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凪は教室に入るなり、優奈に手を引っ張られて。席につかされた。
「どうして三人で登校してきたの? しかも教室の前まで」
「え? 悠が知らない女子生徒に絡まれちゃったのを、咲良ちゃんが助けてくれたから」
優奈は何か言いたげだった。
「ごめん凪。何て言ったらいいか分からなくて」
「心配しないで。私は、大丈夫」
⸻そう、私は大丈夫⸻
「何かあったら、ちゃんと言ってよ。絶対」
凪はうなずいた。
「助けてほしい時は、必ず言うから」
優奈は微笑んで席に戻った。
凪はカバンを開けた。
悠真がくれた誕生日プレゼント。
教室の灯でも輝く。
でも、違う。
⸻静謐で、優しく⸻
君を待っているよ。
凪はこっそりカバンから取り出して、握りしめる。
星一つない暗闇。
だからこそ、まばゆく光る満月。
清冽な泉。
獣の匂いのない清らかな森。
⸻あの夢から、あの世界に行くためにはきっと⸻
チャイムが鳴った。
教壇側の戸が開いた。
「朝のホームルームはじめるぞ!」
一限は国語だった。
凪はぼーっと、生徒が音読する竹取物語を聞いていた。
⸻声も顔も同じ。でも全く違う⸻
「じゃあ、次は。月城さん」
「…はい!」
凪は無事読み終えて、ほっと着席した。
⸻かぐや姫が存在しないものを要求したのは、諦めさせるためだった。自分はいつの日か、月へと帰る存在だから⸻
帝とかぐや姫は、永遠に会えない。
⸻じゃあかぐや姫は、この世界の人を誰も愛さなかったの?⸻
ページをめくっても、答えはどこにも書かれていない。
「諦めさせることが幸せ」凪は心の中でつぶやいた。




