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⸻熱い、肺が焼けそう。
人の悲鳴。
耳を裂くような爆音。
⸻逃げたい。でも逃げられない。
死ぬ。
「ピピーッ!」
凪はアラームで起きた。
部屋の空気は少し寒く、
しとしとと、雨音が聞こえる。
「今日はあの夢か…」
⸻爆弾、人の悲鳴。そして死⸻
「なぎー! 起きてるの!?」
母が呼んでいる。
「やば! もうこんな時間!」
急いで階段を降りる。
食席について味噌汁をすする。
父が笑っていた。
「お母さんに起こしてもらうなら、アラーム必要ないんじゃないか?」
凪はむせた。
「しょうがないじゃん。朝苦手なんだもん。ごちそうさま!」
母は息をはいた。
「もう少しゆっくり食べなさい」
「今度気をつけまーす」
凪は自室に戻った。
髪をとかし、制服に着替える。
壁にかけてあるヘアアクセサリーを、今日の気分で選ぶ。
「これ!」
白いゴムに銀色の小さなリボンがついたヘアアクセサリー。
髪を一つに束ねる。
「じゃあ、行ってきまーす」
凪は傘を持って玄関を開けた。
悠真がチャイムを押すところだった。
凪は髪を振って見せた。
「なんだよ」
凪は頬を膨らませた。
「なんだよはないでしょ!」
そっぽを向いて、ツンツン歩き出した。
悠真は軽く追いつく。
凪が前髪を直しながら言った。
「ねぇ、野球部の朝練はいつからなの?」
「初心者もいるから、半年くらい経ってからじゃないか? お前は部活やらないのか?」
「うん。気が向かなかった」
「中学みたいに文芸部に入れば?」
凪は首を振った。
「⸻ううん、やらない」
凪は空を見上げる。
白い雲は、どこにもなかった。
駅に着き、傘をたたんだ。
制服についた雨粒を払う。
アナウンスが流れた。
凪はふと、視線を感じて背後に目を向ける。
星野咲良だった。
無表情で立っている。
出かけた言葉をのみこむ。
悠真が眉をひそめた。
「どうしたんだ?」
「なんでもない」
電車がホームに入る。
小走りで凪は乗り込み、車窓を眺める。
背後に彼女の姿はなかった。
凪は息をはく。
悠真がじーっと見ていた。
「なんか怪しいな」
「ほーんと鈍い人」
悠真はニヤニヤ笑っていた。
「鈍い上に、感じも悪いなんてサイテー」
凪は視線を車窓に戻す。
⸻星野さん、なんで悠に声をかけなかったんだろう⸻
カバンに視線を落とす。
⸻まるで、観察されているみたいだった⸻




