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中国国内SNS検閲アルゴリズム担当者(心理戦の実像)

次に記録するのは、2027年の台湾軍事衝突時に中国・深センの国家情報技術センターに勤務していたAIアルゴリズム技術者、馮 雨辰フェン・ユーチェン氏(当時29歳)の証言である。


彼は、SNS・動画共有プラットフォームにおける“情動誘導型検閲AI”の実装担当チームに所属し、当時の「国内世論操作プログラム」の中枢にいた。

この証言は、戦時下における中国内メディア統制と、国民感情をどう制御したかの実像を語る貴重な記録である。



PTFインタビュアー

「馮氏、あなたは2027年当時、中国政府のSNS検閲アルゴリズム部門にいたと記録されている。台湾侵攻開始後、実際にどのような指示が下り、何が行われていたのか?」


馮 雨辰(元・国家情報技術センターAI検閲チーム):

「命令は明確だった。“軍事作戦開始から72時間以内に、国民の75%以上を“戦果期待モード”に誘導せよ”。

これは抽象的ではなく、SNS上の投稿・リツイート・動画コメントなどの感情タグをAIが解析し、“期待”という情動に近い言語・絵文字・ハッシュタグを自動拡散する設計だった。


我々が使ったのは、2026年から試験導入されていた**“ZF-EmotionRank”というニューラルフィルター型AIだった。

このAIは、個々のユーザーが“感情的にどの位置にいるか”をスコア化し、過激化や懐疑傾向があれば、投稿が非表示化されたり、“ポジティブ集団”の中に自動で囲い込まれる**設計になっていた。


戦闘開始から48時間で、微博上の“冷静”という単語は97%の表示率制限がかかった。“敗北”や“無謀”といった単語は、即時削除対象だった。」




PTF(補足質問):

「では、“政府に疑問を抱いた市民”や“実際に台湾からの攻撃を受けた沿岸部の人々”は、どういう扱いを受けていたのか?リアルな情報は全て遮断されていたのか?」


馮 雨辰:

「遮断だけではない。“情動の置換”が命令されていた。

例えば、廈門市で実際に空襲警報が鳴った地域では、その位置に近いユーザーのフィードに、“自衛の誇り”や“歴史的正義”を称賛する動画が優先表示される。これは、“感情の再配線”をAIで行う、文字通りの心理戦だった。


さらに深刻だったのは、“模倣共感型Botネットワーク”の存在。

これは市民を装ったAIアカウント数万件が、自動生成の“家族を前線に送った物語”を投稿し、“我が家の息子も祖国のために”というテンプレートを量産。

それに共感したユーザーの投稿が“優良情動”としてプライオリティ化された。


現場では、それを“感情の勝利率”と呼んでいた。

人の怒りや恐怖に先回りして、“希望と誇り”を先に植え込む。

だが、我々の中でも限界を感じる声はあった。

“どこまでが現実で、どこからが作られた同意なのか?”という自問が、徐々に広がっていた。」


PTF(追加質問):

「あなた自身、その時の行動をどう捉えている?個人的な感情の範囲で構わない。AIで国民感情を操作するという経験を振り返って、何を思うか?」


馮 雨辰:

「冷静に言うなら、“それが仕事だった”という以外に、最初は言葉がなかった。

だが、3月末に内々で発表された統計資料で、

“操作対象となった感情投稿の85%が18〜24歳の層に集中していた”

このことを知った時、心が冷えた。

未来を作る若者の“信じる感情”に、私たちは手を突っ込んでいたんだと。


戦争は武器だけじゃない。“何を信じるか”を制御した側が勝つ時代だった。

でも、それに加担した事実は、今も私の中で消化しきれていない。」




馮氏の証言は、情報空間の戦場化がいかに高度化していたか、

そして“世論形成の自動化”が国家戦略の中枢に組み込まれていた実態を明らかにしている。

彼のような内部関係者の回想は、戦争における“見えない武器”の運用史として重要な意味を持っている。

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