では「アイスボール」の一言。その一瞬で終わってしまった。
「ぎぎーーー!」
「見張りが騒いでるな」
洞窟から蜂の巣を叩いた時のような勢いでゴブリンが溢れだす。
下に居たゴブリンとは異なり、手には全員何かしらの凶器を持ってる。
「トゥルムはそっち、俺は向こうを片付ける」
私一人で片付けます、とトゥルムは言うがそろそろ体を動かしたい。
「(あれを使うまでもないか)」
軽く屈伸して、一挙に踏み込み正面のゴブリンを鋭い爪で切り裂いて行く。
ゴブリンの武器が振り下ろされるも軽く見切ってカウンターの攻撃。
「よし、悪くない」
倒す度に謎の違和感が募るが、一旦気にしないことにした。
「こちらは片付きましたよ」
涼しい顔で100体程のゴブリンを片付けたトゥルム。
もちろん、こちらも全て倒したがさすがに20体程だ。
「さて、巣穴のゴブリンキングのお出ましだ」
しかし、やはりここでも違和感。
「数が少ないですね…」
「前のゴブリンと今のゴブリンを足しても200ちょい」
ゴブリンのスタンピードの最大数は1000体だ。
巣穴には平均500体とも言われる程、ゴブリンの数は物凄い。
「まずは倒してから考えましょう」
1メートル程しかないゴブリンに比べ、キングは3メートルはある体。両手にはこん棒をもっていて、唇からは牙が見える。
そして燃えるような真っ赤な瞳。
「アイスランス」
トゥルムの一番得意としている中級氷魔法。無数の氷の槍がボス目掛けて飛んでいく。
「ガァァ!!」
地面をこん棒でドン!と叩いた瞬間に突風が巻き起こり、アイスランスがバラバラに。
「こん棒使わねぇのかよっ!」
「風ですか。相性が良くありませんね」
俺とは違って淡々と冷静に解析を済ませるトゥルム。
「ゴァァァ!!」
再び大声で叫んだ瞬間、再び突風がトゥルム達目掛けて飛んで来た。
「光盾」
トゥルムの前に立って全身を覆うサイズの光の盾を作り出してガード。
その間にトゥルムは次の魔法の詠唱へと切り替える。
「って、マジか」
ドスンドスンと大きな足音を立てて近寄って来たかと思えば、光盾にこん棒が振り下ろされてガンガンと更に大きな音が響く。
「(詠唱に時間かかってる。弱点技か)」
「ゴァァァァァ!!」
しかし、突風という魔法を使ったかと思えば物理的な攻撃オンリー。賢いのか賢くないのか…。
「ロック・レイン」
ドンと地面に杖をつけばゴブリンキングの頭上に大きな岩が出現。
それが雨程細かくなりゴブリンキングに降り注ぐ。
「ふぅ」
そんな事を言ってるがトゥルムは汗一つかいていない。
「さすがBクラスの個体。倒しに来て正解だった」
洞窟の中も確認したがここにはもう何も居ないようだ。
しかし、この巣穴でも気になる事はいくつか見受けられた。
孵化したであろうおびただしい卵の数に謎の爪痕などだ。
「(外にいた数と合わないぞ……)」
ギルドへ伝書鳩を飛ばして狼煙を上げて、倒したゴブリンキングのところへ。
「あとの調査はギルドに…どうかしましたか?」
既に魔石の回収を済ませたトゥルムが小首を傾げる。
「いや、このボス個体も変だったなって……」
そう言った矢先だった。
狼亜人特有の聴力が微かに音を拾う。
「………人の、悲鳴か?」
まだかなり先の方ではあるが、確かにこれは人の悲鳴だ。
恐らくオリンポスの国境の辺りだろう。
「ここ以外にも…?行くぞ」
「はい」
ー棒国、棒所ー
定期的に使い魔から“奴”の近状連絡が入る。
「………呪いはまだ解けてない、か。なら良い」
少しの安堵と少しの退屈。
5年と言わず、永遠にあのままなら良いのに。
まだ?安堵?解けたからなんだと言うのか。
「らしくない事を考えた」
それはノイズ。自分になのか相手になのか。
「引き続き見張れ」
補足
ゴブリンはF級モンスター(昼型)
ゴブリンナイト、アーチャー、マジックになるとD級
ゴブリンキングB級
魔石
モンスターの核。ギルドに出すとポイントと報酬が貰える




