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教室に入るなり、悠真にクラスメイトが集まりだした。
「悠真、この間話していた動画、おもしろかった」
「悠真君。数学分からないところがあるの。後で少しだけ時間欲しいな」
凪は集団をするりと抜けて着席した。
優奈が小走りでやって来た。
「おはよう、凪。今日塾休みなんだ。久しぶりにファミレス行こうよ」
「いいね。美咲と里奈も一緒に行けたらいいのに、部活だもんね。夏休み、どこか一緒に行けたらな」
チャイムが鳴った。
優奈は小さく手を振って席に戻った。
理科の授業。
先生の黒板を叩くようにチョークで書いていく。
凪はこっそりカバンからネックレスを取り出して、筆箱の中に入れてみた。
⸻そうだよ。俺は、戦死したんだ⸻
冷たいネックレスはすぐ、凪の体温で温まってしまった。
⸻あなたは死者。それでも私は⸻
凪はネックレスから手を離した。
先生が振り返った。
「じゃあ、この問題をー」
凪は体を縮こませた。
黒板には全然分からない問題が書かれていた。
「外丸、黒板に式と答え書いてみろ」
優奈はすっと立ち上がり、スラスラ答えを書いていく。
「103mLです」
先生は唸った。
「う〜ん。簡単だったか…」
私だったら黒板の前でフリーズです。と凪は心の中で返答した。
雨は結局止まなかった。
朝より強くなっている。
優奈がカバンを持って「行こう」と指差す。
「お、待てよ」
悠真だった。
「悠真君、どうしたの?」
「今日、部活中止になったんだ。一緒に帰ろうぜ」
「優奈と私はこれからファミレスに行くんだけど」
「じゃあ、おれ」と悠真がいったその時だった。
教室の戸が開いた。
校内のもわっとした空気に、柔軟剤でもない、香水でもない、あのフローラルの香りが、わずかに入った。
「悠真、部活休みだから一緒に」
咲良だった。
「もちろん、みんなで一緒に」
凪はぶんぶん手を振った。
「いいの、咲良ちゃん。私と優奈はファミレス行く予定だったから、ちょうどよかった。女子トークの邪魔がいなくて」
優奈が半歩進んだのを、凪は止めて優奈の手を掴んだ。
「行こう、優奈。じゃあ悠、また明日ね」
悠真はぽかんとしている。
凪にはなんだか、咲良が悲しげに見えた。




