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7月に入ったというのに、連日続く雨で、洗濯物が乾かず母はイライラしていた。
家はまるで芝居小屋のように、洋服が吊るされている。
今日も雨。
凪のスマホが鳴った。
「悠からだ」
朝練が休みになったから、迎えにいく。
絵文字も何もないその一文に、凪は笑ってしまった。
「また保護者扱いして。じゃあ、お母さん。行ってきまーす」
凪は玄関で悠真を待った。
その間にカバンに入れたネックレスを取り出した。
握りしめ、頬に当てる。
温かい。
「そんなにそれが気に入ったのか?」
凪は飛び跳ねた。
「ちょっと! 一声かけてよ。見てたのね」
「贈り物を喜んでくれてる姿くらい、見たっていいだろう」
「そうね。ありがとう。これ、本当に気に入ったの」
悠真はニカっと笑った。
悠らしい笑い方。
「行こうぜ」
水溜まりがあちこちに出来ている。
避けながら進むも、思いのほか深い水の中に入ってしまった。
「あーあ。でも小学生の頃、よくこうして遊んだよね」
「不思議だよな。あの頃は白線も水溜まりも、新鮮に見えた」
「そう。いつからだろうね。当たり前になっちゃったのって」
「さあな。でも、それが大人になるってことなんだろう?」
「今日はずいぶんまともなことを言うのね」
二人はバスを降りた。
「すみません」背後から声をかけられて、振り返る。
同じ制服だが、凪の知らない女子生徒だ。
「佐藤悠真さん、ですよね?」
「ああ、そうだけど?」
「もしよかったら、一緒に学校行きませんか?」
凪、悠真、女の子の順で横並びに歩く。
控えめな子で、特別悠真をおだてるわけもなく、天気や出身の小学校を、ポツポツ聞いた。
「あ、凪ちゃーん!」
咲良がパシャパシャ水をはねながら走ってきた。
「咲良ちゃんおはよう」
フローラルの香りが自然と鼻に入った。
香水でも柔軟剤でもない。
⸻アロマの趣味とかあるのかな? 女子力たか⸻
「ついでに悠真も、おはよ。って、となりの方は?」
咲良は深いため息をついた。
「あんたさ。朝練ない日は女の子両手に登校してるわけ?」
「凪はメッセージ送ったけど、この子はさっき」
「あ、わ、私深代って言います」
女の子は明らかに慌て始めた。
悠真はキメ顔を作った。
「よろしくな!」
深代は頬を染める。
咲良はニッコリと言った。
「深代さん。この人はスポーツも勉強もルックスもあるけど、性格に難ありよ」
「なんだよ、難って」
「ほんとナルシストで、愛想振りまいて、みんなにいい顔する男よ」
「お前だって、男から声かけられたら、愛想よくしてるだろう」
「振りまいません。お返ししているって違いよ」
校舎の屋根の隅で傘の雫を落とす。
傘立てに傘を置いた。
咲良はスカートの裾を、ヒラリと揺らして振り向いた。
「じゃあね深代さん、凪ちゃん」
深代はペコリと会釈をして行ってしまった。
「俺には何もなしか?」
咲良はべっと舌を出して教室に行った。
「態度悪いよな、あいつ」
「咲良ちゃん、可愛いじゃない」
凪は教室の戸を開けた。




