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翌日。
下駄箱正面の掲示板に、1年生上毛かるた大会の記事が掲載されていた。
記事の周りには女の子たちが、眉を寄せ合いながら、話をしている。
凪がぼそっと悠真に言った。
「あんなことになるなら、かるた大会出るんじゃなかった。悠とのこと、全部喋らされた」
悠真は吹き出す。
「自分で蒔いた種、だろう?」
凪は膨れっ面をした。
記事を見ていた女の子の一人が振り向いた。
「あっ! 悠真君」
皆がパッと悠真と凪を見る。
凪は走り出した。
悠真も行こうとしたが、女の子に囲まれていた。
凪はニヤリと振り向き、教室に向かった。
凪が席に着くと、悠真は可愛い包装紙に包まれた物を何個か持って、教室に入ってきた。
クラスの男子たちが「お〜」の驚きの声をそろえた。
「そうかお前確か、5月20日が誕生日、ってあったな!」
凪をチラリと見て、また笑いが起こる。
まだ当日ではないが、当日はプレゼントの山で目立たないから、先行組がいるのだそう。
凪は悠真から、そう聞いていた。
悠真は鼻で笑う。
「ま、俺くらいになると、これくらい当然だな」
優奈が凪の席にやってきた。
「今年も始まったわね。誕生日、クリスマス、バレンタイン。毎年あんなにもらったら、私太っちゃう」
凪は興味なさそうに言った。
「野球でカロリー消費しているんじゃない」
「そういうあなたは、今年は何を送るの?」
目を輝かせる優奈に言った。
「毎年同じ、ただのクッキー」
「それじゃあ目立たないじゃない」
凪は困ったように笑った。
「幼なじみの誕生日プレゼントに、目立つ必要なんてないじゃない」
「でも、凪のクッキー美味しいのよね。私の誕生日も、よろしくね」
「もちろん!」
二人は笑いを交わした
凪は教室の窓を見た。
夕日が教室に差し込む。
雲だ。
連なった雲が流れていく。
凪は今日、一人で帰路に着いた。
カーンと野球部のグラウンドから音がして、女の子の声が聞こえる。
バスに乗り、駅まで行く。
電車に揺られながら車窓を見た。
⸻今年の悠のプレゼント、どうしよう⸻
去年は、たらば蟹を贈った。
大喜びだった。
悩んでいるうちに最寄り駅に着いてしまった。
そして決められないまま、家の扉を開ける。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
母は夕食の支度をしていた。
凪は部屋着に着替えて、スマホでプレゼント候補を探す。
⸻やっぱり、残らない物がいいよね⸻
岩牡蠣のサイトに目が止まる。
夏に旬を迎えるのだそう。
「へー」と凪がつぶやくと、スマホに通知が入った。
悠真からだった。
凪はため息をついて、部屋を出た。
玄関を開けると、制服姿の悠真が立っていた。
「凪。すまないが、頼む!」
「分かってる。はい」
凪は可愛い包装紙に包まれた物を受け取った。
女の子たちが悠真へ贈ったものだった。
凪は玄関を開けた。
「じゃあね、また明日」
凪は部屋に戻って、包みを開けていく。
どれも手の込んだ手作りのお菓子だった。
⸻悠、甘い物苦手だって、結局言えなかったんだ⸻
メッセージカードまで入っている物もある。
カードをまとめてととえた。
クッキーを食べ始める。
⸻言えないか。お菓子をもらい過ぎて、甘いものが苦手になった、なんて。優奈にも言うな、って言われているし⸻
「んー。にしてもこのクッキー美味しいな。みんなのプレゼントでも作ってあげよう」
凪は包み紙を丁寧に畳んで、引き出しにしまった。




