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終礼が終わった。
皆、荷物をまとめて教室を出る。
桜はすべて散ってしまった。
色褪せた花弁は、
だれの目を引くこともなく、山になって、
土に帰るのを、ただ待つ。
雲は夕日の輝かしい光をまとっている。
凪はカバンのボタンを止めた。
「優奈。ちょっと野球部の練習見に行ってもいい?」
凪と優奈は野球部のグラウンドに来た。
カーンと、バットでボールを打つ音が響く。
「悠真く〜ん!」
女の子たちの黄色い声で賑わっていた。
凪はネットをにぎった。
悠真がベンチに戻って来た。
咲良とハイタッチし、飲み物を受け取った。
ボードを見ながら話をしている。
優奈が言った。
「リトル経験があるから、星野さんに決まったらしいよ」
「そうだってね。悠が言ってた」
優奈が驚いて振り向いた。
「自分から聞いたの!?」
凪は首を横に振った。
「登校時に、悠から言ったの」
「そう」
悠真はベンチを離れた。
優奈が息を大きく吸い込んだ。
「悠真君ー! 頑張ってね!」
凪がギョッと優奈を見る。
「ちょっと! 優奈」
悠真がこちらに気がついた。
手を振っている。
「ああ! ありがとう! なぎ! 俺がいなくても真っ直ぐ帰れよ!」
グラウンドはドッと湧く。
「ああ、あの子が凪ちゃんか」
「凪ちゃーん! 気をつけて帰れよ!」
凪は顔を真っ赤にした。
視線を感じる。
咲良だった。
真っ直ぐ、凪を見ている。
「もー! 悠のバガ!」
凪は優奈の手を引っ張って、校門に向かう。
バス停へ向かうなか、凪はくるっと振り向いた。
「優奈。何もあんな大勢の前で言わなくてもいいじゃない」
凪か頬を膨らますのを、優奈はクスクス笑った。
「私は悠真君の応援をしただけです」
「優奈のいじわる」
バスが到着し、乗り込む。
序列が決まっていて、一般の人優先。次に三年生、二年生。一年生はまず席には座れない。
吊り革に捕まる。
バス停は動き出した。
凪がぼそっと言った。
「あのね、優奈」
「なに?」
凪は口にしかけた言葉を飲み込んだ。
「ゆ、優奈も部活やらないって決めたんだな、って」
優奈は優しく微笑んだ。
「私は、やっぱり国立を目指すって決めた。もちろん、高校生活もバッチリ楽しんでね。⸻ああー、彼氏欲しいなぁ」
凪は驚いた。
「優奈もそう思うの?」
「当たり前でしょ」
凪は肘で小突いた。
「もしかして、もう好きな人、いるの?」
優奈はわざとらしげに、人差し指を唇に当てている。
「頭が良くて、スポーツ万能。自信過剰なところもあるけど、優しいところもある人、かな?」
凪の頭にぼんやりと、あの幼なじみが浮かんだ。
苦い顔で言う。
「優奈、あんなデリカシーない男がいいの?」
「じゃあ凪はどんな人がいいの?」
「⸻思いの通じ合う人、かな」
「へぇー。具体的にはどういう感じ?」
「分からない気持ちも分かってくれる人、かな?」
「それじゃあ、分からないよ」
優奈は一瞬車窓を見て、すぐカバンに視線を落とした。
車内の人の会話が聞こえる。
優奈は顔を上げて、軽く微笑む。
「…そっか。そうだよね」
電車に乗り換え、改札で別れた。
家に着いて、いつも通り就寝する。
⸻思いの通じ合う人。なんでそんなこと言っちゃったんだろう⸻
まぶたを閉じた。
ざわついていた気持ちが落ち着く。
頭が冷え、
体の熱が引いていく。
音が徐々に、消えてゆく。
葉の擦れ合う音も、
生き物の声もしない。
⸻なぎ。
静謐な声。
響いた波紋が鎮まった。
凪は静かに寝息をたてた。




