イズモヘ
━━オリンポス━━
━━石盤の間━━
「マーリン。正気に戻ったか」
使いのカラスを撫でながら、旧友からの手紙を見つめる。
あの男が来たのはやはり偶然ではなかったのだ。
ゼウス
オリンポスの王
ヘラ
オリンポスの女王 188年 毒属性
「普通はそうよな」
謁見時間が終了し、誰も居ない石盤を見つめながらアーサーの名前をそっとなぞる。
「そうか、逃げなかったか……」
“ムー大陸の皇太子”は“名もなき王”となり、“混沌を晴らす王”へ。
「こんなにコロコロと変わるものも珍しいのぅ」
少しだけヘラの表情が和らぐ、だが、それも一瞬。
しかし、これでハッキリとわかった。
「……石盤は、、世界の真実をうつす。なれば…」
今ならよくわかる。
「これ以上好きにできると思うでないぞ、テスカトリポカ」
やや薄くなっているテスカトリポカの名前の謎も、今起きている異変も…。
空気の奥で、微かに黒紫の脈動が揺れた気がした。
その存在は、遠くにいても、世界をかき乱す力を持つ――
「ヘラクレスを呼んでまいれ。勅命じゃ」
海風は冷たく、砂漠ブドウの甘みが心を落ち着ける。
だが、アーサーの内側では、混沌を残す半分の呪いが微かにざわめいていた。
イズモへと向かう大型船に乗りこんだ二人。
アーサーの前にはトゥルムと荷物が並ぶ。
ムー大陸で買った砂漠ブドウを頬ばりながら、ふとトゥルムと視線が合った。
「また船の長旅ですね」
ムー大陸の行きはアーサーが暗い気持ちになっていたが、今回は真逆だろう。
「イズモは、やっぱり帰りたくないよな?」
「いいえ、私こそ記憶にないんですよ。だからこそ、怖い」
アーサーは遠くの海を見つめる。
波の音は穏やかで、揺れる心を押さえ込むようだったが、胸の奥のざわつきは消えない。
「まぁ、なるようにしか」
「だな。とりあえず、部屋に荷物を運ぶよ」
トゥルムが取ったという船の部屋へ。
「………トゥルム?あってる?」
「はい、あってますよ。私が取った部屋、1ー1ですので」
まぁ、いわゆるスイートだ。
リビングは広く高そうな家具付き。
キングサイズのベッドが2つ、バスタブつきのシャワー室。
プライベートバルコニーにと中々の値段がしそうな。
「スイートなら、アーサーも部屋を使っていいと言われたので…」
「また足元見られたのか…」
100㎡程の客室を見ながらトゥルムの方へ視線を流す。
俺は気にしないのにな、なんて言ったらまた怒られそうだ。
「たまには贅沢しないと」
呪いが解ける。
それはすなわち、トゥルムがこのポジションに戻るということ。
「それもそうだな。無料サービス使いまくってやろう」
アーサーの胸の中に、呪いが解けなくても良いか、という相反する気持ちが芽生えだしている事をトゥルムはまだ知らない。




