我が名は
迎えに来たネメアに連れられて、石盤のある大神殿へ。
入り口にはヘラクレスがおり、本来ならば亜人は入ることは許されない、“壁画の間”へと到着した。
「あれが壁画だ」
オリンポスの壁画の間とは、現柱(守護者)の名前が刻まれている石盤がある大きな広間だ。
柱の数は数百年の間、24柱から変動していなかったが、18年前に新たに1柱が誕生したと話題になったらしい。
「しかし、壁画を見ろとは…?」
石盤に刻まれるのは“名”を持つ者たち。そして、そこにはどこの誰であるか…。しかし、それだけだ。
上からすっと守護者の名前の文字をなぞっていく。
ゼウス
オリンポスの王
ヘラ
オリンポスの女王
ヘラクレス
オリンポスの英雄
ポセイドン
アトランティスの王
バトラズ
ムー大陸四王の一人
マーリン
ムー大陸四王の一人
アマテラス
イズモの女王
ツクヨミ
イズモの弟王
ヤマトタケル
桃源郷の英雄王
オーディン
シャンバラの絶対王
ソー
シャンバラの王太子
ロキ
シャンバラの王太子
ジークフリード
桃源郷の英雄王
ミカエル
エリシオンの四大王
ウリエル
エリシオンの四大王
ラファエル
エリシオンの四大王
ガブリエル
エリシオンの四大王
テスカトリポカ
ティべリアの独裁王
ケツァルコアトル
ティべリアの王
クーフーリン
ルンビニの王
ギルガメッシュ
ルンビニの王
アキレス
ティル・ナ・ノーグの鬼神
ヘクトル
ティル・ナ・ノーグの軍神
ペルセポネ
ティル・ナ・ノーグの聖女
アーサー・ペンドラゴン
ムー大陸、名もなき王 257年 封じられし属性
「嘘だろ…」
一瞬見間違いかと思った。
念のため冷たい石盤の名前をなぞり、「やっぱり消えないよな」そう呟いた瞬間だった。
「名は何と言う、元人間よ」
壁画から出てきたような美しい女性。
金色の長い髪を従者に持たせ、スタイルの良いものにしか着こなせない体のラインがハッキリわかる際どいドレス。
「!!?」
頭の上にある銀のティアラは、オリンポスの最高権力者の証の一つでもある。
オリンポスの守護者の1柱にしてオリンポスの皇后、ヘラだ。
「名乗る程では」
サッと片足でひざまづいて頭を下げるが、ヘラの視線は突き刺さったままだ。
そもそも今ヘラは何と言った?元人間?
「義母上、何故こちらに…」
「…ヘラクレス。妾は貴様に話しかけたのではない」
「っ、、、申し訳ございません」
さっと頭を垂れるヘラクレス。ギリっと少し歯を食い縛る音がした。
「妾はそこの狼亜人に名を名乗れと言うたのだ。頭を上げよ」
もう隠し切れはしない。
これ以上黙るのは、ここに案内し、今まさに庇おうとしてくれているヘラクレスの立場を悪くするだろう。
ふっと息を吐き出して、ゆっくりとヘラを見上げる。
「……アー」
声が震えるのをぐっとこらえて、再度深呼吸。
「アーサー・ペンドラゴン」
「ムー大陸のアーサーで間違いないな?」
「はい」
ざわざわとどよめきが起きる。
隣に立つヘラクレスでさえ、驚いてこちらを見ている。
そりゃそうだ。自分でも今動揺真っ最中なのに。
「して、他国の守護者が何用か?」
美しい声音なのに、背筋が沸騰するのではないかと思う程の殺気がゾワゾワと走る。
守護者の中でも実力はトップ7柱に入ると噂されているが、間違いなくヘラクレスより強いことは確かだ。
そして、説明する内容如何によっては取り返しのつかない事態になる。
「…出来れば、人払いを」
「…………」
無理なお願いだと思ったが、ヘラの右手が上がる。
渋々と部屋から神官や、ヘラの側近たちが出ていくのを確認して、ヘラクレスとネメアには残って貰った。
「父はムー大陸の守護者にしてムー大陸4国王の一人、バトラズ。母親はしがない街の娼婦です」
自分の出自の話をするのは何年ぶりだろうか。
ついに、何故狙われたのか。その理由が繋がってしまった。
“壁画を見ろ、答えはそこにある”
「バトラズの不義の息子か」
ムー大陸には2人の守護者がいる。
4国王の一人、バトラズ。そして、4国王の一人、マーリン。
二つの国、しかも守護者同士の政略結婚。
マーリンとバトラズの間には4人子供がいるが、全て女児にして名を持たない“人間”だった。
「…………母からは、勝手に英雄の名をつけたと。名を名乗るなと」
マーリンの4人目の子はアーサーの2つ下。
おそらく、子が壁画に名を刻んではいないかと見に来たマーリンにバレたのだろう。
「バトラズが隠したな」
「16歳の冬。マーリン妃が我が家に。呪詛をかけられ殺されかけ、従者のトゥルムが助けに…。気が付いたらこうなっていました」
「なるほど。マーリンの逆鱗に触れたか」
正直、胡散臭い占い師の言う事に期待していた訳じゃなかった。
期待はしていなかったが、それが踏みにじられる答えだと知っていればここに来たりなんてしなかった。
「今は呪詛を解く旅に出ており、自分が守護者だと知ったのはたった今です」
少しの静寂。そしてゆっくりとヘラの口許が動く。
「お主に同情はするが、妾はマーリンの気持ち、よぅわかる」
すっと視線をヘラクレスへと流し、再びアーサーを見つめる。
再びしばらくの沈黙。何かを考えているヘラは何度か言葉にしようとしてはやめる。
「……石盤は名を刻むが呪いの解き方は刻まぬ。石盤から伝えれる事があるとすれば、逃げるなという事であろう」
そう言って踵を返すと「去れ」とだけ声が響いた。




