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王都、そして謁見へ




ムー大陸の王都は、20メートルはある巨大な壁に囲まれている。


商業国家ではあるが、ムー大陸には4つの国が乱立し、今も内戦が時折起こるので門は自然とこの高さになった。



「トゥルム様ですね、お入り下さい」


冒険者証で門をパスすれば、中は“オアシスの都”と呼ばれるに相応しい賑わいと活気に溢れていた。



「懐かしいですね」


「1年と、少しぶりか」


「家に寄られますか?」


「…いや、やめとくよ。この姿じゃ会えない。いや、あの人は会わないが正しいか…」


亜人と入れ替わった日の母親の断末魔のような悲鳴は今でも耳に残っている。


「………」


トゥルムの表情が少しだけ歪んだ。


「ま、たいした思い出もないしな!」


慌てて笑って見せると、トゥルムも少しだけ微笑んだ。


「お忙しい方でしたから」


トゥルムが絞り出せる精一杯の言葉はそれしかなかった。


「そうだな」


母は街の娼婦だった。

でも、昼間は寝てるし夜にはいない。


子守りで遊び相手として家に来たトゥルムだけが、子供の時の想い出だ。


オアシスの都は商業で栄えているし、色々な国や人が訪れる都でもあるので、歓楽街が発展しているのも仕方ない事ではある。


「“しゃきしゃきしてね”、“粗相のないようにね”、“ちゃんと気に入られなさい”しか、今は思い出せない」


商店街の露天からムー大陸のポピュラーな果物を2つ買って食べながら王城へ向かう。


地球でいうとマンゴーのような見ための果物で、種もなく全て食べられる。


「うわ、やっぱこっちが好きだな。これ他のとこじゃ見かけないんだよな~~」


昔食べた時よりも甘く感じるのは、喉が渇いているからだろう。


「すぐ痛むので、出荷される時はドライフルーツにされちゃいますからね」


アイテムボックスに入れれたら保存はきくのだが、商売するレベルのサイズのアイテムボックスは中々お目にかかれない。


「いくつか後で買おう」


“オアシスの天然水”

観光客向けの水だけど、こうやって飲むと美味しく感じる。

もしくは喉の渇きが酷いのか。


「あっ、今砂漠ブドウのシーズンか」


「それも買ってアイテムボックスに入れておきます」


「………じゃあ、砂漠チェリーとムーイチゴも」


自然と寄り道が増えていく。足取りは王城へはまだ向かない。

子供の時のように、露天での買い物を楽しむ。


「はいはい」


嵐の前の、、


無理にでも明るい気持ちにしないと。


少し前までは子供として会っていた父親。

でも今回は違う。


父親の前に立つ心の準備がアーサーにはまだ整っていなかった。


それでも。


「よし……。子供に戻るのはおしまいだ」


壁画でのヘラの「逃げるな」という言葉が再び足を王城へと動かした。







「……謁見に参りました。冒険者番号78863、トゥルムです」



重苦しい城門の扉が開く。


「王城へは?」


「もちろん、はじめてだ」


大理石の廊下は一歩進むごとに音を立てて、それだけでアーサーの気は滅入って行く。


「やっぱり歓迎はされてないか」


それもそのはず。

従者であったとしても、王城の、しかも王の間へと向かう通路を亜人が歩いている事への突き刺さる視線。


王の客だからまだ何も言われてないだけで、目は口ほどに物を言う。



「バトラズ様、トゥルム殿とその従者がおみえになりました」



重い扉がゆっくりと開き、二人が入ると背後で閉じる音がやけに遠く感じた。


大理石の床は磨き上げられ、天井にはムー大陸の紋章が描かれている。

だがその豪奢さよりも、空気の張り詰め方の方が重い。


玉座の前に立つ男――バトラズ。

王冠ではなく、実戦用の軽装を纏っている。


「久しいな」


その声は、王としてではなく、父としての色を含んでいた。


アーサーとトゥルムは一歩前に進み、静かに膝をつく。


「謁見に参りました。……アーサー・ペンドラゴンです」


一瞬、沈黙。


玉座の男の指が、わずかに動いた。


「……よい。ここは式典ではない。人払いは済んでいる」


その言葉に、アーサーは顔を上げる。

この空間にいるのはバトラズとアーサーとトゥルムだけだ。


「此度の働き、大義であった」


そして、バトラズは人であるトゥルムではなく、まっすぐと亜人であるアーサーを見ていた。


恐れも、驚きもない。ただ、確認する目だった。


「旅は順調か」


バトラズがそう話かけると、トゥルムはすっと後ろに下がった。


「はい」


「足りているか」


その問いは、王ではなく父のものだった。


アーサーは一瞬だけ目を細める。


「……困ったことはありません」


バトラズは小さく頷く。


それだけで十分だった。


「ここに戻って来たのは理由があり…」


その言葉は最後まで発されることはなかった。



「わたくしも混ぜて下さる?」



空気が、一瞬にして変わった。




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