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凪はパジャマのボタンを止めた。
いつもはしばらくスマホをいじるが、今日は電気を全て消して、まぶたを下ろす。
あなたに会いたい。
叫ぶようでも、嘆くようでもない。
ただ、そう願う。
あの清浄な空間に、喧騒は似合わないのだから。
⸻凪。
遠くから、聞こえる。
「凪」
凪はゆっくり目を開けた。
青年は変わらず、ボロボロの軍服に青白い肌、傷だらけの体で、困った微笑みを見せる。
「また来てしまったんだね」
「だって…。あれ?」
凪の手のひらには、悠真がくれたあのネックレスがあった。
「どうして、これが」
「大切なもの、なんだろう」
「あなたが出してくれたの?」
青年は何も答えず、湖畔に座る。
凪も隣に座った。
「あなたは、私に会いたくなかったの?」
「君を待っている。って言っただろう」
「でもさっき、また来てしまったんだね、って言った」
青年はうつむく。
「どちらも本心だよ。待っている気持ちも、君を呼んでしまった気持ちも」
「私は、私の意志でここに来たの」
青年は凪の瞳を見つめた。
「君は、本当にあの頃と変わらない」
「あの頃って、あの空襲の頃でしょ? あなたが日本兵だった時代」
凪は言葉をのんだ。
⸻ボロボロの軍服、青白い顔、生々しい傷跡。それはつまり⸻
「そうだよ。俺は、戦死したんだ」
「でもあなたは、私の中にいる。あなたは私だけれど、私じゃない」
凪は膝に顔を埋めた。
「私も待つことにした。あなたが言う、悠の決断を」
「ごめんね、凪。君のことを俺が勝手に決めてしまって」
「それはあなたが私を知っているから。私は確かに、月城凪。でも、それ以外の私がいるのを、あなたは知っているから」
青年は迷うことなくうなずいた。
凪はまばたきを繰り返す。
「意外ね。誤魔化すと思ったの」
「それはあまりしたくないんだ。俺なんかが本来決めていいことじゃないから」
「私は、思い出したら、後悔する?」
青年は満月を見上げた。
青白い顔が、更に白みをおびる。




