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金門島駐留の台湾軍通信分隊所属兵士

次に記録するのは、2027年3月17日午前3時、台湾時間における台海戦争の開戦初動で、真っ先に“通信を失った側”として最前線の孤立を体験した、金門島駐留の台湾軍通信分隊所属兵士――伍長・鄭 弘仁ジェン・ホンレン氏(当時22歳)の証言である。鄭氏は、金門島西部・烈嶼リエユィ側の通信観測所にて、軍用回線・短波監視・電波環境測定を担当していた分隊員の一人であり、戦争勃発の瞬間に、“誰よりも早く沈黙を知り、誰にも伝えられなかった”通信線上の最前線にいた。この証言は、爆発も銃声も届く前に、戦争が“波のない静寂”として始まった島――金門の実態を、“開戦からの最初の5分間”に凝縮した、現場当事者の記録である。



PTFインタビュアー

「鄭伍長、2027年3月17日午前3時。あなたは通信分隊として、金門島西部の前線監視所に勤務されていたと聞いています。開戦直後の5分間、何が起きていたのでしょうか?」


鄭 弘仁(元・金門駐留通信分隊伍長):

「午前3時03分、まず“短波が二重に折り返し始めた”のを確認しました。具体的には、通常、福州・廈門側の軍用短波は不定期変調で一定の遅延があるのですが、その瞬間、“一定周期・高出力・指向性”の信号が島全域に打ち込まれた。我々の観測装置のログでは、“受信じゃなく照射”と出た。つまり、“見られた”んです。我々が。最初に。」


03:06、我々が使っていた衛星通信端末(軍用Ka帯)が突如“回線内エラー”を起こし、表示には“干擾偵測・再連線中”と出た。だが復旧せず。3分間、何も通じない。その瞬間、上官がこう言いました。『戦争已經開始,但無人通知我們。』(戦争は始まった。だが誰もそれを知らせてこない)」



PTF:

「つまり、“通信が絶たれることで、戦争の開始を知った”と。島に爆撃や侵攻が始まる前に、分隊として最も緊急だと感じたのは何でしたか?」


鄭 弘仁:

「一番怖かったのは、“味方との通話が成立しているフリをする”ことを命じられたことです。我々の指揮系統は、“状況不明時には既定応答を繰り返す”よう設計されている。つまり、通信が切れても、“つながっているように振る舞う”マニュアルがある。


3:08:中央との音声が切断

3:09:我々は“金門応答中、天候良好”という偽メッセージをリピート送信


だが、誰もそれを受け取っていない。我々は“無人の通信先に、正常のフリを送っていた”。これは“戦わずして孤立した”最初の瞬間でした。」



PTF:

「結果として、金門は完全な占拠を受けることなく、侵攻部隊は短時間で撤収しました。しかし、あなた個人の体感として、あの“5分間の無音”はどう記憶に残っていますか?」


鄭 弘仁:

「正直、発砲も爆発もなかった。けど、“世界から切り離される感覚”は、戦場そのものでした。3:10以降、レーダー班からも音が来なくなった。整備班の一人が、静かにこう言ったのを覚えてます。

“我們還在嗎?”(俺たち、まだここにいるんだよな?)

そのとき思いました。戦争って、始まるときに音は鳴らないんだって。“聞こえない”ってことが、最初の攻撃なんだって。だから私は、あの“最初の5分間”の記憶だけは、爆音よりも深く心に残っています。」



この証言は、金門島が“第一撃の着弾地”であると同時に、“第一沈黙の発生地”であったという歴史的真実を明らかにするものだ。鄭弘仁のような兵士は、銃を撃つ前に“つながらないことを知る”という戦場の本質と対峙していた。そしてその5分間こそが、2027年台海戦争の“最初の戦闘”であった。

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