3
「ねえ! 凪聞いた!?」
昼休みで、お弁当を広げるなり優奈は言った。
「なんのこと?」
「悠真君が野球部に入部するって話が、学年中に広まって、マネージャー希望が殺到しているんだって!」
凪は少し唸った。
「悠、クラスの自己紹介で言ってたもんね。高校でも野球をやりたいって」
「あれから数日しか経ってないのに、女子の噂はほんと早い」
「で、どうやってマネージャー選ぶの?」
凪が優奈にそう言ったその時、教室の扉がガラッと開いた。
女の子が立っていた。
ゆるく巻かれた、ココアブラウンの髪。
綺麗な並行二重まぶた。
豊かなまつ毛が彼女のキラキラした瞳を飾っている。
胸も大きい。
クラス中の視線が集まる。
当然だ。
学年一の美女と噂の、星野咲良だった。
「悠真!?」
「ん?」悠真は彼女を見る。
「私よ!」
悠真は眉を寄せてじーっと見る。
「すまん! 誰だっけ?」
咲良は呆れていた。
「リトルで一緒だった、咲良!」
悠真は目を見開いた。
「さ、さくら!? お前が、あの? なんつーかその、美人になったな。あの日焼け女が。で、俺に何の用だよ?」
咲良は教室入って来て、悠真の前に来た。
近くにいた男子が彼女に椅子を用意した。
咲良は「ありがとう」と座った。
「クラス表に佐藤悠真ってあったから、もしかして、って思っていたの。野球部に入るって噂聞いたから、確かめに来たってわけ」
悠真は鼻を鳴らした。
「俺もかっこよくなっただろう?」
「ぜーんぜん、変わってない!」
二人は笑った。
優奈は凪に耳打ちした。
「ねえ、凪は知ってたの?」
「ううん。知らなかった。忘れてるだけかもしれないけど…」
悠真が言った。
「お前、部活決めたのか?」
「うん。野球部のマネージャー」
クラスがどよめいた。
悠真は意外そうに言った。
「ソフトボール部じゃないのか」
「迷ったよ。でも、野球に関わりたいと思ったの。⸻自分の実力って、わかるじゃん」
昼休みのチャイムがなった。
「じゃあまたね、悠真」
彼女が立つと、クラスの男子がまるでウェイターのように椅子を引いて、見送った。
優奈は急いでスマホを取り出し、グループメッセージを送った。
凪、優奈、里奈、美咲の4人でファミレスに来た。
主催者は優奈だった。
「でね、クラスの中でマネージャー宣言! 私に敵なしって感じだったの!」
里奈と美咲は「え〜っ!」と口を揃えた。
里奈はオレンジジュースを吸った。
「でも星野さんって、性格も良いらしいよ」
美咲は不服な様子だった。
「それは凪がいたから⸻」
優奈と里奈は口を揃えた。
「美咲!」
美咲はがくんとうなだれた。
「めんぼくない。…凪、ごめん」
凪はクスクス笑った。
「なんで謝るの? 星野さんは野球に詳しいんだから、そういう人がマネージャーになる方がチームのため。それに星野さんみたいな綺麗で、性格の良い人がいたら、みんなやる気でるんじゃない?」
優奈はアールグレイを置いた。
「⸻凪」
里奈が優奈に言った。
「星野さんは凪のこと知っている風だったの?」
「んー。そうには見えなかったよ。ただ悠真君と話して、マネージャー宣言して帰っただけ」
美咲がリンゴジュースを飲んで言った。
「じゃあ、星野さんは、凪と悠真君のこと知らないんだ」
凪はレモンティーを置いた。
「ただの幼なじみだよ? そんな大げさなものじゃないよ」
美咲は腕を組んで、唸っている。
優奈が言った。
「そろそろ帰ろうか」
凪はふと空を見た。
たくさんの雲が、夕空にきらめいていた。
凪はベッドに横になった。
布団を頭まで被った。
⸻私は野球のことはさっぱりだから、得意な人がやった方がいいと思う⸻
凪は布団から顔を出した。
「星野さんか、綺麗な人だったな」
凪はアラームをセットし、電気を消した。




