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日本の民間衛星会社オペレーター

次に記録するのは、2027年の台海衝突直前において、日本の民間衛星企業「宙視社そらみしゃ」に勤務していたリモートセンシングオペレーター・中山 慎吾なかやま・しんご氏(当時36歳)の証言である。


彼は、台湾本島および福建沿岸の画像データを日常的に扱っており、開戦10日前から“異常パターン”を複数検出していた数少ない民間技術者の一人だった。

この証言は、戦争の“予兆”が非軍事領域からも観測されていたこと、そしてそれがどのように政府と結びついていったかを示している。



PTFインタビュアー

「中山さん、あなたは台海衝突の約1週間前、福建省沿岸や台湾周辺で異常な衛星画像を確認していたと記録されている。

具体的にどのような兆候が観測され、社内ではどう扱われていたのか?」


中山 慎吾(宙視社・衛星画像解析オペレーター):

「はい、最初に異変に気づいたのは2027年3月8日午前11時、福建省泉州市周辺の画像でした。

定期観測のL2処理データにおいて、5つの港湾施設で異常な夜間照度変化と、ミリメートル単位での構造物配置変更が同時に発生していた。


通常であれば誤差として処理されるレベルでしたが、解析AI“ZenView-13”が“戦時モビリゼーションの確率86%”を警告として出力。

これは私のキャリアで初めて見る閾値でした。


その後3月10日〜14日にかけて、平時では不必要な遮蔽テント群が滑走路に出現。さらに金門島西側の山間部に仮設構造物の熱源が新たに検出されました。

これが決定打でした。“作ってるのは迎撃施設ではなく、出撃前の待機バンカーだ”と、我々のチーム内ではすでに確信していた。」



PTF(補足質問):

「それだけの情報があれば、政府にも警告が届いたはずだが、実際にはどう扱われたのか?民間から発信されたリスク情報がどう活用されたか、詳しく教えてほしい。」


中山 慎吾:

「我々は3月12日午後、経済産業省・防衛技術監視室への非公式通報を行いました。

ただ、民間からの画像情報は当初“誤認の可能性あり”として、公式通達まで48時間以上のタイムラグがありました。


最終的に“宙視社第9号警告”として内閣危機管理センターに共有されたのは、開戦わずか60時間前の3月15日早朝でした。

その時点でようやく、日本の商用衛星5機が緊急軌道調整され、与那国・宮古・石垣に重点観測が集中配備されました。


ただし――

本音を言えば、“すでに遅かった”と感じていました。衛星は事実を写してくれますが、“未来は待ってくれない”。

私たちは空から真実を見ていたけれど、地上の意思決定が追いついていなかった。

“民間が見ていた戦争の前夜”が、国家の現場にはまだ届いていなかった。それが現実でした。」



PTF(追加質問):

「あなた個人としては、その経験を経て何を感じたか?衛星という“神の視点”から戦争を目撃した技術者として、どんな心境が残っている?」


中山 慎吾:

「衛星って、見えるけど、手が出せないんです。

だから、“見えていたのに止められなかった”という感覚が、今も頭にこびりついています。


私はデータ屋です。感情は後回し。でも、3月18日の夜、台北の照明が一斉に消えていく画像を見たとき、モニターの前で初めて涙が出ました。

“これはもう、防災でも防衛でもない。記録されるだけの悲劇だ”って。


空から見ると、国も境界線もない。ただ、人の営みだけが消えていく。

それを黙って撮り続けるしかなかった――それが私の戦争体験でした。」




この証言は、最先端技術が“警告の言葉”を発しても、国家の判断がそれに間に合わなかった構造的ギャップを明らかにしている。

中山氏のような民間技術者が“戦争を未然に見ていた”という事実は、衛星データがすでに戦略情報の最前線となっていたことを象徴していた。

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