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ヒューン。
飛来音と同時に、大地が揺れるほどの爆破の嵐。
耳を塞いでうずくまる。
人々は我先に逃げる。
しかし炎が街を走り巡っている。
逃げ場など、もうない。
風と共に火柱が立ち上り、建物を包み焼く。
中から人が飛びてて来た。
もう手遅れだ。
生きたまま焼かれている。
助けを求めても、皆、避けていく。
⸻人はこうして死ぬんだ⸻
⸻そして、俺も死ぬ⸻
「兄さん…」
兄たちは逃げる方向を言い争っている。
「一緒に日本へ帰ろうと、約束したのに」
涙は熱風ですぐに乾く。
⸻このまま何も成せず、無意味に焼かれて、死ぬ⸻
焼かれた空気を吸って、激しく咳き込む。
「兄さーん!」
凪は静かに目を開けた。
息を大きく吸い込む。
灰も熱風も入って来ない。
涙が滲んだ。
「兄さん…」
凪はベッドからおりた。
棚にある箱を机に置く。
母の足音が聞こえた。
「凪ー! 朝ごはん!」
「はーい! 今行く!」
凪はダイニングへ降りた。
朝食を終えて、部屋の窓を開ける。
山の緑が以前に比べて青々としてきた。
空も青みが増している。
わたのような雲が、青空に浮いている。
一つではない。みんなで流れていく。
凪は机に置いた箱から、古本を取り出した。
痛みが酷く、ページは慎重にめくらなくてはならない。
昭和二十七年初版の本。
戦没飛行予備学生の手記をまとめたものだ。
ティッシュを挟んだページを開く。
⸻美しい大空の白雲を墓標として⸻
凪はその言葉を見つめる。
ハンカチを取り出して、目に当てた。
「兄さん。兄さん」
夢に出てきたのは、日本国旗を付けた兵士たち。分かるは日本兵であったことと、温もり。
名前も、
顔も、
出身も、
何も分からない。
そしてその後、どうなったのかも。
前世なのかも、と凪は思っている。
彼らの仲間の一人だったのだと。
凪はページをめくった。
一人一人の言葉を胸に刻む。
ふと疑問が浮かんだ。
⸻私は一体、誰だったんだろう。あのまま、亡くなってしまったのかな?⸻
しかし名前も顔も分からない。
調べようがない。
⸻じゃあどうして、そんな夢を繰り返し見るんだろう⸻
凪の脳裏に、あの静謐な声がよみがえる。
なぎ。
そう静かに呼ぶ、悠真と同じ顔と声の青年。
「あの人と悠は関係があるの? それともただの夢? でも」
凪頬杖をついた。
「あの声、今朝見た夢の私の前世の声とも、同じな気がする」
腕を組んで唸る。
「悠と同じ姿のあの人が、私の前世と同じ? どういうこと?」
凪は伸びをした。
「だめ、分からない!」
姿勢を直して、またゆっくり、ページをめくる。
本文中の「美しい大空の白雲を墓標として」は、戦没飛行予備学生の手記『雲ながるる果てに』(昭和27年初版)より一部引用・参考にしています。『雲ながるる果てに』は国立国会図書館デジタルコレクションで読めます(閲覧には会員登録が必要です)。




