第7話「猛獣を操る魔術師」
目前に現れた男性の後ろに二匹の獣が控えている。きっと聞いた発言から察すると獣を操る異術が扱えることは分かった。それと今回の一件に関係していることも言えるはずである。こいつを倒してから情報を聞き出す方が他にいる仲間の人数と配置が聞ける。まずは取り敢えず倒すことが最優先事項だと捉えて交戦の準備態勢に入った。
「それじゃあ私のために死んでもらいます。例え小娘だろうが戦場に赴いた瞬間から殺すつもりだったんですよ。では、速やかに殺させて頂きます!」
すると、控えていた獣が前線に立った。見た感じだとライオンと虎であると捉えても良いだろう。それも、二匹からは多大なる妖力が感じ取れる。きっと野生のラインと虎に異術で強化した結果が目前の二匹だと考えられる。取り敢えず双羽と一匹ずつ相手すればどうにか倒せる気がした。しかし、そんな効率を無視して双羽は交戦に臨む姿勢を見せた。
「貴方たちは私だけで十分よ! さぁ、来なさい!」
「待ってよ! ここは私にも戦わせて頂戴? その方が早く終わるでしょ?」
「はぁ? 何で獲物を分けないといけないの? 貴方は黙って見ていればいいでしょうが!」
「仲間同士で喧嘩を始めるなんて余裕があるんですね? それなら仲良く一緒に死んでもらいます!」
そうやって敵が宣言してから獣を襲撃させた。その攻撃に対して私よりも先に反応した双羽が炎の翼を広げて空に舞った。そして燃え盛っている翼の炎で槍を形成する。形成した槍は始めにライオンを目掛けて放たれた。
しかし、それはライオンが持つ本来の反射神経で避けられてしまう。さらにもう一方の虎が上空と言う安全地帯に留まる双羽と違って攻撃を護霊刀で受け止めた。鋭い爪が護霊刀と交わる結果を見せて私は押し返す。虎は後退してから上空で浮いた状態にいる双羽よりも地上で真面に応戦している方を優先する。上空を飛んで攻撃を全て届かないように仕向けた卑怯とも言える状況を作り出した双羽を敵は無視する方針を取った。攻撃の届けられない相手は幾ら待機していても勿体ないだけだと敵が考えているように思える発言が投げられる。
「どいつも翼を持つ術師の殆どが上空に逃げて攻撃が当たらない状況を楽しんで撤退を待つ。実際に正面から交戦すれば分かる通りの実力差が私たちの間に生じている結果が覆せないからでしょう? そんな弱腰は放置して正々堂々と交戦に臨む相手しか相手しない。そもそもどんなに無敵状態だからと言って逃げる奴は大した攻撃を下せないんです。だから、そこまで怖くありません」
「はぁ? それは単純に良い訳だろ? どこまで避けられるのかな?」
再び炎が形成した槍が上空で収束されて獣に向けって放たれる。二匹は私を長的にしながら巧みに回避して攻撃に徹する。こちらも獣たちの攻撃を意とも思うことのない対応力で応戦して行く。相手だけが攻撃する展開を作る状況を許さなかった。こちらが攻めて斬り付けた刃を避けて反撃に来る二匹は同時でも対応されてしまう現状を見せられて敵は考えさせられる。そこで今度は敵の隠していた戦闘スタイルを解禁する。
「では、従魔たちだけに戦わせないで私が参戦しましょう。実は自身の戦闘能力に関しても高いと評価されて来たぐらいです。三体一で勝利を収めることは出来ますかな?」
「構わないわ! しかし、上空から来る攻撃が本当に当たらないでいられるのかな?」
「それは断言することは出来ません。けど、正面から向かって来ない腰抜けに普通なら劣る戦士は戦場に立てないでしょう。戦場を駆ける戦士は正面でぶつかり合うことを誇るのです!」
「あぁ? そんなに正面の戦闘を推すなら仕方ないから叶えてあげるわ! 私の正面戦闘にどれだけ耐えられるのかな?」
そうやって双羽が地上に降りて来た。双羽にも地上で交戦する気が起きたみたいで私の助太刀に加わった。
双羽は翼の炎を自在に操って複数の槍を形成する。そこから窺えることは以前までの攻撃は本気に至らない加減を利かせたていた事実が示されている。。そして一度に五本の槍が同じタイミングで放たれた。
「これでどうだぁぁぁあああ!」
五本ともライオンに向けて飛んで行くが、驚異の運動能力が相手だと的中させることは難しい。それを踏まえた上で私は回避する瞬間に狙いを定めて禁じ手を駆使した。
「お父さん、ごめんなさい! この技は禁じられたはずだけど、使うなら今しかないんだよね? この一撃で仕留めることを許して欲しい!」
例の技を繰り出す構えを取って一歩が踏み込まれた瞬間で速すぎる動作を実現させた。これまで封じて来た【天牙一閃】を久し振りに放った私は隙の出来たライオンの前足を狙って斬った。すると、一瞬の出来事に驚愕した双羽が目を疑う。そして自分の従魔が前足の損失でバランスを崩す瞬間を見た時に一匹目の討伐を格段に高めた。
「これでライオンは回避できない! 今のうちに炎の槍でトドメを刺してぇぇぇえええ!」
「はっ!? 今がチャンスか!?」
その一声が上がった瞬間の双羽は目前の好機に気付いてすかさず炎で槍を形成した。そして形成された槍をライオンに放つ。ライオンが回避不能に陥った状態で動けるはずもない攻撃を黙って受けるしかなかった。
「グワァァァアアア!?」
「やったぁ!?」
「そ、そんな馬鹿な!?」
ライオンは身体に燃え盛る槍で貫かれた瞬間に炎が肉体を焼いた。それは内側から燃やされて全体に広がって消滅する。肉体が炎に耐えられなくて燃え尽きる結末を辿った従魔を目前に捉えて驚愕の叫び声を上げた。
「マジでやりやがったなぁぁぁあああ!? 許せない‼ 絶対に殺してやるぅ‼」
「あの一瞬で間合いを詰めて斬り付けるなんて凄かったぁ……! 貴方もちゃんと戦える術師ってことが分かった気がするよ!」
「えへへ。そうでしょ? それじゃあ残り一匹も倒して奴を討ってやろうね?」
「分かったわ!」
残っている従魔は一匹で術師は現在の状態から窺える人数は一人だけである。そこで虎を先に倒して術師を集中攻撃する策が私の思考に有効だと思っていた優先順位だった。それを双羽はどっちが優先で倒したいか聞いてみた。
「双羽の場合は従魔と術師の優先したい方はどっち?」
「まだ術師がどんな戦闘スタイルで来るか分からない。だから、先は虎が倒されるべきだと思うわ」
「分かった。それじゃあ片付けて行こうか?」
「うん!」
真のタッグが組めた状態の私は少し怖い敵が減ったことに感謝する。残る方の従魔が威嚇する姿を見せているが、本来はライオンと虎で一対だったかも知れない可能性が出て来た。実際に片方が欠けても良かったなんてことはなかったらしい。そんな軽い呪いに気付かないとは怖いと思った。
「グゥ~」
「あぁ? まさかもう戦えないって言っているのか?」
「どうなんだろう? 分からないなぁ~」
目前の虎はライオンが死んでから時間の経過を見た感じだと生命と妖力の急激な低下が起こり始めていた。それも、こちらは本来なら原因が分からない状態で手が出せない問題として片付けていた場合は特に解決の糸口を探すことはしなかった。
ここで我々が手に負えない状況を理由に見過ごした問題が本来の善良なる心を無視して操ったが故に起きた損失を招いた時の怨念は凄く強い憎悪で死後の末路が決まる。それは人間に限定された話じゃない。もし、虎が無理に操られていたにも関わらず、本当の気持ちを無視した葬り方を選択して命を奪った時の行いは将来のどこかで怨念になって強力な障壁になる可能性を秘めている。その怨霊が強力すぎて巫女や他の術師が総力を挙げても倒せなかった事態を招かせないために殺す時は相手の状態を考慮する必要性がある。それは私がお母さんに一人前の巫女に成長させるための教育に含まれた内容だった。
「これはチャンスじゃないの? もう従魔は弱っているわ。早いうちに息の根を止めて置こうよ?」
「いや、待って!」
「——え?」
私の一声で双羽の殺意にストップ掛かった。普通なら即座に殺した方が有利だろう。この機会を逃した後で殺して置けば良かったなどの後悔が抱かれないように選択は誤る訳にいかないことは私も十分に理解している。しかし、それが将来に大きな障壁となって立ち塞がる時が来るリスクを踏まえると決断を遅らせる。
そして虎が攻撃態勢に入った瞬間に双羽は反射ですぐに殺して終わる選択を退治する。結局は待ってあげた時の判断が後悔を辿る選択だった最悪を出来るだけ除きたい気持ちが現れる。けど、私は気付いていた。攻撃を余儀なくされた虎の立場と末路に対する覚悟が滲み出た雰囲気で読み取れる感情が救済の余地に縋る行動を起こさせる。
「大丈夫。もう安心して良いんだよ? 貴方は利用されていた可哀そうな被害者なんだよね? そうとも知らないで対になった方を殺してごめんなさい。今から貴方を解放するために元凶を絶って来る。少しだけ待っていて欲しいんだ?」
すると、懐から出したお札を虎に張り付ける。虎は抵抗する意思を見せるが、不意を突かれて反応に遅れてしまったことが原因でお札が張られた。その行為を見た敵は自分の従魔に何を施されたのか分からないが故に大声を上げた。
「な、何をしたんですか! これ以上は許しませんよ!」
「これは感情の支配を一時的に和らげて抵抗の余地を与えるお札よ。これで貴方の異術から解放される時間が出来るわ。交戦を強制されて大事な相方を失くしたこいつのためにお札が機能しなくなる時間を迎える前の段階で貴方を倒す……! 覚悟しなさいよ?」
「ほう? すでに気付いていたようですね? しかし、それがどうしたんですか?」
「双羽も参戦して欲しいの! 力を貸して!」
「分かった!」
私は護霊刀を構える。再び【天牙一閃】を放って早めの決着を付けたいと思った。大抵の人間は【天牙一閃】が誇る速度に対応が追い付かない。ならば、チャンスは必ず掴み取れるだけの余地は大きい。そこから導き出せる可能性は確実に掴んで置きたかった。
「どうせ先ほどの技を使って致命傷を与える策で来るんですよね? しかし、あの技は構えてから一歩が踏み出される瞬間を警戒していれば避けられる。すでに弱点が把握されている中でどうやって攻略するんですかね?」
「凄いわ。これまで【天牙一閃】に対応して見せた人間は一人だけだった。けど、相手は一人じゃないのよ? それを踏まえて貴方は避け切れるのかな?」
「もちろん私から攻撃に移る機会を窺って戦うに決まっているでしょ? そこで私が愛用しているお気に入りの魔剣を紹介してあげますよ」
そこで敵が手元に一瞬で一本の剣を出現させた。それは私の【空間転移】と似ている点はあるが、実際は彼の指輪に秘密が隠されていたことは分かった。きっと収納スキルを持った指輪だろう。それは以前の一件で扱っていた人物が俗に存在する現代が取り入れている一手に数えられる。それは何でも収納することが出来るので、多くは取り引きか交戦を匂わせる時だと相場が決定されていた。
そして敵は自分が取り出した魔剣を語る。その魔剣がどんな性能を持った武器であるのか確かめて置いた方が戦いやすいと考えた。
「これは悪魔の力を借りて打たれた魔剣。通称【凶黒砕牙】と呼ばれる気に入っている一品になります。しかし、命を張った一戦なら遠慮しないで殺して良いですか?」
「ふざけないでよね? 私たちが殺される訳がないでしょ? もっと実現しやすい夢を追いなよ?」
「それだから夢の詰まらない人間は困ります。ここで死んで行く末路を辿る貴方たちは確実に殺したいです。では、再開しましょうか?」
そこで交戦が再開された瞬間に技を駆使するために構える。この時点で【天牙一閃】は警戒されている技になる。今回は私の技が致命傷を与えられた時は勝利したと言える。それが実現した時は私たちの勝利であることは決まっていた。
「行くぞぉ!」
「来なさい? 最後に血が流れるのは貴方たちですからね?」
私は得意技の使用を惜しまないつもりでいた。それは虎の支配が解かれた状態でいられる時間は限られている。その間で私が勝利を収められなかった時は虎の相手を同時に行う必要性がある。そこで虎だけを殺さないように意識することは術師に集中して戦える状況に相応しくないだろう。敢えて虎を盾にすることで私に攻撃させない手段が確実にないとも断言は難しいからだ。
(集中しろ。ここで霊力を足に集中させて通常よりも迅速に間合いを詰めないと決まらない。相手が私の移動速度を見切って避けられる事態は頼って来た技が有効性を持たせられない結果を招く。それでは根本的に勝利が憚ってしまう)
私の意識は【天牙一閃】を駆使する上でどこを斬り捨てるのかと言う選択が重要になって来る。斬る箇所によって回避が困難となる幅を広げられる。それに相手を戦闘不能に陥らせるなら二度と交戦に復帰できないように利き腕を斬り落とした方が得策ではある。片腕が失われた時点で魔剣を片方で振るうしかなくなる。片腕の切断に成功した後で勝利することは容易いほどに優勢を取る可能性を九割にも引き上げるだろう。それを踏まえて利き腕に焦点を合わせて技を下す構えを取った。




