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校庭の音楽が止まった。
人の声だけが残り、時折り「ビー!」とハウリングで耳を塞ぐ。
放送部のアナウンスが入った。
「さあ、お待たせしました! これから応援合戦を行います。まず今年の審査員の方々をご紹介します」
「え!?」凪は思わず手で、軽く口を塞ぐ。
会場もざわついている。
悠真は首を振って額に手を当てた。
「校長、教頭、音楽の先生。他も高齢の先生ばっかじゃねーか」
他のクラスの陣地もざわついている。
「…ふっ。予想通りね」
「牧さん!」凪は振り返った。
「安心して月城さん、悠真君。審査員は毎年、生徒や新任の先生がやることが多いんだけと、まれに、校長先生を始めとした熟練審査員がやることがあるらしい、という噂を耳にしたの」
悠真は牧に視線を送った。
「俺、うちのクラスがなんの応援歌やるか知らないぞ」
牧は頬を赤らめ、咳払いした。
「それも作戦のうちなの。ごめんなさい悠真君」
「ねえ、牧さん、悠。見て」
凪が審査員席を指差した。
校長先生たちが眉を寄せ合っている。
悠真が苦笑いした。
「そりゃそうだ。あれ流行りのボカロに合わせたダンスだもんな。校長先生、知らないんじゃないか?」
「次、うちのクラスだよ」
アナウンスが入り、優奈が壇上に上がる。
太鼓がのせられ、応援団員が一列に並んだ。
優奈が一礼して、指揮を始める。
ドン! ドン!
団員はカスタネットを持っているようで、カスタネットを右上に掲げて叩く。
そのまま体を回して、腰の後ろに手を当てた。
団員が歌い出す。
悠真は驚いて椅子から落ちそうになった。
「え!? 校歌じゃねえか!」
団員はくるっと一回転し、ピタッと止まり、またカスタネットを連続で叩く。
「……なるほどな」悠真が低く呟いた。
優奈は一礼し、再度審査員席にも一礼した。
審査員席は拍手をしている。
悠真も拍手をした。
「すげぇな、牧」
牧は背を向けた。
「応援合戦は大丈夫みたいね。月城さん」
「は、はい」
「昼休みの後は借り物競走。頑張ってね」
「わ、わかりました」
牧はそのまま行ってしまった。
凪は息をはく。
「はあー。体育苦手だから気が重いな」
悠真が凪の肩をポンポン叩く。
「気にすることないだろう。やれる範囲でやればいいだけだ」
アナウンスが入った。
「これから昼休みに入ります。各自、十分な水分補給をし」
悠真が凪の手を握って、前に引っ張った。
「ちょっと! 何するの!」
「昼飯、一緒に食べようぜ」
「え?」
凪は落ち着きなく、くるくる周囲を見る。
悠真はまだ凪の手を握っていた。
「ずっとそうして来ただろう。俺たち」
凪は微笑んだ。
凪は膝にお弁当を広げて、悠真に見せた。
「ねえ、見て! これ私が作ったの。卵焼きに、タコさんウインナー。うさぎのりんご」
「で、それを俺のために用意したってことか」
悠真が箸を向けると、凪はヒョイとお弁当を上げた。
「そんなわけないでしょ。…それにしても、あのファンの子たち、全然来ないね」
「さすがに今日は、ライバル陣営のやつと昼飯食ってたら、印象悪いだろう」
「確かにそうね」
柔らかい風が吹いた。
はちまきをフワッとなびかせる。
「凪。誕生日プレゼント、ありがとな」
くっと悠真は吹き出す。
「でも幼なじみの高校生に、岩牡蠣贈るなんてよ」
悠真は笑いを堪えてる。
「美味かった。父さんも喜んでたよ、凪ちゃんは本当に気の利く女の子だ、ってな」
悠真は父親の声真似をして言った。
「来年も、期待して待ってるぞ」
凪はそっぽ向いた。
「じゃあコンビニのスルメイカで、いいわね?」
ピンポーン。
「あと五分で昼休みが終わります。繰り返します」
凪はお弁当の箱を閉じてカバンに入れた。
「相手は咲良ちゃんか。確かにあの可愛さなら、何でも借りられそうだもんね。悠」
凪は手を出した。
悠真は凪の手を叩く。
「頑張ってこいよ!」
「うん!」
アナウンスが入った。
「借り物競走に参加する選手の方は、運営のテントまでお越しください」
「よし!」
凪はカバンをクラス陣地に置いて、テントに向かった。




