LGランクの男
「イズモまではこの高速旅客船でも6日の距離です」
部屋に持って来て貰った朝食を食べて、4日目の船上からの朝日を眺める。
「スイート、正解だったな」
「ね?たまには贅沢するものです」
そう言った矢先、ドン!と船にわずかな振動。
「…………」
二人同時に顔を見合せ、そのままバルコニーへと飛び出して船底へと視線を。
「見えるか?トゥルム」
「いえ、、しかし、この辺りの海の魔物は」
再び、ドン!と大きく船が揺れ、スピードが落ちていく。
船が止まる、まずい。
それはすなわち、この海域のモンスターの格好の的になるということ。
「甲板だ!!」
急いで甲板に行けば……
既にその姿を現していた。
ウツボのような頭、蛇のような体、頭からしっぽの先まではトサカのようなヒレ。
そして全身、真っ青の体。所々黒く変色はしているが…。
「シーサーペントだぁー!!」
甲板はパニックになりかけていた。
船員や客が右往左往しており、シーサーペントは「ギシャーーー!」と雄叫びをあげている。
「ど、どうしてこんなところにA級モンスターが……」
「全員船内へ!」
S級の冒険者証を見せれば、船員は落ち着きを取り戻しコクリとうなずく。
「アイスランス」
船内へ移動する人々へ狙いを定めたシーサーペントの頬に、氷の槍がバシンと当たり、ギロッとアーサーとトゥルムへ狙いを変えた。
「一気に片付けるぞ、トゥルム!」
「はい!」
ーサンダーブレス!ー
一気に詠唱破棄の高火力の魔法が頭上から降り注ぐが、察したのかすぐさま海の中へ潜ってそれを回避。
「知恵はあるな」
「骨が折れそうですね」
海に潜られるのでは、体に乗り移って切りつけるのも難航する。
「くそ、こいつ、物理特化型だ!」
近くに来たところを切り付けるも、ガキィンと刃こぼれしそうな手応え。
「ちまちまヒットさせて、削……、、え?」
その男は突然現れた。
「んん?なんだなんだぁ」
そして、既に千鳥足だった。
「人がぁ、せっーーーかく、、うっっ……」
そして甲板から海へと胃の中のものを返却し、再び千鳥足でこちらにやってきた。
「あぁ、最悪だ、、この状況で酔っぱらいの相手は無理だぞ」
「誰ぎゃ、ぉりゃーょっぴりー」
最早呂律も回っていない、いや、何を言っているかもわならないほどの泥酔ぶりだ。
「仕方ありません。ブリザードで海面含め周辺を凍らせます」
つまり、この酔っぱらいも含めて、、ということだろうが仕方ない。
「どーーれーーーにーーーー」
「ブリザー……」
「しーよーう、、んん、よし、」
その太刀筋は見えなかった、と言った方が正解だ。
カッと光輝く斬撃がみえただけ。
「おぉ、今夜は俺様から刺身のご馳走をプレゼントだ」
恐らく混沌種であろうシーサーペントは真っ二つになっていて、既にその体はぐにゃりと崩れ落ちはじめていた。
「えっと、、食べるのは、、難しいかと」
「なーにーー!?あの魚は旨いんだぞ?酒のあてに、、ふぅえっぷ、、」
クリスタルのギルド証には4つのダイアモンドが並ぶ。
「ギルリー様だ……、、LGランクの」
背後から聞こえた別の冒険者の言葉。
そのランクが存在しているのは噂レベルだった。
あまりにも強すぎて、その人の為だけにSSSランクの上が作られた、なんて噂まである、、LG冒険者のギルリー・メルシエ。
「お、そこのべっぴん、酒ぇ、つぃーでくれ~」
そう言われたトゥルムは無言で顔面に氷魔法をかけ、立腹してスタスタとその場を後にした。
「………酔ってないよね?どうして酔ったふりをしているの?」
「いやいや………酔っぱらいさぁ。自分にねぇ、なんちゃっ、、うぇっっっ」
「いやー、申し訳ない。お恥ずかしいところを見せたな!」
船酔いだ!
と、食堂のバルコニーに座るギルリー。
既に机の上には大量の空き瓶が並ぶ。
「あ、あの、俺たちは何故呼ばれたのでしょう?」
「いやー、特に理由はない!」
がはは、と笑うギルリーを冷めた目でみるトゥルム。
「なら、お暇させていただきます」
「冗談だ冗談、、ところでべっぴん。今夜どうだ?」
「残念でしたね、私は男です」
そういってお冷やをドンッと目の前に置いたトゥルム。
あ、本当に怒ってるぞ……。
「冗談通じなさすぎるやつだな~」
流石に察したのか、くるっとアーサーの方へ視線を流す。
「そうだ、狼男。君に良いものをやろう」
先ほどシーサーペントを真っ二つにした剣を取り出す。
「良い剣なんだが、どうも俺には合ってなくてな」
「え?そうですか?一撃だったじゃないですか」
「あー、あれ……。あの斬撃は剣が君に反応して出たもんだから、実際は俺の技じゃないんだ」
ポンと渡された剣。
手に取ると…、、少しだけドクン、と共鳴。
鞘から抜けば反対側も見える透明度のある剣だ。
「……あれ、俺、、この剣知ってる?」
視線はすっとアーサーに。
少しだけ真顔になり、そして少し憂いのある瞳がアーサーを見つめた。
しかし、剣を見つめるアーサーはそれには気が付かない。
「そうか、そりゃ良かった」
再びギルリーを見る時には既に、先ほどと変わらない気だるい男が酒を呑んでいた。
視界の先に何かをとらえると、「あ、バレたか」と一言。
ニコっと笑ってギルリーはゆっくりと立ち上がる。
「またな、アーサー・ペンドラゴン」
「……えっ!?」
「もう、この船の用事は終わったんで、俺は帰るよ」
すたすたとバルコニーから海を見下ろす…。
「スキーズブラズニルどこだっけなぁ、ポケットに入るのは助かるんだが…、あ、こっちか」
荷物入れらしき袋から折り畳まれた何かを取り出し海に投げる…。
「ギルリー様!いつから船に乗船を…」
「……!!?」
再びドンッと揺れる船と、突如現れた巨大な船。
「ちょっと乗っただけだ、ケチケチすんな!」
そして、周りの視線などお構い無く、、あっという間にその船は姿を消した。
「嵐みたいな人だったな…」
「ええ、、一体なんだったのか…」
アーサーの手の中に残る剣は、妙に重たかった。




