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帰りのホームルームを終えて、凪は野球部のグラウンドに立ち寄った。
⸻いいか、こう体の重心をぐっと移動させて⸻
小学校が終わった後だったか。
あの公園で悠馬とキャッチボールをした。
「それじゃ分からないよ。教え方が悪い」
「おまえのセンスがないんだ!」
ふん! と互いにそっぽ向き合うも、小学校の集団登校で毎日顔を合わさざるを得ない。
二人とも仲が悪い日は、よく上級生にからかわれた。
「こいつのセンスが悪いから」
「あなたの服のセンスと同じね」
それでもいつの間にか仲直りしていた。
夏休みの宿題も一緒にやった。
バーベキューやスキーにも行った。
凪の両親が悠真を連れて行ったり、悠真の両親が凪を連れて行ったり。
カーン!
当たりの良い音が響く。
「悠真、その調子!」咲良の声だ。
よく見ると、隅の方でキャッチボールしているのは一年生で、悠真は上級生に混じって練習しているようだ。
「それもそうね」凪はつぶやいた。
⸻そういえば、咲良ちゃんは悠とどんな
思い出があるんだろう⸻
結婚したいくらい好き。
⸻きっと、素敵な思い出があるんだろうな⸻
凪はグラウンドを離れた。
バスに乗り、新前橋駅から最寄りの駅に行く。
素敵な思い出。
「兄さん…」
なぜ兄と呼ぶか分からない。
顔も名前も分からない。
でも、確かに存在した温もりがある。
きっと思い出も。
そして凪が思い描いたのは、精悍な顔立ちの二人の若者だった。
一人は太陽のように生命力あふれる者。いつも前を向いていて、自然と人が集まる。
悠との思い出は、数えきれないほど。
でも、あの人は。
白い満月に照らされた顔は青白い。
しかし彼にも感情がある。
迷ったり、優しく微笑んだり。
⸻悠に似ているからじゃない。私は、あの人を知っているのかもしれない。忘れているだけ⸻
その答えは、あの青年が持っている。
凪の脳裏には、青年の思い悩む姿が過ぎった。
⸻思い出さない方が、幸せな記憶なのかも知れない⸻
凪はネックレスを握りしめた。




