第16話「蘇る悪夢」
そこで両者が対峙して先制を取る準備に入った。ここでハゼロの本気で放った爆撃が効かなかった場合は千鶴の勝利が決定する。実際に千鶴は防御しないで受け切る態勢で挑むつもりだった。
千鶴が施している霊術は【黒装】だった。これは身体を黒く染めて硬度と筋力を増強させる異術みたいである。これと天術の【天候操作】で異術を媒体とした気象変化が見られた時の肉体は全体的に強化されてしまう効果が表れるらしい。この二つが身体強化を施す異術である場合だと千鶴に勝る者は大抵はいないと考えられる。それが爆撃を受けても平気でいられると言う状況を生み出した千鶴の力だった。
「準備は出来たようだね?」
「これで耐え切っても本当にお前は俺が殺せるのか?」
「もちろんだ。君は完全に死なせるだけの威力に到達するだけの本気を引き出して打ち込めれば良い」
「そうか。ならば、これで片付ける他は俺の勝利が望めないらしいな……」
そして最後の局面に立ち会った二人は決着を付ける。無防備を晒す千鶴に爆撃を仕掛けるハゼロが構えている段階で凄まじい神力を感じる。奴から滲み出る神力は以前に別空間まで転移した時に感じ取れたエネルギーと同じ質だと言える。つまり、ハゼロは神術を扱って交戦に挑んで来たことが窺える。
「準備は出来た。開始するぞ?」
「待て! 一つだけ聞かせてくれないか? 君は竜種の異術を扱う割に竜化を施す仕草が見られなかった。確かに肉体は頑丈で通常の術師を超えた存在であることは認める。しかし、竜化は君たちに大いなる力を発揮させて究極の形態に変身することが出来る。それを使えば倒せたはずだろ?」
「ふっ。勘違いするな。俺は術師じゃない。【純粋の竜】とでも呼称して置こうか?」
「純粋だと?」
「そうだ。俺の存在は一人の術師から生み出された不完全体と呼称されるサンプルだった。不完全体はいわゆる人間と似た感じの容姿と竜化の行使が出来ない種に属する竜だと言われて来た。だから、他に五体ほどの最強格が存在することを忘れるな」
そこでハゼロが言葉に発した情報は凄い耳を疑う話だった。術師が単体でハゼロのような生命体を作り上げてしまう異術なんて真の神に等しい力だと言える。そんな異術が存在するなら私たちは手の施しようがないかも知れなかった点に恐怖心が抱かれる。義廻よりも強い術師の存在は大きく可能性の一つとして保留して置くべき問題点だった。
そしてハゼロが最後に蓄積した爆撃を放つ姿勢からぶち込まれる。ハゼロは爆撃の発生を合図するような動作を見せる。それと同時に爆撃は千鶴を襲うが、彼は避けることをしなかったが故に直撃は逃れないで受け切った。爆撃が収まった先に千鶴は平然が窺える表情で立っていた。これで勝敗が決まった時点でハゼロの表情が険しくなった。
「じゃあ次は僕だね?」
「なっ⁉」
間合いを詰める速度は私の【天牙一閃】よりではないが、素早い移動を成して縮められた距離は半端ない。すでに逃げる余地がハゼロに決められているはずが、死んでも構わないと思った心情が回避させない理由を起こした。
次々に繰り出される連撃が避けさせてくれる余地のないほどに打ち込まれて行くとハゼロは顔面だけ見ても原型を残さない。それが終わった時のハゼロが意識の失われた状態になってしまう。最後に首を絞めて窒息させることで他界が成立した。
「この一戦は呆気なかった」
「やったぁ! これで今回の一件は達成だね!」
「取り合えず村人はどこかに行ってしまったね?」
「大丈夫。後を辿って行けば合流は出来る」
「じゃあ行こうか?」
そうやって交戦が最後を迎えて無事に全員で生還して目的の千鶴の救出が完了した。
しかし、この後で知る真実は凄い残酷を極めた結果を示すことになる。
「村人はこっちに向かって行ったのかな?」
「手分けして探すのも面倒だ。けど、行き場のない人々が世間に放たれてしまうと問題が起きるだろ? それを阻止しないといけない」
「分かっていたことだけどね?」
そして私と電斗が探した先で事件は起きてしまう。辿った先の森で大きな魔力が感知されて少し不安が脳裏に過ぎった。これは誰かの魔術が発動した合図かも知れないことを考慮して早く現地に向かった。
すると、そこで見覚えのある後ろ姿が見られる。そいつの背中を見た時に嫌な予感がする。その予感は振り返った男の顔が分かった時点で私の恐怖心が抱かれる。
「な、何でお前が……⁉︎」
「おや? こちらまで来ていたのか? どうやら僕の死を確信していたはすが期待は外れたようだね?」
「ふ、ふざけんなっ! お前が生きているなんてあり得ない!」
「どうしてそんなことが言えるんだ? 実際に僕は君たちの前にいるだろ? それが事実の他にないことだよ」
「くっ!」
そんな最悪の展開を迎えた時に思い出したことがあった。それは私が初めて会った時も首を斬って倒したはずが何故か生きていたから美佐を助けられなかった。つまり、義廻は複数に分身する異術が扱える可能性が高い。しかし、それなら義廻を倒すなんてことは敵わないと思った方が自然だ。けど、こいつを生かして置けるほどの余裕はない。なら、再び殺害するしか選択肢はないと判断した。
転移させて握った護霊刀を構えて交戦に入る姿勢を整えた。しかし、そこで隣にいた電斗が交戦を開始する前に私を止めた。
「止めて置け。今から交戦は厳しい」
「何で! ここで殺さないなんてあり得ないでしょ!」
「だから、さっきは楽典さんが一緒に戦って勝利した。つまり、二人しかいない現状で勝利は難しい」
「で、でも!」
「もう遅いんだよ。きっと追い掛けて来た村人は一人も生かされてない。あいつの異術はさっきの交戦で明かされた。殺して魂を取り込めるなら以前よりも強くなっているはずだろ?」
「そ、そんなぁ……」
電斗の憶測が語られた時に義廻は笑いながら真実を明かした。村人たちがどんな末路を辿ってしまったのか義廻が全てを包み隠さないで話す。
「そうそう、村人は用済みだから殺した。僕の異術は殺害することで強化されるほどに優れている。彼の言った通りの結末は君たちの望まない結果だと思う。それじゃあ僕はお先に失礼するね?」
そんな一言だけが残された後で怨霊が出現する。これは義廻の駆使する【死霊操作】で呼び出された怨霊に違いない。まずは解き放たれた怨霊を倒さないと森は危険地帯に変わる。
「珠美! 二人で怨霊だけは祓うぞ!」
「うん!」
今度は電斗と一致して倒す方針を取った。相手は凄まじい霊力を誇る怨霊で、私だけだと倒せないと思うぐらい強かった。しかし、この場は電斗に協力してもらうことで目前の怨霊が祓える戦力は持っていた。
最初に電斗が電撃を放って痺れさせる。一時的に痺れて動けない怨霊に斬り掛かって行く私は始めに腕を切断する策を通す。けど、腕が切断される前に怨霊が行動を開始したことで狙いが外れた。腕の両断に失敗して微かに切り傷が出来た程度で済まされてしまった点が惜しいと思わせる。
「くそっ! 外れたぁ!?」
「問題はない! だけど、次に怨霊の攻撃が来る! 避けるんだ!」
「分かった!」
怨霊は手に握った大鎌を振り上げた。その大鎌が振り下ろされた時に私は護霊刀で向かった。大鎌の矛先を電斗に向けないように施して最後の一撃を彼が受け持った。
電斗は両方の掌を相手に向けて電撃の放出を開始する。
「食らえ!」
いつも以上の強度を増した電撃が怨霊に向けられた時から直撃までのタイミングを計って回避した。回避に間に合ったことで電撃は直撃にミスを起こさなかった。怨霊は回避する意思を表させないのが基本で殆どの危険を顧みないので特に攻撃は当たると言う認識が正しい。
「これで片付いたな?」
「うん。それにしても【死霊操作】は厄介だよ。あれは手持ちの死者を操れる。それも無限にストックが可能なんてアドバンテージは最強だ」
「俺たちも奴の攻略法を掴まない限りは倒せないと知った。あいつは何度でも蘇る訳じゃないならどこかに弱点があるはずだと思う。平安時代にも生きていたぐらいの長寿なんだから昔の術師は弱点を知っている可能さは高い。後で図書室なんかにも手を回そう」
「それが良いね? 早く楽典さんに報告しよう!」
そんな感じで私たちは村人を追って行った三人と合流した。合流する時はスマホで連絡して待ち合わせ場所を決めて落ち合った。私たちの合流は二時間後になってしまったが、それでも特に大きな問題は起きることがなくて良かった。
一方で初めて最近の世を見た千鶴は凄い好奇心に溢れた姿が見られた。そこで楽典さんが出した金額を使って千鶴が買い物に熱中した。それらの金額は全て千鶴で殆ど使い果たして清原家に帰った。
「凄く楽しかったぁ! 長生きするのも意外と良いなぁ!」
「そんなにはしゃぐほどでもないだろ。しかし、二千万円を一人で出し切ってしまう楽典殿が羨ましい。俺にもそんな財産があったら嬉しい限りだよ」
「彩斗はお金が好きだもんね?」
「おう!」
弟の彩斗が千鶴を連れた買い物に付き合ってくれた。千鶴が行きたいところに連れられることを嫌がらないで来てくれた点に感謝している。やはり、彩斗はお父さんとお母さんの性格を半々で分けたような人間性を持っていた。
現在は神主の仕事に就くための修行をしている彩斗だが、最近はお父さんの指導にも慣れて来たことで少しずつ似通い始めたところが見られる。しかし、神主としての意識は誰よりも高くて引き継ぎたい気持ちは十分に強かった。
「ただいまー!」
「三人ともお帰りなさい」
「風呂の準備はまだ?」
「もう入れるだろう。早めに入ってくれ。後が詰まる」
「了解!」
私は取り敢えず家庭内でも女としての立場が順番の優遇を受けられる権利を握っているが故に風呂は早く入れてしまう。
「静香姉さん! 失礼するよ?」
「んぅ? どうぞ」
私が脱衣所に入った時点で先に風呂場を使っていた綾瀬静香の姿があった。静香姉さんはうちの祭司係を担当する巫女で従姉に当たる存在だった。静香姉さんにも霊術は使えるが、戦闘に向いた異術でもないから除霊は出来ない。しかし、人の心も身体を癒す効果をもたらす【祈祷】と呼ばれる霊術が扱える。これは主に祈りを捧げることで対象者を安らげる効果が起こせる。これで病気とか怪我の回復が早まって本来の二倍は治療速度が上がる。
そんな静香お姉さんが身体を洗い終えるまで湯船で待機する。私は静香姉さんと凄い親しくて昔から共に巫女として活躍しようと誓った仲である。それが現在に至ってもちゃんと守れている点はお互いに立派だと思っていた。
「私はもう出るからちゃんと洗わないと駄目だよ?」
「もちろん。それぐらいは分かってる」
「それともう一つだけ。前の一件はご苦労様でした。貴方の活躍で仲間が増えたことは事実なんだから今後も期待して応援するね?」
「ありがとう。私はこれからも頑張れる気がする」
「お先に失礼」
そうやって静香姉さんは一言だけ残して風呂から去って行く。私は去った静香姉さんの姿を見届けてから身体を洗うために場所を移った。
以前に起きた一件で色々なことがあったが、一番の気掛かりは義廻の生存が分かってしまった点が大きい。あれだけ苦労して倒した難敵が生きていたなんて思いたくなかった。あいつがいる限りは世間が良くならないことは理解している。だから、次に遭遇した時までに強くなって倒さないと災いが広まる。またどこかで義廻に殺されている人々が存在する可能性は考慮していた。何せ義廻は人を殺すメリットがあるから平気で葬る行為に至れる存在だ。それが私の内心を大きく揺るがした。しかし、私が奴に屈することはない。だって私は一人じゃないからだ。周りに生きて欲しい人たちがいてくれるから存在意義がある。それを失いたくないから挑戦するんだと言い聞かせて来た。どうやっても義廻の存在を許しては世間の治安は守られない。なら、ここは【異術統制師団】の協力を願い出る方が良い気がする。
(本当に信じて良い人たちなのかな? もし、総員でも倒せない奴なら私は自害を選ぶ他に示しようがないんだよなぁ。平和が乱されるなんて嫌だ。絶対に倒したいんだよぉ)
内心で思っていたことが溢れ出た時に私は美佐を思い出した。あの一件があって美佐が死んで私の人生は一変している。美佐に祈りを捧げる行為は早朝の日課として欠かしたことはない。それぐらいに美佐は大切だった。けど、守れなかった。そんな後悔の念と殺した張本人に対する復讐心が入り混じって力となる。
「仇は取る。そう決めたなら絶対にやり遂げないと駄目だ!」
そう内心に誓った時から今後の修行で意識することを変えて行く必要性を求めたいと考えていた。実際に現在の修行だと不足しているところが多いと思う他に強くなる方法はないだろう。ならば、もっと厳しい修行をお父さんに頼んで鍛えたいと希望を抱いた。




