15
なぎ。
凪は目をゆっくり開けた。
白銀の月夜。
水面が輝いている。
1人の男が立っている。
しかし遠くてよく見えない。
凪は手を伸ばす。
水面が揺れた。
泉を囲んでいた森がざわめく。
枝が伸び、葉で塞がれてしまった。
「待って! あなたは誰なの!」
光が一面に広がる。
「待って!」
凪は天井に向かって手を伸ばしていた。
目があつい。
涙が流れた。
「どうして教えてくれないの? あなたは誰なの?」
凪は時計を見る。
いつもより早く目が覚めてしまった。
涙を拭いて、ゆっくり起き上がる。
ダイニングへ行くと、母が朝食を作っていた。
「あら? 今日は早いのね」
「お父さんは?」
「やることがあるから、って今出て行ったところ」
凪はお茶を自分で入れた。
「ねえ、お母さんって、忘れられない人っていた?」
「どうしたの突然?」
笑いながら鍋をかき回している
「なんとなく」
「そうね、お父さん、かしら」
凪は目を丸くした。
「え! そうだったの!?」
「じゃなかったら、結婚なんてしないわよ。さあできた」
凪はキッチンから料理を運ぶ。
「いただきます」
母がチラリと見てきた。
「悠君のこと」
凪はむせた。
「幼稚園から一緒のやつ忘れたくても、忘れられない」
凪の箸が止まった。
⸻今私、忘れられない人って言った。無意識に。あの人は、私にとって、忘れられない人なの?⸻
⸻結婚⸻
凪はお茶を飲み干した。
「ごちそうさま」
制服を着て、今日のヘアアクセサリーを選ぶ。
「これでいいや」
安売りされている黒いゴムで一つに束ねた。
机の椅子に座って見上げた。
「私は、忘れられない人を、忘れてしまったの?」
チャイムが鳴った。
凪はニヤリとした。
「悠君来たわよー!」母が一階から叫んでいる。
「ごめーん! ちょっと支度に手間取っているからって伝えて!」
母が説明している声が聞こえる。
「待ってるって!」
「はーい!」
凪は手に顎をのせて、鼻歌を歌った。




