26
窓際の席に通された。
凪はキョロキョロと落ち着かない。
声を低くして言った。
「私、そんな手持ちないよ」
「大丈夫。俺持ってるから」
「悠バイトやってないじゃない」
「家庭内バイト。悠太に勉強教える代わりに、お小遣い増やしてもらっているんだ」
悠真はテーブルに身を乗り出した。
「俺、中型バイクが欲しくて、金貯めてるんだ。W400って、すげえカッコいいバイクに、一目惚れしたんだ!」
悠真はメニューを広げた。
「さあ、早く食べようぜ!」
運ばれてきた寿司を凪は頬張る。
「んー。美味しい!」
悠真は眉を寄せている。
「どうしたの?」
「…悠太はな、今まで通知表がオール5なんだ」
「ふーん。悠太君いくつになったの?」
凪はエビの寿司を口に入れた。
「小学五年。進路相談があってな、母さんが担任の先生に、受験を勧められたんだ。母さん、すごく悩んでるんだよ」
悠真も軍艦巻きを食べ始める。
「親として学歴を与えてあげたいけど、いつか挫折するなら、そのまま公立中学の方がいいんじゃないか、ってな」
悠真は箸を置いた。
「俺さ、自分の望みのために、背負わなくていいものを、あいつに背負わせたのかもしれない。どうしたらいいんだろうな」
「⸻大人にだって分からないことはある。だから分からない自分を、責め過ぎてはいけないよ」
悠真はまばたきを繰り返す。
「って、お父さんが言ってた」
「ふっ、なんだ。受け売りか。でも、それもそうか」
悠真は表情を柔らかくした。
「決めたよ。あいつのやりたいようにやらせてみる。それでもし、上手くいかなくなったら、その時一緒に悩んでやる。兄貴だもんな。母さんにもそう言ってみる」
凪もつられて微笑んだ。
「私も勉強教えて欲しいから時間作って」
「夏休みでもいいか?」
「いいよ。時間合わせるから」
「じゃあ、場所は、お前んちな」
凪は首を傾げた。
「悠太がうるさいんだ」
「小学五年生だもん。私は気にしないよ」
「なんでもだ。お前んち」
「分かった。ねえ、悠はどうして受験を選ばなかったの? 悠太君が言われていたなら、悠も勧められたんじゃ」
「それは⸻」
悠真はマグロを一気に口に入れて、外を見た。
「学校なんて、どこでもよかったからだよ」
⸻やっぱり、そうだよね⸻
悠真はカバンから袋を出した。
「俺とお前の仲だ。言わなくても分かるだろ?」
凪は袋を開けた。
さらに透明な小さな袋に入っていたのは、ネックレスだった。
ネックレスは細い銀のチェーンで、満月を模したアクセサリーが輝いている。
白銀に輝く月。
「誕生日おめでとう、凪」
悠真はニッコリ笑む。




