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⸻なぎ。
まぶたを上げた。
星が一つもない夜空。
白銀の満月。
鏡のように水面が月を映す。
音がない。
心地いい。
⸻なぎ。
凪は歩み寄る。
悠真と同じ顔と声の青年に。
手を伸ばした。
「だめだ! 俺に触っていけない!」
「どうして?」
青年から呼吸を感じない。ただ困った顔を浮かべた。
「今はまだ話せない。その時が来たら必ず話すから」
凪は手を胸元に戻した。
青年は日本国旗が縫い付けられた軍服を着ていた。
「やっぱり。あなたは」
凪は青年を見つめる。
悠真と双子のようにそっくりな顔を。
「あの空襲の時と同じ声。あなたは私の前世なの?」
「そうとも言えるし、そうでないとも言える」
青年は一歩を踏み出す。
ジャリと砂を踏む音がした。
凪は視線をそらした。
「⸻兄さんたちはどうなったの? あなたは誰で、私は一体何者なの?」
凪の矢継ぎ早の質問に、青年はうつむくも、真っ直ぐ凪を見た。
「俺は時を待っているんだ。彼の決断を」
「彼の、決断?」
水面の満月が揺れた。
青年は微笑んだ。
悠真とは違う、穏やかで、どこまでも広がる優しい笑み。
「ありがとう、凪」
白い光が広がる。
いつの間にか流れた涙を拭った。
「それじゃ何も分からない。お願い待って!」
ピー! スマホのアラームだ。
凪はベッドから体を起こし、声を出さずに泣いた。
⸻私は、あなたに会いたい⸻
歴史の授業中、凪は歴史の資料集をパラパラめくった。
太平洋戦争で手を止める。
⸻旧日本陸軍の服。あの人の服と同じ。やはりあの人は、兄さんたちの仲間。太平洋戦争時代の日本兵。空襲を受けていた⸻
「じゃあ次の問題は…」
先生が視線を右から左へ動かす。
みんな目を合わせない。
次の人物の業績・関係を答えよ。
ティグラト・ピレセル3世 。
エンリルナシル2世 。
凪は黒板を見つめる作戦にした。
「じゃあ、佐藤」
「ティグラト・ピレセル3世 は…アッシリア帝国の再建と、拡大。エンリルナシル2世 は古バビロニアの王で、法を整えた人物です」
先生がうなり、驚きの声が生徒からもれる。
「さすが佐藤だ。今の問題は難関国立レベルの問題だったんだ」
凪は優奈の言葉が脳裏によぎった。
少し縁遠くなっちゃったな、悠真君。
凪は机の下で拳を握った。




