第8話「明かされた異術界の事情」
私は時間の限られた中で即座に決着を付けるために渾身の技を放つ態勢を作る。すでに【天牙一閃】が来ると分かっていた敵は確実に避けるための態勢に入って様子を窺っている。
(これで決まらないなんて失敗は絶対に避けたい。あの虎を解放するために目前の敵は確実に討たないといけない。だから、この一撃で決める……!)
決心を抱いた私の意識は奴の右腕だった。基本は右が利き腕であると言った話は俗に存在している。日本人なら利き腕は右であっても可笑しくはない。取り敢えず利き腕じゃなくても斬り落とせれば私に優勢は傾く確信を持って技を放つ。
「ふぅぅぅ~!」
深呼吸をしてから構えた状態を保ちながら一歩目が踏み込まれる。一歩が踏み込まれた瞬間に凄まじい速度で間合いが詰められる。それも霊力で通常よりも強化しているから前回を越えた速度が出る。
「はぁっ!」
その攻撃に対して敵は踏み込んだ瞬間を捉えて避ける動作に移る寸前で血が噴出する。気付いた時には右腕が斬られている事実を認識した。そこで肝心の私はすでに通り抜けて行った後の姿勢に入っていた。
「これでお終いね? ちゃんと右腕は斬らせてもらったわ。もう貴方の勝利は望めないんじゃないの?」
「まさか目で追えなかったなんて思いませんでした。この時点で私の敗北は決定したも同然でしょう。しかし、こんな小娘に敗れるなんて予想外ですね?」
「まだ戦うつもりじゃないよな?」
「片腕を失った状態で勝利するなんて無理ですよ。もう戦えません」
「これ以上は手を下さないで置くわ。けど、再び被害を及ぼす真似をした時は殺すからね?」
「参りました。やはり、悪行を通して生きることは難しいです。しかし、まだ生きて行ける余地だけでも残してくれました。感謝します」
「この先は正当に生きなさい」
それだけ告げた後で私は虎の傍に駆け付けた。虎は変貌した肉体が戻る気配はなかった。もしかするとあいつの異術は一度でも扱われると肉体は戻らないのかも知れない。けど、支配から解放された後の虎は私を襲って来なかった。それ以上に悪夢から覚めたような表情を私に向けている。この事件が解決した時は野生に帰る手段を手配してもらうことを決めた。
「よし、それじゃあ次に行こうか? まだ被害現場は残っていると思うからね?」
「さっきまではごめん。私は少し勘違いしていたかも知れない。霊媒師を継いで行く上で私の師匠は一人でも多くの事件を解決した実力者だったんだ。それを見習って一人だとしても解決しないと駄目だった。思い込んでいたんだよね? でも、この一戦で気付けたことがあったよ。それは他者のために戦う意思が自分を強化させてくれるんだよね? 分かった時から私はもっと強くなれる。そんな気がしたわ!」
「ふふっ。それで良いんだよ? 私たちは時に協力して勝利するの。支え合って生きることは悪くないからね?」
「うん!」
そうやって私たちは一人目の敵を倒した。殺した訳じゃないが、彼に戦意は戻らないだろうと思って縛ることはなかった。けど、再び人々を脅かすことがあれば容赦なく殺すのだと決心を抱いた。
そして私たちは妖力の感知が強い方向に歩んで行く。今度は一緒に妖怪を一掃しながら前進する先に待ち受けていたのは凄い光景だった。
「ひぃ⁉ ほ、本当にごめんなさい!? 殺さないでぇ!?」
「あぁ? 命乞いすれば助けてもらえると思っているのか? そんな単純思考で大規模な被害を起こしたお前を生かすなんて無理だよ。死んでくれ?」
「うわぁぁぁあああ!?」
べちゃっ!?
あの先を曲がったところから声が上がった。一人は命乞いで助けてもらえるように訴える声だったが、それは悲鳴と共に聞こえなくなった。それは命が失われる時の断末魔にも思える。気になって駆け付けてみると、そこには楽典さんの姿と飛び散った血痕が残されていた。
「師匠!」
楽典さんを見付けた双羽が自分の指導者を愛称で呼びながら駆け寄った。そんな中で一つだけ謎に思ったことがある。それは少し離れたところまで響いた悲鳴の主がいない点と不自然に血痕が周辺を散らされている謎の光景に疑問が生じる。それに加えて返り血を浴びた楽典さんは平然とした表情で私に現状を尋ねて来た。
「やぁ? 君たちの方はどんな感じだったかな? 確か君は清原珠美ちゃんだったよね? もしかして不審人物とか見掛けなかったの?」
「あ、は、はい。一人だけいましたが、私たちで倒してどこかに去って行ったはずです。さすがに命までは奪ってません。人の命は大切に扱わないといけませんから」
「へぇ? 生かしたの? それは凄く感心しないねぇ? そこで相手した奴らは今回の一件に絡んでいる主犯だよ? 次に見掛けたら俺が殺して置く必要があるわ」
「そ、そこまでする必要はないと思います! 反省している上にそいつの片腕は斬り落としました! つまり、片腕しか残っていない人に罪を重ねることは出ないでしょう! なら、生かして置いても良いじゃないですか!」
「は? 申し訳ないが聞けない話だよ。何故なら事件を起こして置きながら人生を継続することには意義がある! その意義が晴れない今では主犯は殺す他にない」
「間違ってます! 戦意を喪失した人を殺してまで罪は問わなくて良いんです!」
私が必死に抗議した瞬間に穏やかそうだった楽典の表情が険しくなる。それは私の発言に怒っているような表情だった。それを見た時に私は内心で戦慄させられた。それ以上に身体が受けた血痕が如何に残忍であるかを物語っている。そんな楽典さんを前に立ってしまったことを私の内心は恐怖していた。
「君は本当に人を助ける気はあるのかい? 生かすなら良心を持って日々の生活を送るルールに従って動いている奴だけだ。そこに犯罪者の立ち入る隙は与えない」
「うっ……うぅ……」
怖くて声が出なかった。楽典さんの意見に納得した訳じゃない。それどころか微塵の同意も出来ないぐらいに酷い考え方を持つ楽典さんに付いて行けるはずもないと思ってしまった。しかし、実際に楽典さんを説得する意思を見せた瞬間にどんな仕打ちを受けるのか分かったもんじゃない。ここは話を合わせて我慢する他に生きる術はないと考えた。
「取り敢えず少し気になったのが、後ろにいる虎が何で付いて来ているのか謎すぎる事態だ。さらに微かに魔力が感じられるところに着目してみると分かる。こいつは従魔として仕えた獣だな? ご主人を失って付いて来た感じか? しょうがない。けど、目障りだから消えろ」
「——えっ!? や、止めてぇ!」
そこで楽典さんが掌で起こした黒い閃光を即座に小さい球体を形成する感じで収束させる。それを躊躇しないで虎に向けて放つと閃光が直撃した一瞬で肉体が弾けた。血が飛び散って周辺が赤く染まる。赤いペンキが飛び散る瞬間を目撃した時よりも残酷を極める色合いと匂いは血生臭いと言い表しても可笑しくない感覚が捉えてしまった。あんなに優しい野生の虎を意とも容易い殺し方で始末する。
「そ、そんなぁ……」
「これで断罪は完了した。あの世で悔いるが良い」
「ふ、ふざけんなぁぁぁあああ⁉︎」
「ん?」
私は怒りが込み上げて抑えられない状態になった。両手で護霊刀を握って瞬時に【天牙一閃】を放った。迅速による接近が楽典さんの至近距離まで詰める結果を生じさせた。しかし、その凄まじい速度でも楽典さんは対応して見せた。
「いきなり見たことのない速度を誇った技が飛んで来るなんて世間は凄い奴がいるんだと知れたよ。けど、見習い巫女の分際で手を挙げるんじゃねぇ? 分からんのか?」
バチバチッ!
「ぐぁっ⁉︎」
私の護霊刀が捉えた先はちゃんと素の腕によるガードで受けたから普通は斬れたはずだった。それが一瞬で防御に出た腕は黒い閃光を纏って刃が触れた途端に弾かれてしまう。単純に黒い閃光を瞬時に纏わせることが間に合ったとしても、そこに絶大とも言える防御力が発揮されるなんて思えなかった。そこで黒い閃光に隠された性質が気になった瞬間だった。これから楽典さんを攻略するには黒い閃光の性質を知って置く必要性が非常に求められると考えた。
弾かれた私はバランスを崩して倒れる寸前で持ち堪えた。そこで自分の攻撃が効かなかったことを自覚した上で抱いた疑問を解消させるために黒い閃光の秘密を探った。
「お、お前はどんな霊術を扱うんだ? 普通の黒い閃光が斬撃を防げる訳がない」
「簡単な話だ。俺が扱う霊術は【暗黒閃光】と呼ばれるが故に悪性を問われるだけのイメージを持たれている。この黒い閃光は触れると弾く性質が備わった攻撃に特化した霊術だ。それは逆に防御策にも扱える攻防ともに完璧すぎる異術なんだよ」
「はぁ……? それじゃあどんな攻撃でも効かないじゃん」
「基本は無効化する方法はある。世間は多様の異術が存在して【暗黒閃光】に対抗策はどこかで潜んでいる可能性は捨て切れない。そこで俺に対等の立場で接触した人間が清原智成だったんだ」
「お、お父さんが……?」
楽典さんは自身の異術を明かしたが、それと同時に対抗できる唯一の存在はお父さんだと明言する。この時にお父さんが完璧にも思える異術に対抗する策を持っていると聞いて驚愕を隠せなかった。そして追加でお父さんと世界全体に共通した極秘情報が開示される。
「あいつは優れた霊術師だと世間が認めた。その実力は普段では発揮されることなんてあるはずがないと噂されるほどに上等を極めた戦力で知られる。彼こそが史上最強の霊術師だよ」
「お、お父さんが史上最強……? そんなに凄いのか?」
「もちろんだよ。けど、あいつは世界で行われた【異術統制師団】の四大術師にならなかった。その座に君臨すれば国家権力なんて自由に操れる。ちなみに俺は序列七位に入った術師だ!」
(ば、バカな……!? この瞬間で敵対した男が異術界の序列七位と言う位置に着いた術師だったなんて嘘だろ? そんな奴に敵うはずがないじゃん……)
内心で私の気持ちは下がってしまう。それ以上に選択した相手が悪すぎる。序列七位の実力者なんかに真っ向で勝利することが出来るはずもなかった。今の私に楽典さんの体力を少しでも削ることだって不可能に等しい。それを思い知らされた瞬間に殺された虎の悲惨な結末が蘇る。どんなに強いからと言って簡単に害のない生き物を殺して良いはずがないと内心で思った。しかし、それを通す力が私に引き出せる訳もないなら食い下がらなければ良かったと後悔する。後悔が生じた時に私が通したかった正義が如何に無力だったかを思い知らされた瞬間だった。私は自然と涙が溢れて止まらなくなった。
「あれれ? まさか泣き始めちゃったか? それもしょうがないさ。弱者が身の程を弁えないで攻撃を仕掛けて来たんだからな? けど、大丈夫だよ。君は史上最強の娘なんだ。それを敢えて手を下した場合の代償は大きいからね?」
(だ、駄目だ……。こんな奴と一緒に活動なんて出来ないよぉ……)
「どうしたの珠美ちゃん? 何で泣いているの?」
「——え?」
私が自然に涙を流した瞬間に近くで見ていた双羽が声を掛けてくれた。その時に掛けられた声が私の内心を安心させてくれる作用を及ぼした。少し恐怖が和らいだ瞬間を私は過ごしているんだと実感が湧いた時の私は目を擦ってもう泣かないことに決めた。取り敢えず現状はお父さんと合流した後で何とかしようと思った。
そしてさっきの話で告げられた【異術統制師団】の存在は確かであるのかが気になった。そこは楽典さんの発言からして他者に告げたことはないと判断した。実際に私が殺されることがしょうがないと思わないお父さんを信じて目前の光景を忘れるに尽くしたいと考えた。
それ以降からは妖怪を退治しながら奥まで行く決定が決まってお父さんと合流する時が非常に待ち遠しかった。
(けど、何で統制を企てる組織の序列一位にもなれたはずが座を降りて清原神社の神主なんてやっていんだろう? 国を揺るがす権力が手に入るなら頂点に立つ方が絶対に良かったはずだ。そこが分からないんだよな……?)
そんな疑問を抱きながら合流したメンバーで共に妖怪を退治して進んで行く。そこで半数箇所の妖怪が退治されたことを記録していた楽典さんが引き返す決意を表明する。楽典さんに賛成して後を追うことは少し不安だけど、最後はお父さんと合流が出来るなら良いと思った。
そして私たちが戻る途中で他のメンバーと合流を果たした。
「どうやら一日で今回の一件は片付きてしまったらしい。それも七人で協力したことが特に早い解決になったと思う。ここで俺たちは再び集まれたことも奇跡と称して最後は祝って終わりにしたい。今回はありがとう!」
「こちらこそ」
「良い経験になりました!」
そうやって私たちの力で長野県に位置する北信地方が救われた。どうやら猛獣を操っていた魔術師と遭遇することはないで幕が閉じた。彼も命を絶つなんてことか目前に迫った事態に陥る結果が実現してしまった時の後悔は死に際でも最悪とも言える結末である。しかし、私はこの経験で少しは強くなった気がしてならない。楽典さんと言う残忍で慈悲を持たない奴は今後の修行で追い上げたい気持ちが生じていることを知らない。だから、いつの日か楽典さんでも許されない世間を構成しようと考えていた。




