第23話「強化された加護の力」
迅速に間合いを詰めて相手が回避する暇すら与えない斬撃を繰り出す。目にも止まらない速度を誇った私の斬撃は女の腕を斬り落とした。
「ギャァァァ⁉︎」
刃物が握られた方の腕が落ちて驚愕した彼女は悲鳴を上げた。
肝心の理穂は殺される前に解放することが出来て生きている。後は彼女をどう始末するか決めないといけなかった。
「貴方は人を殺した。依頼されて殺す奴は金が目的で動くんでしょ? それなら悔いて死んで行く方が良いかも知れないわ」
「ち、畜生ぉ⁉︎ 何で復活が早いんだよ! それに傷が治ってやがる理由は何⁉︎」
「実は私のご先祖様が与えてくれる加護で傷は塞がったのよ。実際に傷を塞いでもらえる機会は今回で終わりだと思う。でも、こうして逆転できたのも先祖様から救われないと駄目だったでしょう。それじゃあ逃げられないためにも片足は機能しなくしてあげるわ」
グサッ!
「うぎゃゃゃ⁉︎」
「これで逃走は無理ね? 諦めた方が良いと思うわ。後で刑務所に送って残った人生を償いながら生きなさい? 分かったかしら?」
「そ、そんな馬鹿な話がある訳ない! 何で私が刑務所で行かなきゃいけないのよ!」
「往生際が悪い。少し気絶してもらうわ」
最後に気絶させて大人しくさせるつよりで拳を振るう寸前で異変に気付いた。それは背後から倒したはずの妖怪が力を取り戻して理穂が危ない目に遭うところだった。
私は素早い反応速度で振り返りながら妖怪を薙ぎ払った。妖怪の胴体が真っ二つに斬れて消滅する中で何とか間に合ったことが安心感を抱かせた。
しかし、女に視線を戻した後から後悔が内心を染める。逃げられない状況下に置かれたことで妖怪を復活させる代わりに魂を差し出して生命を絶たれたのである。彼女はすでに死んでいる様子が窺えて心臓は止まっていた。
「くそっ! さっきの妖怪が復活するために魂が抜かれている⁉︎ まさか逃げるための手段を残していたなんて……!」
私が逃げられたことに不満を抱いて怒鳴った。そこでふと理穂を思い出して視線が彼女に向けられる。視線の先が戻された時に理穂は無事だと確認が完了して安心感を抱いた。どうやら理穂だけは守れたから私としては立ち直れなくなることを避けた。
「理穂! 大丈夫?」
「ガハッガハッ! た、珠美ちゃん……? 無事だったんだ……? 良かったぁ!」
「私も安心したよ! 理穂が助けられて本当に嬉しい!」
二人で危機を脱せて安心する余地があった。後から来た警察官から事情聴取を受けて一連の話を聞いてもらった。話が伝わった後の私たちは解放されて帰宅したところで電斗が慌てた様子で駆け付けた。その後ろから静香姉さんとお父さんも合流して生還したことを心から喜び合った。
後で聞いた話だと依頼を受けて標的が殺せた女は長い犯罪経歴が明かされた。それを受けてお父さんは項垂れて電斗は深刻そうな表情で語る。
「まだ現代でも暗殺依頼が絶えないみたいだな? それだといち早く気付いて阻止しないと多くの犠牲者を出してしまう。それじゃあ俺は納得しねぇよ!」
「分かっているわ。けど、先に情報を入手して阻止するなんて困難よね? やっぱり、犠牲者は出るんじゃないのかしら?」
「そんな結末が続かさせないためにも俺たちが始末して行き、犯罪者たちを最悪を辿った時の恐怖心を植え付けないと絶えないかも知れない」
「世の中は残酷すぎる……」
理穂が現世をそんな一言で示した。私もため息を吐いてから話を切り出す。それはいつまでも固まって悲しんでいる暇はないと踏まえた上で自分は修行に入るためだった。
「私はもう話すことはない。今から修行を始めるから入りたい人は勝手にどうぞ?」
「後で行く。俺にも時間は惜しいからな」
「私も一緒に行かせて? 取り敢えずもっと強くなって救える人を増やしたい。もう後悔して悩まされる時間は減らしたいから……」
「それじゃあ行こうか?」
そんな感じで私と理穂は庭に向かった。すでに着替えていたので、すぐに始めることが出来る状態が整っているからである。
私は前回の一件で取得した結界術を鍛えて慣れる修行が最近のメインとして入れていた。即座に張ることで生命が危うい状況下でも回避する術は身に付けたいと思って取り入れた。
「結界術が機能している間は異術が使えない。だから、本当に守らないといけない時が使い道だと心得ろ」
「はい!」
今日はお父さんが結界術の修行に付き合ってくれている。お父さんは自力で結界術を取得していた人だからご先祖様の加護が強化されたことで使えるようになった事実は驚きだと言う。それほどまでに私は劣等感を抱いてしまうが、それで一向に成長しないことが起こらないための修行を意識している。
最近だと依頼が少なくなって修行する時間が多くなった。それは世間が平和である証だとお父さんは言うけれど、実際は義廻が存在している限りは人が殺され続けていた可能性は捨てられない。だから、いずれ奴は討たないといけない対象として始末するための修行を積み上げた。
(常に結界術はいつでも発動させられる状態を整えて置くと便利だって聞いたわ。けど、戦闘中に結界術にも意識を向けて挑むなんて出来ないわよ。ただ、結界術が適切に発動した時の利点は大きい。ならば、練習して高めて行く方針を取りたいかも知れないね?)
内心は少し結界術を期待することでいっぱいだった。それが原因で人が救えないようだと問題は大きく今後に影響して来る。
結界術の特徴は距離が空きすぎない程度は効果を届けられる。つまり、援護する術師が後ろで守りたい時に結界術を発動させる手段が好ましいと一般人は考えるが、根本的に自身と相手を妨げる壁は味方でも異術を通させない効果が発揮する。だから、咄嗟の防御策として扱う方が普通だと言える。
防御策が少し甘いと思った私は結界術の発動速度と強度を底上げして行けると思えば良いだろう。この成果が今後の一戦で役立つことは確かだとお父さんが告げた言葉を実践で試してみたいと思った。
今日は祝日が三日間は続くので、学校は自然と休みとなる予定が見込まれる。その期間を得て理穂と修行する予定を入れた。休日が取れる日は限られているから凄く貴重な時間だと考えられる。
(取り敢えず結界術を即座に発動させる練習と兼ねて理穂が観てあげよう。それと電斗が時間を空けられると報告があったから三日間は修行に付き合ってもらえると良いわね?)
休日に入る前日の夜は明日から始める修行方針を決めて就寝するつもりだった。事前の準備を整えて置けば次を迎えた時に色々と行動しやすいところが大きいメリットだと考える。
そして朝の五時を迎えて起床する。まずは洗顔をしてから朝食を取るために食事が用意された部屋を目指す。
そこで私が入室した瞬間にお父さんが黙って決められた席に座って待っていた。一言だけ朝の挨拶をお父さんに向けた。
「おはようございます。今日から三日間は修行に集中できる期間を送りたいです。それを実現させるための意識を持って取り組んで行きます。なので、期待して頂けますか?」
「その報告は誠に嬉しい話だった。けど、結局は己を磨いて行く決心が揺らいで終わってしまう場合は大した成果が得られないだろう。ならば、とにかく全力で取り組めると良いかも知れないな?」
「はい」
そんな話が切り出されて場の空気は静まった。そんな部屋に後から二人が遅れて入って来る。
「すいません! お待たせしました!」
「申し訳ない。色々と理穂がトイレから出なかったもので……」
「うるさいなぁ! それは報告しなくても良いでしょ!」
二人はトイレを済ませた後で来る予定だったらしい。私はあまり二人が遅れた事実を咎める気はないが、それよりも後から協力してもらいながら修行する上で喧嘩は止めて欲しかった。
「取り敢えず全員が揃いました。朝食を頂きましょう」
「そうだな」
そんな風に全員を揃えてから食事が開始された。
最近は少しお父さんと話す時が多くなった。前回の一件で気絶した時に現れたご先祖様から頂ける加護が強まったことが大きく理由として挙げられる。自分でも凄く傍に見守られている実感があった。
「最近の依頼はとても落ち着いて来た。この結果は我々としても嬉しい報告だと思う。けど、それは我々が職を失って別のルートを辿らないといけなくなる可能性を表す。だから、本業と別件で仕事を持たないとまずいかも知れない」
「そ、それは本当ですか⁉︎ それはつまり修行の時間を削いで違う仕事を取り入れるなんて出来ませんよ! やっと強くなって来ている段階で修行は減らせません! だから、どうしても違う仕事は探さないと駄目ですか?」
「別に今から探す必要はない。だけど、生計を整えるために仕事は不可欠だ。それを踏まえて少しずつ考えてないといけない話はあるはずだろ? 我々は戦うことしか出来ない一族として見られたい訳じゃない。それは同時に世間が平和になって来た証拠だと思う」
「くっ……! そ、そんなぁ……」
正直、お父さんから告げられる言葉だと思わなかった。確かに生活する上で仕事は大切だと思う。それも私たちは依頼を受けて遂行しても報酬金額は頂いていない。だから、結局は貯金が大量に余っている訳じゃない。それがお父さんの決め手だと自分でも分かっていた。けど、最終的に義廻が倒せていない現状で修行が削られた時に生じる成長の低下は勝率を大幅に失う行為だと考えられる。それを補える策があるなら良いが、それでも修行を減らしてしまうデメリットは大きい。つまり、どちらを背負って生きるのか考えて行動しないと隙を攻められた時のピンチを招く。
(取り敢えず今は修行が減らされることはない。なら、今が一番の鍛錬期間だと考えないといけないわ。早く義廻を倒せる戦力に達していれば少なからず安心感を得られる。だから、とにかく修行は必死に取り組まないと駄目なんだからね!)
食事中に抱いた決意は食卓が沈黙する中で生じた。修行が大事だから真剣に取り組んで行く必要性は十分に考慮している。私が自ら立ち向かっても敗北して守れなかった人々が存在する結果を出すことだけは招きたくないと思った。
私の箸が真っ先に大根を掴んで食べる。私は大根が好きで良く朝食に出してもらえるための話を静香姉さんに持ち掛けている。だから、朝食のメニューで大根は頻繁に出るのが普通だった。
「ご馳走様でした。美味しかったわ。静香姉さんがいつも食事を用意してくれるから私は戦える。それに感謝しなが修行に取り組みたい。ありがとう」
「それは良かった。逆に私が代わりに戦えないことは事実。だから、そんな現状で貴方を支える術は家事だけだと思う。私の心配は良いから修行を頑張って取り組んで欲しいわ。分かったなら早く行きなさい」
「うん!」
そんな声援が私を送り届けてくれた。その気持ちが私から進んで頑張れる理由でもある。
(きっと大事に思う人たちを殺させないわ。いつか美佐を守れなかった後悔を再び背負わないためにも強なる……! 私がどんな悪からも守り抜いて見せるんだから!)
自然と内心が燃えた。それは熱い想いが生じてやる気を起こさせているのだろう。いつしか義廻を倒して世間が無駄に血を流さない社会を実現させない。だから、私は鍛えた身体で戦い続ける。
「遅れて悪い。実は彩斗が後から食卓に来たんだよ。それで朝食を運んで欲しいと静香さんから頼まれて遅れた」
「それは分かったわ。それよりも早く準備して相手を頼みたいのよ。だから、良いから準備しなさい」
「了解」
電斗とこうして修行を手伝わせるのは久し振りだった。最近はお父さんから一人で活動するように言われて修行は別々で取り組んでいたのが理由である。
「少し筋肉が増えたと思うわ? 本当に心から思えた感想よ? 嬉しいかしら?」
「ふっ。それぐらいで喜べる訳がない。けど、気持ちは受け取った。それを受けて情けない感想は抱かせないぜ!」
「良いわね? それじゃあ手合わせ願うわ!」
正面に立った電斗が一段と強くなった感じが伝わって来る。目前で立ちはだかる姿勢から思わせるオーラが桁違いだと物語るようだった。
それでも私は負けられないと心から思えた気持ちを電斗に向けたくて構えた。電斗は構えて来た私を見た瞬間に笑い始める。
「本気で戦う気だったらしいな? もし、俺が勝っても落ち込んで部屋から出て来れなくならないように頼むよ?」
「はぁ? 挑発まで鍛えられているじゃない。マジで怒らせたいのかしら?」
「いや、本気だ。お前が本気を出せるように仕向けたかったんだよ。だって侮られて本気が出せない相手だと思われたくないからな」
「本気みたいね? なら、本気でも良いわ。やるなら全力で来なさい!」
「良いだろう。それじゃあ行くよ?」
互いが対峙した相手を睨み付ける。その視線が合わせられた時に電斗は本気で来ると確信を思わせる。会えなかった期間でどれほどの成長を遂げているのか知りたい気持ちが内心で生じる。
(ここで恥を晒したくない。そのために積み上げた鍛錬でしょ? 簡単に勝ちが譲れるなんて思わないわ。だから、電斗を倒す……!)
互いの闘志が燃えたぎる中で一戦を開始する合図は電斗から告げられる。
「では、始め!」




