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優勝を勝ち取った。
歓声の中、代表して悠真にトロフィーが授与される。
ポーン。
「以上をもちまして、体育祭は終了とします。生徒の皆さんは、後片付けを行ってください」
椅子やテーブル。テントを片付ける。
凪は息を整えて、空を見上げた。
もう夕方だった。
教室で簡単な終礼を済ませて、一日が終わった。
トロフィーは棚の上に置かれた。
悠真はカバンを持った。
「凪帰ろうぜ」
「うん」
凪がふと視線を上げると、ココアブラウンの髪がひらりと見えた。
咲良が教室の入り口に立っていた。
「凪ちゃんに話があるんだ」
悠真は笑った。
「なんだ? 体育館裏にでも呼び出すのか?」
咲良は頬を膨らませる。
「そんなことするわけないでしょ!」
咲良は優しく微笑んだ。
「少しだけ時間ちょうだい?」
咲良に連れて来られたのは、野球部のグラウンドだった。
今日はどの部活も休みで、練習している生徒はいない。
⸻ほんとうに、綺麗な子だなあ⸻
ココアブラウンの髪は、夕陽を受けて輝いて見えた。
くるっとスカートの裾を揺らして振り向く。
「私は誰かをいじめるようなことは絶対にしない。でも、言わないで競うのは卑怯だと思ったの」
凪は眉を少し寄せた。
咲良はやや視線をそらし、真っ直ぐ凪を見る。
「私はね、悠真が好きなの」
「へ?」
「リトル時代からずっと好きだった。高校で再会できて本当に嬉しい。だから」
咲良は胸に手を当てる。
「今は、彼と付き合いたい。⸻いいえ」
咲良は半歩進んだ。
「結婚したいくらい好き」
「⸻じゃあ言えば?」
「え?」
咲良はポカンと口を開いている。
「本人に直接言えばいいんじゃない? 悠が誰と付き合うか決めるのは、私じゃなくて、悠だと思うよ?」
咲良はまばたきを繰り返す。
「じゃあ、悠真が私と付き合うってなったら、あなたは嫉妬しないの? あなたは悠真が好きなんじゃないの?」
⸻好き⸻
「⸻しないよ。だって悠が決めたことだから」
咲良の微笑みは少し悲しげだった。
「ごめんなさい。私、嫌なこと言っちゃったみたいね」
凪は手をブンブン振った。
「気にしないで。それより」
「それより?」
「憧れの咲良ちゃんが、本音をぶつけてくれたのが、嬉しかった。かな?」
凪は照れくさそうにうつむく。
「ふふ。そう言ってもらえて安心した」
咲良は手を出した。
「友達。でいい?」
「うん!」
凪はあたたかい咲良の手を握った。
凪と悠真は帰路に着く。
悠真はそっぽ向いて言った。
「咲良に何か言われたか?」
「⸻友達になった」
「それだけじゃないだろう」
凪は悠真に一撃をみまう。
「友達の秘密バラすわけないじゃない」
「まあいいや。何か言われた、俺に言えよ」
「…うん」
凪は玄関の扉を開けた。
「じゃあまた明日ね」
悠真は手を振った。
「ただいま」と凪は母に声をかけて部屋に戻った。
制服を急いで脱いで、ゴロンとカーペットに横になる。
「あー疲れた」
悠真が誕生日プレゼントでもらった物を、仕分けしていく。
包装紙にリボン。
お菓子。
手紙とメッセージカード。
「あっ!」
さくら、と手書きの桜の絵が描かれたカードがあった。
中にあったのは、桜型にくり抜かれたクッキーだった。
⸻咲良ちゃん。悠が甘い物苦手なの、知らなかったんだ⸻
凪はメッセージカードの束の上に、咲良のメッセージカードを優しくのせる。
クッキーを頬張った。
オレンジピールとチョコレート味のクッキー。
凪はスマホで悠真にメッセージを送った。




