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3限終了のチャイムが鳴った。
先生が教室を出ると、女子たちは机を中央に集め始める。
皆、誰の指示を受けることもなく、筆記用具を持って椅子に座る。
男子たちは端に寄せ集まった。
くじ引きで体育祭委員に選ばれた幸運女子、牧さんが言った。
「みんないい? 分かっていると思うけど、再確認。私たちはこの戦い、絶対に負けられない」
集まった女子たちが頷く。
「悠真君がいるこのクラスが一位じゃない。いえ、圧倒的勝利じゃないなんて、あってはならない」
女子たちは二度頷く。
凪は席から立って、牧に出場種目表を渡した。
「私、運動得意じゃないの。みんなの足引っ張りたくないから、お願いしてもいい?」
牧野は意外そうな顔だった。
「いいの? 強制じゃないから、出たい種目に出ればいいのに」
⸻そんなこと思ってないでしょう…⸻
作戦会議に出ていなかった女子たちも、続々と出場種目表を渡す。
凪は席に戻った。
優奈は紙を渡していなかった。
「あれ? 優奈いいの?」
優奈がにっこり微笑む。
「私は応援合戦と玉入れにしてみる」
凪は引いた。
「応援合戦は倍率高いよ! ってか、悠真の応援したいの?」
優奈は笑った。
「クラスの応援に決まっているじゃない!」
「はは…。確かに優奈のリーダーシップなら、応援合戦が適任かも」
ピンク色の紙に「悠真君」の文字が入った横断幕を、凪は想像してしまった。
ふと、凪が悠真が教室にいないことに気がついた。
外を見ても、昼練している様子もない。
⸻なんで怒らせちゃったのかな⸻
「優奈」凪は言った。
「どうしたの?」
⸻違う。これは自分で考えよう⸻
「やっぱり、なんでもない」
優奈は微笑んだ。
一斉に椅子を引く音がした。
作戦会議が終わったようだ。
牧が言った。
「とりあえず、このスケジュールでやってみましょう」
女子たちが頷く。
優奈が耳打ちした。
「今年の体育祭は楽そうね」
凪は苦笑いした。
曇天で、今日は夕日が見えない。
優奈は塾に行き始めて、先に帰ることが多くなった。
凪は野球部のクラウドを素通りする。
⸻当たり前のことを言ったつもりだったのに、何が気に入らなかったんだろう⸻
バスに乗り、電車に乗り換える。
⸻だって悠は実際、小学校も中学校も、先輩より強かった⸻
凪は1人帰路に着く。
⸻星野さんのことだって、あの学年一の美女に、凪ちゃん、って言ってもらえたことが嬉しかったのに⸻
いつの間にか、家の玄関前だった。
ノブに手をかける。
⸻まあいいや。今年は岩牡蠣を送って機嫌を取ろうと⸻
凪は玄関を開けた。
「ただいまー」
カレーの匂いが鼻に入ってきた。




