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砂漠の戦い




砂漠は、異常に静かだった。


王都へと続く交易路は半ば砂に埋もれ、折れた車輪と放棄された荷箱が、風に晒されている。


「……被害は本物ですね」


トゥルムが低く呟く。

普段は整備されていて、露天もちらほらとある活気のある王都までの道は見る影もない。


砂に残る轍は途中で途切れ、その先は大きく抉れていた。


「ここで襲われたか」


足元の砂を払うと、小さな穴がいくつも空いている。


次の瞬間。


――ザザッ。


砂が波打つ。


「来るぞ」


地面が弾け、小型のワームが数体飛び出した。


灰色の柔らかな体。見慣れたE級魔物。


「数は多いが、問題ないな」


「アイスウィンド」


トゥルムの杖が閃き、氷の風撃がワーム数体を同時に真っ二つに裂く。


アーサーも無駄のない動きで一体を鋭い爪で叩き伏せた。


砂に沈む死骸。


……だが。


「……妙だな。ちょっと硬い…」


倒れた個体の体内に、黒い筋が走っている。


腐敗でも、毒でもない。


魔石を取り出すと、淡いはずの光が濁っていた。


「魔石が……ざらついている」


トゥルムが眉を寄せる。あのゴブリンの魔石と同じだ。


そう思った瞬間だった。


地鳴り。


遠くからではない。足元からだ。


残りの小型ワームが一斉に砂中へと逃げ出す。


「逃げている?」


逃げる理由がない。

上位個体の気配でもなければ。


いや、そもそも束ねている上位個体がいるからだと思っていたが…違うのか?


――砂が、盛り上がる。


最初は小さな丘。

だがそれは、みるみる膨れ上がる。


15メートルはあろうかという砂の隆起。


爆ぜた。


砂嵐と共に姿を現したそれは、もはや“ワーム”ではなかった。


「……マジか」


体表は灰色ではない。


黒曜石のようにひび割れ、

その隙間から紫黒の光が脈動している。


口腔から響く咆哮は、

低音と高音が重なり合う二重の音。


「……でかいな」


トゥルムが静かに構える。


通常種の十倍以上はある。

王国討伐隊が壊滅した理由が分かった。


「魔力が……歪んでいる」


空気が重い。


砂が宙に浮き、

引力が狂ったように渦を巻く。


アーサーの胸が、ざわつく。


嫌な既視感。


あの変異種ゴブリンで感じた、違和感――。


「来るぞ!」


巨大な体躯が地中を滑る。

次の瞬間、真下から突き上げ。


砂柱が爆ぜ、衝撃が走る。


トゥルムが受け止めるが、数歩押し込まれる。


「アイスランス!」


ガガガっと当たった音がするが、こんな音は聞き馴染みがない。

皮膚に当たって地面に氷が散乱する。


「硬い…!?」


魔法体勢が強いのか?

トゥルムの得意の中級魔法が通らない。


「魔法がダメなら、切る!」


大太刀をすっと引き抜きワームの胴体へと一撃を。


キィンと刃が弾かれる。


「やっぱりか」


ただの皮膚ではない。


内部で何かが脈打っている。


アーサーが跳躍して背中へと飛び乗り、そのまま頭上目掛けて駆け上がっていく。


「(ワームの弱点は頭部…)」


頭部へ斬撃を叩き込む。


が、再び金属音。斬れない。


「核があるはずだ」


紫黒の光が、一瞬、体内を走る。


その中心。


心臓のような位置。


「……あそこか」


ワームが咆哮し、砂嵐が巻き起こる。


視界が奪われる。


だが――


アーサーの視界だけが、妙に澄んでいた。


紫黒の脈動が、はっきりと見える。


「……消えろ」


剣を振り抜く。刃が届いた瞬間。


光ではない。透明な波紋が静かに広がった。


音が、止む。


紫黒の光が、揺らぐ。


そして――


霧散したと同時。巨体が崩れる。


砂に還るように、静かに沈んでいく。


残ったのは見知った濁りのない魔石。


アーサーは剣を見つめる。


「……今、何をした」


トゥルムが砂を払って立ち上がる。


「斬ったようにみえましたが…?」


「いや……」


胸の奥のざわめきが、少しだけ静まっている。


だが。


遠くの地平線。


ほんの一瞬だけ、

黒い砂煙が立ち上った気がした。


風が吹く。


何事もなかったかのように。





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