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先生が英文を板書し始めた。
「When we are no longer able to change a situation, we are challenged to change ourselves. — Viktor E. Frankl」
教室の空気が凍りつくのを、凪は感じた。
「じゃあ、これを」
クラス中の誰もが、視線さえ動かせなかった。
「佐藤君、和訳して」
「はい」と悠真は立ち上がった。
「⸻状況を変えられなくなったとき、私たちは自分自身を変えることを求められる。です」
驚きの声がもれる。
先生は続けた。
「ちなみに、この文を残した人、分かる?」
「…ヴィクトール・フランクル。ナチスの強制収容所から生還した、オーストリアの精神科医? だったと思います」
先生は拍手をした。
みんなもつられて拍手を送る。
「素晴らしい! 佐藤君。私が教師を始めてここまで答えられたのは、あなたが初めて!」
悠真は表情を変えずに着席した。
チャイムが鳴った。
先生はニコニコしている。
「じゃあ今日はここまで。みんな宿題忘れないようにね」
先生が教室から出ると、クラスのみんなが悠真の周りに集まり出した。
「おい、佐藤! よくヴィクトール・フランクル? のことまで知ってたな」
悠真は平然と答える。
「大したコツはない。名言を残した人物を背景と一緒に覚えておけば、忘れにくいと思っただけだ」
クラスの男子は悔しそうな声を出す。
「それができないから、苦労してるんだよ。お前、ほんとなんで県で1番偏差値高い高校に行かなかったんだ?」
「可愛い制服の女の子と、高校生活が送りたいだろう」
悠真は女の子たちにウインクして、湧かせた。
優奈は珍しく悲しそうに凪に寄ってきた。
「私も悔しいな。ヴィクトール・フランクルも、あの英文も分からなかった。部活より塾をとって、勉強しているのに」
凪は頬杖をついている。
「悠か頭良いのは、今日始まったことじゃないから、そんなに落ち込むことないよ」
優奈は困ったように笑った。
「もー、凪ったら。それ、励ましてるの?」
「優奈は優奈の目標に進んでいるんでしょ?」
優奈は静かに頷いた。
「なら、それでいいじゃん」
「ありがとう。凪」
凪は悠真を見た。
クラスメイトに囲まれている。
ふと、小学校の頃を思い出した。
⸻ねえ、悠。さっき先生が言ったこと分からなかったから、教えて⸻
⸻ああ、あれはな⸻
状況を変えられなくなったとき、私たちは自分自身を変えることを求められる。
⸻私が、変わらないといけないのかな⸻
凪は窓に視線を移す。
今日も変わらず、雨が降り続いていた。




