第6話「求めるべき理想」
今日は終礼を終えた後で帰宅する前に屋上を訪れた。そこで端っこに添えた花束と一緒に並べてある手紙の前で手を合わせた。何故ならそこが美佐のお墓も同然だったからである。
やはり、私が未熟だから守り切れないんだと自分が弱いことに後悔の念を抱いて日々の修行に費やしている。もう二度目の後悔はしたくないから今に人生を捧げるつもりで励んでいた。例え修行に費やした日々がみんなと過ごせるはずだった時間を削る行いだと分かっていても取り組む姿勢を辞退しなかった。そんな意地を見せて自分の思っていた以上の貴重な時間よりも生きて欲しい人たちを守る力を付けたいが故の修行だと心得た上で頑張って来た。そこに微塵の後悔も見出さない未来が存在していることを願って出来る時に励むのだ。
そして今日も校門の周辺で電斗が待機している姿が見えると一言だけ声を掛けて帰路を辿った。無駄な一言は送らないで単純に自分が来たと分かる認識だけを持たせて後を付いて来させる。
「ただいまー!」
「お帰りなさい。そろそろ帰って来る頃だと思っていたよ」
「珠美のお迎えを完了しました。この後は二人で修行に入ります」
「先に準備して庭の方で修行を進めていなさい。俺は後から加わる」
「「了解!」」
そんな風に言われたことを実行する。まずは着替えてから中庭に来ると、同じタイミングで電斗の姿が窺えた。電斗は毎度のように両手両足首に重量のあるリストバンドを付けて修行の場に赴く。それほどまでに高い意識は日々の中で着実に現れていることは確かだった。電斗の場合は私が学校で勉強している間も修行に身を置いて鍛える日々が自身を居座らせてもらう理由を大きく作っていた。だから、修行で電斗が気を抜いた姿を見たことがなかった。
「最近は凄い強くなったんじゃないか? 日頃から努力の成果が見られているようで感心させられるわね?」
「俺が鍛え上げる理由なんて大した意義を持たない。逆に持たせる訳にいかない話だ。俺は修行を始めた時から強くなった後でも思えてしまう実力不足が自分に葛藤するんだ。それが日々に積み重なって最近の起床時間は四十分を早めている。しかし、そこまで満足できるほどのことでもないように思えて少し苛立ちを覚える時が多い」
「へぇ? ま、その意識は良いんだけど、それで正道を外した時は私が始末する必要性が出ちゃうんだからね? どんなに努力した人間でも道を踏み外して立ち塞がる奴は撃破する他にないんだ。分かるでしょ?」
「もちろんだ。だから、考える時は冷静に秩序の在り方を思い直しながら徹する意識を持っている。それが正しいかなんて分からにけど」
電斗が語った話は非常に一般とかけ離れた世界に踏み込んだ人間の末路みたいに思える。しかし、それを私は否定しない。その在り方が電斗なりに思考した結果なら尊重する意思は見せても良い。けど、それが私の責務で消し去らないといけない時は正々堂々と戦ってお互いの正義に決着を付けたいと思っていた。
(ふっ。少しの間で凄くカッコよくなっちゃっているなぁ? その調子で頑張ってね?)
一人で悩みを抱えて迷っていた電斗に内心で自然と声援を送ってしまいたい気持ちが起こる。素直に言えなかったメッセージは伝わる必要性はなくても良かった。単純に修行する中でどんなタイミングでも良いから伝わってくれたなら本望だと心から思える瞬間だった。態度だけで伝わったとするなら言葉で送るよりも気持ちを深く理解してもらっている証だと私は考える。全ての言葉は何となくでも良いと思ったことは理解される瞬間が奇跡とも言える偶然だとしても恥じる必要はない。人間は発声だけが心を酌み交わす手段でない。内心に抱いた思い出も態度に現れる時は必然とある。それが狙っていようが、偶然の出来事だろうが関係ない。だから、私は言葉が上手く交わせない電斗でも秘めた気持ちは分かってあげられる。
「それじゃあ休憩は終わりだ! 修行に不満があるなら有限の時間を無駄に扱って潰させない。一緒に有意義とも言える修行を送ろう!」
「——ふっ。分かったよ」
そうやって私たちは有限でもある修行の時間に無駄を起こさない努力を積んで行った。とにかくトレーニングは前回よりも早い時間に終わらせる意識を持って取り組ませてもらった。それも、自身に掛かる負荷を以前と比べて下がらないように意識の持ち方を気を付けて迅速にこなした。これで日頃から取り入れたトレーニングが非常に疲労が溜まる実感を起こさせることが出来た。それは起床した時にも感じる疲労で延長して睡眠が取りたい気持ちを引き起こす作用をもたらす。その作用は電斗にも表れて早めていた起床時間を元に戻すぐらいの負荷が鍛えられる筋力の度合いを増やした。
そして今日は久々に他県からお越しい頂いた依頼者の用件を聞かせてもらった。肝心とも言える内容は妖怪と悪霊による区別が付けられない状態で被害者は百人を超える勢いで出ているらしい。それを受けたお父さんが私の帰宅が済まされた後でスマホで知らせて来た用件の解決を優先して学校側に休暇をもらった。私たちは荷物を持って被害現場に向かった。
「話を聞いた限りだと凄い範囲が広いみたいだな?」
「まさか今回も義廻が関係して起こった事件じゃないよな?」
「分からない。しかし、一刻も早く現着して取り掛かるぞ?」
「「了解!」」
こんな日は滅多に来ない案件だった。何故なら被害規模が長野県に位置する北信地方の全体を占める最悪な事態である。これを一体の妖怪で成立させるなんて出来るはずがない。さらに今回は誰かの手で起こされた可能性が非常に高い。
これまで歴代の巫女と神主が引き受けた事件で最も深刻だった被害は東京全体に及ぶ【宗教テロ】が良く聞かされた話で有名だ。それは裏で問題視されていた悪魔を信仰する【ディアブロ教団】が実行した事件で当時の見習いとして身を置いたお母さんとお父さんも一緒に解決に赴いた話を何度も聞かせてもらった。
一度に魔界から召喚された悪魔は五千匹にも及んでお母さんは三割を斬り祓ったそうだ。中でも分担して悪魔の退治に取り掛かって二週間を費やす規模になったらしい。しかも、相手は悪魔だけではなくて召喚した側の魔術師たちとも交戦を強いられて分担が効いて一人になったお母さんたちは複数を一度で倒さないといけない状況に陥っていた。それを成し遂げてしまったお母さんたちの実績は凄く憧れるような気持ちを起こさせる。
「今回はお母さんが来れなかった。しかし、他に知り合いを渡って参戦してもらえることになった。以前では信じられない助っ人だ。その助太刀に感謝して事件の解決に臨んで欲しい」
「もちろん私はこんな時のために鍛えて来たんだ。絶対に救い出そう。これは歴史に残るかも知れない一戦でしょ? すでに起きた話なら私たちだって夢を叶える瞬間に立ち会っても良いよね?」
「良いだろう。これは俺たちが起こした事件じゃない。役割を全うする上で目指す目標としてならどんな認識でも良い。速やかに遂行するぞ!」
「まさか本当に非常事態を担当する時が来るとは思っていなかった。けど、そんな予想外に備えて鍛えた腕は確かでありたい。ここで日頃の成果を発揮してちゃんとした意味を見出して置きたい。出来るだけ被害者を出さないつもりで臨みます」
「その意気だ。お前もうちで過ごしてもらえた理由は今回の件に貢献するためだと認識しろ。これまでの鍛錬を無駄にするな?」
「分かりました。全力で取り掛かります」
そして現地に到着した私たちは助っ人として参戦してくれる人たちと合流する。助っ人は全員で四人ほどはいる。中でもたった一人だけ私たちと同じ高校生が混じっていると聞いた。しかし、そいつも私たちみたいに妖怪退治を専門とする家系の生まれで非常に厳しい修行を受けて来た存在らしい。そこは同じ立場にある者として実力を疑うことはしなかった。
「どうも。状況は伝えて置いた通りです。この一件を手っ取り早く解決させるために協力する意思を持たせてもらいましたが、実際に僕たちは仕事を他者に任せることは普段ならしません。しかし、貴方たちが以前の歴史的大事件に携わった人間だと知っていたから手を貸す決意をした訳です。今回は協力して早急の解決に導きましょう」
「私の名前は翼宮双羽。生まれた頃から家系を継ぐために修行を積んで来た。その成果をここで存分に発揮したい。それを貴方たちに邪魔されたくないから今回は別行動を志望するわ」
「は?」
双羽の発言に私は少しムカついた。双羽が提示した希望はあまりにも身勝手で今回の一件がどれだけ非常事態であるのかと言う認識すら出来ていない。どんな家系に生まれて助っ人に呼ばれたのか知らないが、こいつはどこかで痛い目を見る可能性がとても高い。単独で行動して戦うと強敵の遭遇があった時に高確率で殺されるかも知れない。それでも一人で行動したいと希望するなら私の配慮に加わる必要性はないと思いたい。しかし、それをお父さんと向こう側のリーダーが揃って私と共同で挑んでもらう方針を提示する。それを聞いた双羽は少し気持ちが態度に出る一面を見せる。そこで一緒に行動させることを決定した安藤楽典が文句を言わせないような指摘を下す。
「お前のように未熟で見習い途中の霊媒師は我々からして邪魔でしかない。そこに連れて来てもらったのだからお前はこちらの決定に意見する権利はない。分かったか?」
「しょ、しょうがない。けど、私は一人で戦わせてもらうからな!」
「行動が共に出来るなら共闘に関する細かく縛ることはしない。だが、離脱しないといけない事態を招くことだけは許さない。最後まで今回の解決に貢献しろ。それでは話はこれでお終いです。後は各々の判断で動いてもらいましょう」
「そうだな?」
取り敢えず私は双羽と行動を共にすることを強いられた。凄く不満を吐き出しながら私と距離を空けて歩く双羽にどんな霊術が扱えるのかだけでも教えてもらった。
「私は【蒼炎翼】と呼ばれるものだ。認識と同時に青い炎が翼を作る。燃え盛る翼の炎を操って交戦するスタイルで修行して来たわ。そこで忠告よ? 貴方の力なんて借りないで今回は交戦に挑む。そこに貴方は介入しない約束を交わしなさい!」
「はぁ? そこまで徹底する必要性はないでしょ? それも、今回は異常事態となった状況下にある。そんな現場で一人は難しいと思う」
「良いの! 私は自分だけで戦いたいんだよ! 貴方に手伝ってもらう必要なんてないんだから!」
(非常に難しい要求だな? この先で辞退する結果を招いた時は楽典さんからお叱りが下されることは確かだよう。なら、ここはリスクを背負わないで一緒に戦う方が利点はあるはずだ。そこの判断が出来ない彼女は現状に相応しくないんしゃないかな?)
そんか不安を抱きながら目前に見えて来た妖怪の退治に取り掛かる。私が護霊刀を握って戦闘準備を整えるが、武器を必要としない双羽の方が先に妖怪を攻撃する段階に入る速度で抜かされた。もはや、片っ端から退治されて行く中で私の出番は回って来ない可能性が生じる。しかし、今回と騒動が他者の手で起こされた事件なら共に交戦する必要性を迫られるかも知れない。それに備えて双羽が進んで行く後ろを追う。
「この程度なら私だけでも倒せるじゃん。これで私が倒されるなんて見当違いでしょ」
(現着してから二時間は経つ。取り敢えず開始から二時間で困った奴はいない。今回の事件が雑魚の集まりなら大抵の人数で叩けば後は時間の問題かも知れない。それなら彼女と別行動を取ることも見当する必要性があるよな?)
そこで私は自分だけが何も出来ていない現状を変えたい一心でスマホを取り出した。今から連絡することは迷惑だと分かっていたけれど、確かめてみない限りは何とも言えないのである。ここで勝手に行動して何かあった場合の責任は取れないから取り敢えず許可をもらって別行動が正式に認められる状態を作りたいと思った。
しかし、通話画面の開始ボタンを押す寸前で大きな音が鳴り響く。それは前方から聞こえて来る音だった。そこで何が起きたのか確かめるために少し距離を空けた双羽の元に駆け付けた。すると、双羽は一人のスーツを着た男性が立ち塞がっている状況に遭遇した。それも、男性は後ろに二体の獣を控えさせている様子が窺えて双羽にどんなタイミングで襲っても可笑しくない状況だった。
「大丈夫かぁ!」
私が隣まで駆け付けて来た時に男性が現状を整理するような一言を吐いた。
「どうやら解決に取り組んでいる霊術師は全員で七人ですね? まぁ、他の戦力を見て分かる通りだと貴方たちが特に弱いこと明白です。あまり弱い相手を探して討つ行為は卑怯にも思えますが、私の役割は戦力の削減に尽力を注ぐことになります。だから、貴方たちを排除して他を渡ろうと思うんですよ」
「はぁ? お前なんかに負ける訳がないだろ! 舐めてんじゃないわよ!」
「舐めているつもりはありません。しかし、時間を掛けたくない気持ちが優先です。取り敢えず我が従魔たちで相手しましょう」
「良いわ。相手してやるんだからね!」
こうして私たちに立ち塞がった男性は従魔を使って交戦に挑む姿勢を匂わせる発言を窺わせた。ここで双羽だけが相手した時に後で死なれたなんてことになった場合はどうやっても責任は取れないだろう。ならば、ここは望まれなくても一緒に戦うしかないと思った。




