19
凪はスタートラインに立った。体育祭委員からカードを受け取る。
「カードはまだ裏返しにしてください。合図が鳴ったらカードをかえして、書かれている物や人をゴールまで持って来てください」
咲良が隣に並んだ。
「またカード勝負ね、凪ちゃん」
凪は顔を赤らめる。
「そ、そうだね。咲良ちゃん」
咲良は豊かなまつ毛をぱちぱちさせて、嬉しそうに笑む。
「お互い、真剣勝負! ね」
凪は頬を掻く。
「今回のカード勝負は私負けちゃうと思う」
「もー。やる前から諦めちゃだめ」
「はい。位置について、よーい」
パーン!
凪はカードをかえした。
野球部の人。
「やったー! ラッキー!」
凪は鋭い目付きで、悠真をにらんで手招きする。
悠真は、俺? と自分を指差して立ち上がった。
凪はダッシュでクラスの陣地に行く。
牧たち女子が察して、悠真を前方に出した。
凪は悠真に手を伸ばした。
「はあ、これなら。⸻え?」
咲良がいた。
凪は悠真の服を掴んで引っ張った。
「おいおい、やめろって!」
「野球部の人! しっかり走って、はあ、はあ」
「まったく」
悠真は凪の腰に手をまわした。
「しっかり走れよ!」
ぐいっと押されて、凪は前に倒れそうになる。
「ちょっと! 転んじゃう!」
「転ばないように足を出せ!」
テープが見えて来た。
悠真は自分の前に、凪を走らせてテープを切らせた。
「ゴール! 1位は月城凪さん。続けて2位もゴール!」
凪は振り返った。
咲良だった。
別のクラスの女の子を連れていた
咲良も息を切らせて膝に手を置く。
呼吸を整えて、ニッコリ笑った。
「今回は惜しかったな。ねえ凪ちゃん。何のカードか見せて」
凪は咲良にカードを渡した。
表情が一瞬曇った。
「咲良ちゃんは、何のカードだったの?」
咲良は微笑んでカードを見せた。
悠真も覗き込む。
幼なじみの人。
咲良は踵を返す。
「また機会があったら勝負しましょう」
凪はカードを係に渡した。
「咲良ちゃんて、真面目な人だね」
悠真は「ん」と気のない返事をした。
「だって、誰でもいいじゃん。係の人はその人との関係性まで、つっこんで聞かないのに、悠のところに来るんだもん」
「だから言っただろう。あいつは、負けず嫌いなんだよ」
「ねえ、悠。また機会があったらって…」
「お前は、勝負ごとに向かない。あいつの真剣勝負に付き合ってやる必要はない」
「…うん」
クラスの陣地に戻ってきた凪は、大歓迎をされた。
牧がスッと前に出る。
「月城さん。いい走りだった」
「そんな。借り物が楽だったから」
男子たちは大笑いしている。
悠真は息をはいた。
「お前な、人を物呼ばわりして」
「でもクラスに貢献できた」
凪は得点盤を指す。
ペラペラ紙がめくられ、凪のクラスは二位とさらに点数を広げた。
「ありがとう。か、り、も、の」
凪はツンツンと席に戻った。
アナウンスが入った。
「さあ、いよいよ最後の種目! クラス対抗男女混合リレーです!」
「よし!」
悠真が立ち上がると、キラキラモールが付いた団扇を持った女子たちが集まってきた。
「頑張ってね! 悠真くーん!」
得意のスマイルをし、女子を沸かせて、テントに行った。
「一位はほぼ確定ね」
優奈が凪の隣に座った。
「そうみたい。ほーんと、借り物競走で恥かかずに済んでよかった。…ねえ、優奈」
「ん?」
「咲良ちゃんのカード、幼なじみの人、だったんだって。それでウチの陣地に…」
凪はうつむいた。
「また機会があれば勝負しましょうって…」
「なーぎ。星野さんは、誰かをいじめるような人じゃない。それはみんな言ってる。明るくて、みんなに優しい子だって」
「うん」
「大丈夫。ほら、始まるよ!」
パーン!
合図と共に走り出した。
牧は得意そうに鼻を鳴らした。
「優勝は決まっている。後は」
牧は凪と優奈にキラキラ団扇を渡した。
女子たちも忙しそうに、男子たちをどかしている。
「いい? アンカーの悠真君にバトンが渡ったら、これを掲げて」
「さあ、そろそろ来る!」
実況にも熱が入る。
「おっ! 今、佐藤悠真選手にバトンが渡りました。1位とは距離があいています!」
「ゆうまくーん! 負けないで!」
バッと横断幕が立てられた。
「ぐんぐん距離が縮み、今! 佐藤選手が一位になりました!」
凪はペラペラと団扇を振る。
優奈が凪の肩を叩いた。
「待って、あの二位の人。悠真君に負けた陸上部の人。距離が詰められてる」
女子の悲鳴が響く。
悠真がチラリと振り向いたその瞬間に、二位と並んだ。ゴールにビデオカメラが設置される。
実況もさらに熱がこもった。
「さあ、体育祭最後の種目! 勝利はどっちの手に」
ゴールテープが切られるも、ビデオ判定となった。
「一位は…。佐藤選手です! おめでとうございます!」
悠真はクラスの陣地に拳を上げた。
女の子たちは感激の涙を流している。




